メダカが「絶滅危惧種
(絶滅危惧Ⅱ類)」に分類されているのは知っているかな? 学校や家でもよく飼育されている生き物なのになぜ? と思う子もいるかもしれないね。絶滅危惧種に指定されたのは「野生のメダカ」で、飼育されているメダカではないんだ。そして実は、野生のメダカの危機
の一側面に、この飼育用のメダカも関わっている。長年メダカの研究を続けている成瀬清先生がわかりやすく教えてくれたよ。
保護区域にいる、人が手放したヒメダカ
メダカが絶滅危惧種に指定されたこともあり、各地でメダカ保護区が設置されています。野生メダカの保護は、メダカを含
めた環境
の保全という意味で良いことであると思います。しかし保護地に行ってみると、ほとんどの場所でヒメダカが見つかります。このようなヒメダカは、家庭や学校で飼育されていたものが増えすぎて、人の手によって野外に放たれたものです。
地域ごとに異なる多様な野生メダカ
それぞれの地域
の野生メダカは、その地域の長い歴史の結果としてそこにいます。外見はどこのメダカもよく似ていますが、遺伝子
を調べると地域ごとに固有で、それぞれ異
なっていることがわかってきました。それぞれの地域の野生メダカは、それぞれの地域の数万年から数百万年の長い歴史を反映
した結果なのです。これは、決して人がつくることができないその地域の宝物です。
ヒメダカの放流により遺伝子が変化してしまう
それに比べ、ヒメダカは人が長く飼育してきたメダカで、江戸
時代にはすでに飼育されていたことが知られています。ヒメダカは体色や性質、そしてもっている遺伝子
も、その地域の野生メダカとは違います。そのようなメダカを野生メダカが棲
んでいる場所に放すと、ヒメダカと野生メダカが交配して、本来そこにはいないような遺伝子をもつ子孫がたくさん生まれることになります。それが繰
り返されると、いつの間にかその地域に固有であった野生メダカの遺伝子は、その特徴
を失っていきます。メダカはいても、自然にはいないはずの別の遺伝子をもつメダカに変わってしまうのです。
その地域の野生メダカを保護し、未来の子供たちに伝えることを目的とした保護区の設定がヒメダカの放流を促
してしまい、いつの間にかその地域の野生メダカを駆逐
するという皮肉な結果をもたらすことになります。
自然が長い歳月
でつくってきた野生メダカも、人がヒメダカを放流するというほんの一瞬
の行為
で、いつの間にか違
うメダカになってしまいます。飼育しているメダカは最後まで責任をもって飼育してあげてください。野外に放されても、メダカは決して幸せではないのです。またそれが、その地域の自然を壊
してしまうことにもなるのです。
著者プロフィール
成瀬 清(なるせ・きよし)
基礎生物学研究所バイオリソース研究室特任教授。理学博士。調査のために多くのメダカを飼育し、メダカの進化や遺伝子の研究をしている。