うまい人の脳の指令が自分の脳の中で体験できます
私たちの体は、「こう動いてね」という脳からの指令によって動きます。そのため、うまくプレーするためには、脳からの正しい指令が必要です。例えば、体操で前転をするときの手の動かし方を考えてみましょう。手をつくタイミングが遅すぎたり、床を押す力が弱すぎたりして、前転ができないことがありますが、これは脳から間違ったタイミングや強さの指令が体に送られたためです。つまり、スポーツがうまい人は、指令を上手に出せる脳を持っているのです。では、なぜうまい人は、上手に指令を出せる脳を持っているのでしょうか? 生まれつきというわけではありません。うまい人は、たくさん練習をして、いろいろな指令を体に送って試してみて、うまくいく指令はこれだ!と発見したから、上手に指令を出せるのです。
この上手な指令の発見は、自分で体を動かさなくてもできます。それが、うまい人を見るという方法です。私たちの脳は、他の人が運動しているところを見ると、その運動をまるで自分自身が行っているかのように活動します。つまり、うまい人のプレーを見ると、うまい人の脳の指令が自分の脳の中で体験できるのです。この脳の働きをミラーニューロンシステムといいます(図)。
こうした脳の働きから、うまい人のプレーを見ると自分もうまくなるということが起こります。ただし、このシステムは、まったくできない運動を見ているときには働きません。例えば、テニスをやったことがない人がテニスの動きを見ても働きませんし、あまりにもうますぎる人を見ても働きません。実際に、かなり上手に運動ができる人を見て練習する人と、自分より少しうまい練習中の初心者を見て練習する人だと、練習中の初心者を見た人の方が上手になるという研究があります。
(鹿屋体育大学体育学部准教授 中本浩揮)
図 ミラーニューロンシステム。