種の維持に必要な能力が備わるまでの時間が違うから
私たちは体が成長して大きくなりきったときが「大人になったとき」と考えていますが、生物学的には、生殖能力が確立し次世代を育むことができるようになったときが「大人になったとき」と考えます。
生殖能力は、動物種の寿命(何歳まで生きられるか)と関係があります。生殖能力が早く備わる種ほど寿命は短く、寿命が長い動物ほど大人になるまで時間がかかります。人では14~16歳、パンダでは4歳くらいで大人になります。
寿命が長い生物ほど生殖能力が確立するまでに時間がかかります。その理由はわかっていませんが、生殖能力が発達するには脳からホルモンが分泌される必要があります。そのホルモンは脳が成長するまでは分泌されません。脳が種に合わせた必要レベルに成長するまで待っているということです。
親が子を育てるときは、季節ごとに何を食べればよいか、敵にどう対抗すべきかなどを親がよく知り、それを子に伝えます。これらができるように脳が成長するまで待つ時間が、大人になるまでの時間と考えられています。次世代が1人で生きていけるようになったころ、親は死ぬように遺伝子にセットされているようです。これができるような種だけが進化の過程で生き残り、今に至ったともいえます。
(防衛医科大学校教授 西田育弘)
写真 笹を食べるパンダ。