なぜ子供は夜9時までに寝ないといけないの?

脳と体の正しい成長・発達のため

脳は、特に生まれた直後から10~12歳まで急速に成長して容量を増やし、生きていくための視覚・聴覚の情報を大量に整理し蓄えます。このとき、睡眠が重要で、寝ている間に覚醒中に得られた大量の情報を(あなたが意識していない情報も含んで)脳のしかるべき部位へ整理・整頓し、固定します。
また、思春期には成長ホルモン・副腎皮質ホルモン、続いて性ホルモンの分泌が増加し、男女とも急速に体が成長・変化・発達します。これらのホルモンも睡眠中に分泌が増加します。
同時に、脳は自己や自分の周囲を認識する機能が発達します。特に成長ホルモンは入眠とともに分泌され、睡眠中のノン・レム期(脳神経活動が休止する時間帯、徐派睡眠期ともいう)に分泌を繰り返します。
思春期から25歳ごろには、それまでの成長・発達を基に思考・想像力・創造性などヒト特有の高等脳機能がさらに発達・発展します。寝ている間に心も体も成長するのです。脳は寝ている間に大量の情報を整理・整頓しているので、強制的に断眠させると、判断力の低下や、幻覚・妄想が出現し感覚機能まで障害が起こることがわかっています。
これには、時刻も重要です。脳の中に時刻を刻む神経細胞の塊(約8000個の細胞群、中枢時計という)があり、周囲が暗くなり始めると徐々に活発化し、睡眠を誘発する松果体ホルモンを分泌します。周囲が明るくなると、このホルモン分泌が低下し眼が覚めます。この睡眠・覚醒のリズムを概日リズムといい、脳が中心となって全身の細胞で昼間活動と夜間活動を区別するようなリズムを形成しています。暗い間に脳は情報整理を、体は昼間使用したエネルギーなどの補給・充足を行い、次に来るはずの昼間活動を支える準備をしています。
電気・電灯のテクノロジーが発達する19世紀後半まで、ヒトを含む多くの生物は昼(活動)と夜(発達と準備)の繰り返しの中で進化・進歩してきました。この発展過程とともに発達してきたのが概日リズムと生命機能です。
数億年をかけて築いたこの機能は、150年くらいでは変化しません。生命の営みに素直に従った方がより有益な人生になることを年寄り達は体験的にわかっているから、「夜9時には寝なさい」と大事な子供に教えているのだと思います。
(防衛医科大学校 西田育弘)

図 1日の成長ホルモン濃度の変化(mIU/L)

1日のうちでも睡眠時、特にノン・レム睡眠時に増加していることがわかる。

最新号好評発売中!

子供の科学 2024年 12月号

CTR IMG