できるだけ速く走るために、消音装置をつけないから
エンジンは、中で燃料が激しく燃焼して、その急激に膨張したガスでピストンを動かすことで、動力を発生しています。
この燃焼ガスが急激に膨張したときに、バーン! という破裂音(インパルス音)になります。そして排気管の先からこのインパルス音が出てきたときに大きな音として聞こえてくるのです。
乗用車は、大きなエンジン音をさせないように消音器という装置をつけています。排気管の先に大きな部屋を設けて、その中でインパルス音を弱らせます。でも、この消音器は排気ガスが抜けるのを遅くしてしまい、エンジンの性能を下げてしまいます。
レーシングカーは速く走るために、車体をできるだけ軽く、エンジンの出力をできるだけ大きくします。消音器は重く、エンジンの力も下げますからつけません。さらに、排気ガスがすばやく抜けるように排気管を設計しますから、結果としてものすごく大きな音がするのです。
このインパルス音のもととなる激しく膨張した排気ガスは、強い勢いを持っています。最近のレーシングカーでは、この排気ガスの勢いを利用して風車を回し、その軸の先についたもう1つの風車でエンジンにより濃い空気を送ることで、さらに大きな出力を得る「ターボ過給」という方式が増えています。ターボ過給は少ない燃料で大きな力を出せるようにできるので、F1など多くのレースで採用されています。
F1はさらに、この風車で発電機も作動させています。風車によって排気ガスの勢いが弱まるため、インパルス音も小さくなります。おかげで最新のレーシングカーは少し静かになっています。耐久レースでは、高性能なターボ過給装置のおかげで、まるで消音器をつけた自動車のように静かなレーシングカーもあります。
(小倉茂徳)
普通の自動車の消音機(手前の大きな筒のような部分)。
中はいくつかの部屋に仕切られていて、排気ガスの勢いを弱らせることで音を小さくしている。
最新のF1 用ターボエンジン。横向きに伸びた黒い筒状の部分が排気管。
その先(画面右側)にある丸い部分がターボ過給装置。(画像提供/ Honda)