ミクロな世界とマクロな世界の違いを示した思考実験です
僕らの体をつくっているのは、原子や分子などのミクロな存在です。ミクロは目に見えないほど小さいという意味です。一方で原子や分子が組み合わさってできたのが、身の回りにあるマクロな物質です。マクロは目に見えるほど大きいという意味です。ミクロな世界とマクロな世界の大きな違いは、「区別ができるかどうか」です。ミクロな世界では仲間同士は区別がつきません。しかしマクロな世界では、例えばそっくりにつくった泥だんごでも、粒の形や数が違うため完璧に同じものはつくれません。
ここでミクロな世界の代表である光を用いた実験を紹介しましょう。壁にレーザーを照射して、間に髪の毛を差し込みます(図)。すると壁には光の縞模様ができます。光が髪の毛にぶつかる以外は、髪の毛の左か右を通って壁に到達するはずです。左を通った光は左側を、右を通った光は右側を照らすはずです。しかしできたのは縞模様。ここで質問です。「あなたは光がどちらを通ったのか区別できますか?」
そうです。実は区別ができません。光の道筋は左も右も可能性が残されています。実験では、このどっちつかずの状況のまま光が壁に飛び込むことで、常識とは異なる縞模様が生み出されます。「左も右も可能性を残すだって? そんなことがあるのか?」。人々は頭を悩ませました。こうした悩みを表した想像上の実験が「シュレーディンガーの猫」です。例えば光が左を通ったら毒ガスが出て、右を通ったら毒ガスは出ないしかけをネコと一緒に箱の中に入れます(あくまで想像です)。外でスイッチを押したら光が放出されるようにします。スイッチを押して箱をあけてみましょう。ネコは生きている? 死んでいる? それともどちらの可能性も残される?
もし左も右も光の行方として可能性が残るのであれば、箱の中のネコは生きている可能性も死んでいる可能性も残されるという驚きの状況になります。重要なポイントは、「区別ができるかどうか」です。マクロな存在であるネコは区別のできる存在です。光の行方はネコの状態を見れば一目瞭然でしょう。もちろん実際には上の状況にはなりえません。でも、ミクロなものを積み重ねてマクロなものをつくり出しているのだから……。うまくやれば、もしかして……?
(東北大学大学院情報科学研究科准教授 大関真之)
図
普通に考えると、レーザーポインターの光は壁を照らすだけだが、実際には光の縞模様ができる。
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