多くの場合、鳥などの動物から食べられないようにするため
ある生物が何かに似せて他の生物をだますことを一般に「擬態」と呼びます。擬態は多くの動物に見られますが、特に昆虫ではさまざまなタイプの擬態が見られます。最も多いのは、「食べられないようにするための擬態」です。昆虫は鳥や小型~中型動物の格好のエサになるため、進化の過程でそれを避けるさまざまな工夫がなされました。
最もよく見るのは、葉、枝、幹など身の回りのものに色や形を似せて、見つかりにくくするやり方です。マンションの白い壁に止まった白いガは見つけにくいですね。これは隠蔽型擬態やカムフラージュと呼ばれます。
一方、危険な生物に姿形を似せる擬態もよく見られます。ハエの仲間で黄色と黒の縞模様が特徴的なハナアブの多くは、ブンブンとハチそっくりに飛び回ります。捕食者の多くは、どの生物が危ないかを経験的に学習し、その姿形を記憶しています。したがって、それに似た生物を見ると避けよ
うとします。このような擬態は発見者のベイツ氏(150年ほど前のイギリスの博物学者)にちなんで、ベイツ型擬態と呼ばれています。沖縄にいるシロオビアゲハは、毒のあるベニモンアゲハに似せたベイツ型擬態をします。不思議なことにこのチョウはメスの一部だけが擬態します(写真)。卵を持つメスの方が大きくおいしいので、捕食者に狙われる危険性が高いのかもしれません。最近、オスになるかメスになるかを決めている遺伝子がシロオビアゲハの擬態を調節していることがわかりましたが、他の擬態の多くでは原因となる遺伝子はまだよくわかっていません。
毒を持つ生物同士がお互いに似せる擬態はミューラー型擬態と呼ばれます。中南米のヘリコニウスという一群の毒チョウでは、遠縁のチョウの間でも翅の紋様が似ています。似た紋様の個体数が増えることで、捕食される頻度が下がるのかもしれません。
肉食の昆虫などでは、「食べるための擬態」も知られています。ハナカマキリはランなどの花にそっくりですが、これは「花」に近寄ってきた昆虫を食べるための作戦です。深海のチョウチンアンコウが頭の突起をエサのように揺らして魚をおびき寄せるのと同じですね。このような擬態は攻撃型擬態、ペッカム型擬態と呼ばれます。
(東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 藤原晴彦)
写真 ベイツ型擬態の様子。
(画像提供/東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 藤原晴彦)