脳の左右では働きが違います。なぜ左右に分かれているかまだ答えは出ていません
人間の体は外から見ると、顔も手足も左右対称です。実は脳も見た目は左右でほとんど同じですが、左右で働きが違います。ほとんどの人は、言葉を話したり、物事を筋道立てて考えたりするときに左脳が働き、音楽を聞いたり直感的に何かを決めたりするときに右脳が働きます。脳は左右で役割分担していますが、左右バラバラに働くわけではありません。
脳には「脳りょう」と呼ばれる左右の脳をつなぐ通路があり、そこで左右の脳が話し合いをしながら脳全体で働いているのです。脳の左右で働きが違うことを発見したのは、アメリカの研究者たちです。彼らは、脳の病気の治療のために、脳りょうを切断する手術を受けた人の左目だけに車などの絵を見せて、名前をいってもらうテストをしました。すると、脳りょうを切断した人は、見た物の名前をいえませんでした。なぜでしょう? 手術を受けていない人では、左目で見た物の情報は右脳に伝えられます。そして脳りょうを通って、言葉を話すのに使われる左脳に情報が伝わり、見た物の名前をいうことができます。脳りょうを切断した人では、見えた物の情報が右脳から左脳へ伝わらないので、右脳だけを使って物の名前をいおうとしますが、右脳には言葉を話す働きがなく、物の名前をいえないのです。
どうして脳は左脳と右脳に分かれているのでしょうか? その答えはまだ出ていません。人類は脳の大きさや形を変えながら長い時間をかけて進化し、言葉を使ったり道具や技術を開発したりできるようになりました。これは想像ですが、さまざまな働きを脳のあちこちで分担することで、人間は他の動物にはない能力を持つようになったのかもしれません。ただし、左右の脳を使い分けるのは人間だけではありません。例えばイルカは哺乳類なので、眠っている間も海上に上がって呼吸をしなければ死んでしまいます。そのため右脳と左脳を交代で休ませて眠っているそうです。渡り鳥も左右の脳を交代で休ませて長時間飛び続けます。動物はそれぞれの生活に合わせて左右の脳を使い分けているのかもしれません。
(理化学研究所 青木田鶴)
図 見た物の名前をいうときの脳のしくみ。