地層の形成と土地の隆起、川による侵食が生んだ
アメリカにあるグランドキャニオンは、コロラド高原と呼ばれる比較的平坦な土地に深い谷が切り込んでいる場所です。谷の地形とともに、谷の側面に見える地層の水平な縞模様が印象的です。ただし谷の一番深い場所に見える地層には明瞭な模様がありません。
この風景は、①模様が不明瞭な地層の形成、②模様が明瞭な地層の形成、③土地の隆起と川の作用による侵食、という3つの段階を経て形成されました。①と②の段階では、今のコロラド高原がある場所は浅い海か海岸の湿地になっていた時期が多く、海や川で運ばれた砂や粘土が堆積しました。海が熱帯に位置していた時期もあり、その際にはサンゴ礁に由来する石灰岩も堆積しました。
①の段階に形成された谷の下部の地層は、元々は約20億年前に海底などに堆積したもので、当初は水平な縞模様を持っていました。しかしその後、地下の地層に強い圧力がかかり、岩石が変形するとともに組成も変化して変成岩になり、縞模様が消えました。②の段階は約12億年前~2億5000万年前で、厚さが1000mを超える地層が海底などに堆積し、縞模様が明瞭な地層ができました。③の時期は約7000万年前以降で、広大な土地が大きな変形をともなわずに隆起し、地層がほぼ水平な状態を保ったまま標高が高くなりました。
このようにして高くなった土地の上を川が流れ、それが地層を削り谷ができました。谷の形成は土地が隆起し始めるとほぼ同時に始まりましたが、当初は分布や規模が限られていました。しかし、次第に複数の川が連結することによって流量が多い川ができると、そこでは非常に深い谷が形成されました(図)。
グランドキャニオンの底を流れるコロラド川は、このような流量が多く侵食の力が強い川です。特に約5~600万年前以降に流量が増え、今の深い谷をつくったと考えられています。
(東京大学 空間情報科学研究センター教授 小口 高)
図 約5000万年前(左)と約500万年前~現在(右)のグランドキャニオンの様子。