今は「マネ」の段階だが、今後の研究に期待
「動物と話したい」というのは多くの人が持っている夢でしょう。今、イルカと話がしたいという夢を追った研究が進められています。まさに「イルカとしゃべる」研究です。
その「しゃべる」研究に取り組んでいるのは、シロイルカというイルカです。北極の周りの冷たい海に棲んでいる種類で、いろいろな音で鳴くので「海のカナリア」と呼ばれています。研究は水族館にいる「ナック」という名前のシロイルカで行われていますが、ナックは「ピヨピヨ」、「オハヨウ」、「オウ!」などといった人の言葉を発することができます(図1)。
図1 人の言葉をマネするナック。イルカはもともとマネが得意な動物で、
さまざまな実験でその能力が確かめられている。
また、その研究を行っている人の名前も呼ぶことができます。このように人と同じような言葉を発することができるので、まるで「しゃべっている」ようなのですが、今はオウム返しのようにただ聞こえた音をマネしているだけで、その意味がわかっているわけではありません。ですから、まだ「しゃべっている」ということにはならないのです。
それでは「しゃべる」ようになるにはどうすればよいのでしょうか。それには、私たちが外国語を覚えるときのことが1つの例になるでしょう。「しゃべる」ためにはまず、その外国語の単語の意味や発音の仕方を覚えることから始め、それらを繋げて文にしていきますよね。イルカの研究でも同じことが当てはまります。記憶や学習の能力が高いといわれるイルカにいろいろな言葉の意味を1つ1つ教えていき、それをイルカの言葉で発音させて文にしていくわけです。
先ほどと別の研究では、ナックは水中メガネや足ヒレなど、4つのものの名前の意味を理解して、それらを“イルカ語”で呼ぶことができています(写真1)。ですから、マネをしている言葉についても、その意味を教えてあげれば、将来的に、そうした人の言葉で私たちと会話ができるようになるかもしれませんね。
写真1 「しゃべる」研究に挑戦しているナック。水中メガネを見せると、
“イルカ語”で適切に答えることができる。
(東海大学海洋学部海洋生物学科教授 村山司)