できたての柔らかい器官が詰まっている
チョウなどの完全変態昆虫では、幼虫と成虫の体つきが全く別の生き物かと思えるほど違っているけれど、サナギはそのような大変身をするための準備の時期だ。サナギはじっとして動かないけれど、厚い殻の中では体の中身をすごい勢いでつくり替えている。例えばアゲハチョウでは、翅は成虫にしかないけれど、幼虫時代にも非常に小さな翅のもとがちゃんと皮膚の下にある。この翅のもとはサナギになるときに大きくふくらんで薄くて柔らかい袋になり、さらにサナギの期間にさまざまな栄養を取り込みながら厚く強くなっていき、最後にはさまざまな色の鱗粉をちりばめた縮んだ翅になって、羽化するときに大きく広がるんだ。逆に、幼虫には体の後ろの方にも何本も脚があるけど、これらは成虫になるとなくなるね。これらの脚を動かすための筋肉はサナギの中で溶けてしまい、その栄養分は翅などをつくるために使われる。
このようにからだのさまざまな部分を同時につくったりこわしたりするために、とくにサナギになりたての時期はすべての部分が柔らかく、また、壊される部分は小さなバラバラのかたまりになって体の中に散ってしまうので、一見するとサナギの中身はどろどろのクリーム状に見えるんだ。しかし、注意してみると、サナギになりたての時期でも半透明の薄い翅ができているし、筋肉などもちゃんとある。そして、サナギの後半になると体の中身もしっかりしてきて、羽化直前には成虫の模様などが殻の外からでも見えるね。サナギは昆虫によって形や色がさまざまだし、じっくり眺めてみるといろいろと面白い発見があると思うよ。
神村学 (農業生物資源研究所)