小惑星「リュウグウ」に向かい、岩石試料を採取した小惑星探査機「はやぶさ2」がついに地球に帰還! 12月5日には、採取した岩石試料が入ったカプセルを地球に向けて分離し、12月6日の2時~3時頃には地球にカプセルが着地する予定だ。
帰還までのプロセスやカプセルの回収方法については、子供の科学2020年12月号で詳しく解説しているからチェックしよう!
ここでは、地球帰還が迫った「はやぶさ2」の気になる今後についてご紹介。カプセル回収後、採取したサンプルををどのように取り出し、分析が行われるのか、そして探査機「はやぶさ2」に新たに託
されるミッションとは何なのか、はやぶさ2の現場に関わる研究者、JAXA 宇宙科学研究所の安部正真先生と三桝裕也先生にそれぞれ解説いただこう。
カプセルからサンプルを取り出し、詳細分析が始まる!
キュレーション
地球に持ち帰られたリュウグウのサンプルは、JAXA 相模原
キャンパスにある惑星物質試料受入設備(キュレーションセンター)に運ばれ、ここでサンプル容器からのサンプルの取り出しと初期記載
および保管が行われる。
キュレーションとは、科学的・文化的に価値のある試料(サンプル)の受入れ、保管管理、カタログ作成および利活用のための分配(貸出し)を行うことを指す言葉である。
「はやぶさ2」で持ち帰るサンプルは宇宙空間で密封
されており、地球帰還時には帰還カプセルのアブレータ(熱防御材
)により大気突入時の高温から守られており、小惑星リュウグウに存在した状態から大きく変質していないことが特長である。そのため、キュレーションセンターでは、クリーンルームの中にさらに清浄化
されたクリーンチャンバーを作り、クリーンチャンバーの中で初めてサンプル容器の密封された蓋
を開ける作業を行う。
クリーンチャンバー内では一部試料は真空環境下で取り出され、将来に向けて長期保管される。残りの試料は高純度窒素
環境下で取り扱われ、秤量
、光学顕微鏡観察、分光観察が行われる予定である。
分析
JAXA 相模原キャンパスでのキュレーション作業が半年ほど行われたあと、それに続く詳細分析が開始される予定である。詳細分析のチームは国内研究者をチームリーダーとして複数作られ、有機物分析、鉱物学的分析、化学分析、ガス分析などと総合的な分析が行われる。
これら詳細分析によって、「はやぶさ2」のミッション目標を達成するための分析研究が行われる。地球の海の源の水、生命の源の有機物がどのようにして地球にもたらされたのか、また地球を形作る岩石は水や有機物をどのように取り込み、相互的にどのような進化の歴史をたどってきたのかを解く鍵は、C 型小惑星にあると考えられている。
持ち帰られたサンプルから水や有機物の検出を行い、その化学組成や同位体
組成を明らかにして、地球の水や有機物との関連性を調べる予定である。
(文/安部正真)
「はやぶさ2」の拡張ミッションとは?
「はやぶさ2」は地球帰還後、カプセルを分離して、また深宇宙へ飛び立つ軌道
に乗る。このとき、軌道制御用のイオンエンジンの燃料(キセノン)は約半分程度が残る見込みであり、これによって到達可能な天体を探索
した結果、ランデブー可能な候補天体が複数存在することがわかった。それら候補天体を理工学のさまざまな観点で精査し、最終的に1998 KY26 という天体を拡張ミッションの目標天体として選定した。
この小惑星は推定直径が30m 程度というとても小さな天体で、自転周期10分という非常に速い自転速度から、高速自転小惑星(Fast Rotator)と呼ばれている。未だかつて人類が到達したことのない特徴を持つ天体であり、リュウグウとの比較観測により、リュウグウで得られた科学的知見がより深められると期待される。
また、自転が速すぎて小惑星表面において重力より遠心力の方が卓越
しているという、リュウグウとは異なる特殊環境へのアプローチから、新たな小惑星探査技術の獲得を目指す。
さらに、このサイズの小惑星は地球に衝突する頻度
も高く(100 ~数百年に一度)、衝突すると地域的に大きな被害を引き起こすとされており、その素性
を解明することで、天体の地球衝突による災害を防ぐ活動(Planetary Defense)に資する技術や知見を獲得することも期待される。
この1998 KY26 へ向かう軌道では、さらに2026 年に2001CC21 という別の小惑星をフライバイすることが可能であり、近接観測を行うことを検討中である。
1998 KY26への到着は2031年7月の予定で、地球帰還からさらに10 年程度かかる長期のミッションとなる。この長期航行期間では、より自在に、より遠方へ探査を行う上で必要な運用技術を獲得し、長期航行やフライバイを利用した理学観測を行う計画である。
カプセルを無事に地球に届けたあと、「はやぶさ2」は新たな世界への大いなる挑戦に向かって進んでいく。
(文/三桝裕也)
「はやぶさ2」のミッションとそのしくみがすべてわかる本に注目!
今回の記事の内容は、書籍『「はやぶさ2」のすべて ミッション&メカニカル編』をもとに構成している。この本は、監修を務める吉川真ミッションマネージャをはじめ、津田雄一プロジェクトマネージャ、研究者やエンジニアなどのミッションメンバー総勢45名が、それぞれの担当項目を徹底解説。「はやぶさ2」のことを知り尽くしたい人におすすめ!
「はやぶさ2」のすべて ミッション&メカニカル編
小惑星リュウグウ探査プロジェクト
2020年12月に小惑星リュウグウのサンプルを地球に持ち帰る「はやぶさ2」は、小惑星探査を目的とする小惑星探査機で、2010年まで運用された「はやぶさ」の後継機。この本は、太陽系の起源・進化と生命の解明、そして深宇宙探査技術の確立に挑む「はやぶさ2」の全貌がわかる、豊富な写真と図版で構成されたグラフィカルな科学解説本です。小惑星探査の意義や目的、メカニック解説、ロケット打上げ、小惑星リュウグウ探査、人工クレーター生成、地球への帰還とサンプルリターン計画を時系列に紹介していきます。
監修
吉川 真 著者の記事一覧
小惑星探査機「はやぶさ2」プロジェクトのミッションマネージャを務める。JAXA宇宙科学研究所 宇宙機応用工学研究系准教授。理学博士。東京大学理学部天文学科、同大学院卒業。日本学術振興会の特別研究員を経て、1991年から旧郵政省通信総合研究所に勤務。1998年に旧文部省宇宙科学研究所に着任し、現在に至る。専門は天体力学。小惑星や彗星といった太陽系小天体の軌道解析が専門。現在は、人工天体や自然天体の軌道、天体の地球衝突問題であるプラネタリーディフェンスについての研究を進めている。