『子供の科学』創刊100周年メッセージ★河野史明さん「電子工作から『「創意工夫」をおもしろがってほしい 」

1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者からメッセージをいただいています。

河野史明(こうの・ふみあき)。1965年生まれ、神奈川県出身。インダストリアルデザイナー。ユーザーインターフェイスデザインとプロダクトデザインを総合して行うデザイン開発のパイオニアとして活躍。ドイツiF賞入賞はじめ、多数受賞。

──『子供の科学』はいつごろ読まれていましたか? また、出会いの経緯を教えてください。

 『子供の科学』に出会う前の話です。私は横浜の中心部から少し離れた伊勢町という街に住んでいたのですが、5歳ぐらいから通っていた日ノ出町と戸部の間にある駄菓子屋に「雑誌のふろく」が売られていました。これは子供向け雑誌(『子科』ではありません)の、ボール紙を組み立てて建物や動くおもちゃを組み立てるもので、輪ゴムは強すぎても弱すぎてもダメなこととか、割ピンの便利さとか、ただボール紙を丸く切ったタイヤが、実物に似せて筒状の立体に組み立てたものよりもよく転がることを、ここから学びました。これが私のものづくりの「原点」だったと思います。

 『子科』との出会いは1975年、小学3年生ごろのはずなのですが、当時いろいろな学習雑誌を読んでいたので、出会いの記憶は実はあまりないのです。

──『子供の科学』のどんな特集に興味があったか、思い出に残っている記事などがあれば教えてください。

 鳥か飛行機の形をした凧の記事を参考に、カモメが羽ばたいた姿の立体的な凧を自分でデザインしてつくってみました。正月の掃部山公園には凧揚げをする子供がたくさんいたので、最初は誇らしげに揚げようとしたのですが、重すぎてあまり揚がらずがっかりしていました。そこへ名人然としたおじいさんがきて、「骨は竹ひごではなく柳の枝を使い、和紙は半紙のようなもっと薄いのを使うのがよい」と教えてくれました。素材の違いが性能に出ることは知っていたはずなのに、むくれた態度をとりました。このときは、性能より美しさが自分にとって大切だったのだと思います。この出来事から、飛ぶものをつくることに臆病になりました。「よく飛ぶ紙飛行機」の型紙を切り取って保存していたのですが、つくり始めたのは高校生になって、当時のめり込んでいたアンプづくりがうまくいくようになり、自信がついたからです。

1975年9月号『子供の科学』より「よくあがる鳥凧を作ってみよう」。
お正月シーズンはじめ、さまざまな凧のつくり方の記事が掲載されていた。

 あれは確か高校2年の春、根岸の競馬場跡(森林公園)に、きれいにできた数機をもっていきました。割りばしに輪ゴムを付けた射出機(カタパルト)で空に向かって飛ばし、とても気持ちがいいなと思っていたら声をかけられました。なんと、「よく飛ぶ紙飛行機」の作者・二宮康明先生だったのです! 先生は私のつくった機体をほめてくださり、機体を少し調整しながら、飛ばし方も教えてくださいました。紙飛行機は、先生がほんの少し触っただけで、驚くほど安定して水平に飛び、そして大きく旋回しました。見ていて、美しいほどよく飛ぶ、という言葉が浮かんできました。私がカモメの凧をつくったときには相反するものと思っていた「美しさと性能」が、実は両立するのだ! これはのちの私にとって、かけがえのない体験になったと思います。

 二宮先生と別れて、他の機体を自分でも調整してみました。先生が整えたのは主翼と尾翼で、見ていてやり方はわかったと思ったのだけど、先生ほどうまくはいきませんでしたが、だいぶ飛ぶようにはなりました。先生が触った機体を飛ばしたらよく飛びすぎて、最後は公園の外まで飛んで行って見えなくなってしまいました。

──子供時代に育んだ科学への興味は現在のお仕事や活動、考え方等につながっていますか? どんなつながりや影響があるか教えてください。

 私はインダストリアルデザイナーとして、ものづくりやユーザーインターフェース(UI)の仕事に携わっていますが、電子工作に熱中した経験から、「シンプルな回路で最大の効果を得る」ことを学びました。凧や紙飛行機の製作も同じですが、簡素なつくりでむだがないもの、素性のよい材料を選び、その特徴を活かしたものが好きだし、そういう仕事をしたいという思いが今でもあります。また、「見えないところにも気を配る」ことは、よいものをつくるためには大切なことだと思います。

──『子供の科学』100周年に寄せてコメントをお願いします。

 創刊100周年、 心よりお祝い申し上げます。「国は百年、人は千年」というそうですが、貴誌は名実ともに一国をなす偉業を、若い世代を通じてという美しい方法でなされました。影響をうけた一人として誇りに思っています。そしてこれからの千年、これまでのように若者を魅了して行って下さい。ますますのご発展を祈念しております。

──今の『子供の科学』の読者たちにメッセージをお願いします。

 ぜひ、「創意工夫」をおもしろがってほしいですね。どんどん試して、「いやだな」と感じたところは直していきましょう。これはデザインという仕事をする上で、とても大切なことです。私はそれを電子工作や凧づくり、紙飛行機づくりや二宮先生の「神の手」を通じて学んだと思っています。

 そして、「科学」は楽しいですよね! 大人のまだ知らない楽しさを見つけたらぜひシェアして下さい。楽しみにまっています。

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