『子供の科学』創刊100周年インタビュー★慶應義塾大学教授 村井純さん

1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者へのインタビュー企画。子供時代のお話や、今の読者の子供たちへのメッセージなどをいただいています。

 「日本のインターネットの父」として知られる村井純先生も『子供の科学』の読者の一人です。1984年に東京工業大学と慶應義塾大学を接続した日本初のネットワーク間接続「JUNET」を設立し、その後もインターネット網の整備や普及に尽力されています。私たちが当たり前のようにインターネットを使えるのは村井先生のおかげですが、実はそこに『子供の科学』が大きく関わっていました。

村井 純(むらい じゅん)
慶應義塾大学教授、慶應義塾大学サイバー文明研究センター共同センター長。1955年東京都生まれ。工学博士(慶應義塾大学・1987年取得)。
1984年に東京工業大学と慶應義塾大学を接続した日本初のネットワーク間接続「JUNET」を設立し、インターネットの技術基盤をつくった。その後もインターネット網の整備、普及に尽力し、インターネットを日本語をはじめとする多言語対応に導くなど貢献してきたことから「日本のインターネットの父」として知られる。

──村井先生は『子供の科学』はいつ頃から読まれていたのですか?

 確か10歳ごろ、小学校4年生の頃にはもう読んでいました。マンガも好きでしたけど、『子供の科学』は一番で、もうめちゃくちゃ大好きでした。隅から隅まで1ページ残らず読んでいて、1年分をバインダーに綴じて部屋に積んでいたんですよ。中学生の時ぐらいまで読んでいましたね。

──隅から隅までとはすごいですね! そのなかでも、どんな記事が好きでした?

 工作が大好きでした。ラジオをつくる記事とか、電子工作とか。小学4、5年の頃は、当時住んでいた世田谷区から神田にある「科学教材社」に部品などを買いに、電車に乗って行っていました。小学生にとっては結構遠い場所なんです。だから土曜日か日曜日に行こうと決めたら、とても楽しみで興奮してしまい、3日くらい眠れませんでした。

──ちょっとした冒険ですね。印象に残っている記事はありますか?

 たくさんあります。この「ジャングル大帝」がどうやってできているかを紹介した記事(1965年12月号)もよく覚えています。

1965年12月号「マンガ映画はこうして作られる」

 一番印象に残っているのは、マーブルチョコのケースでゲルマニウムラジオをつくる記事(1966年1月号)です。自分でエナメル線を巻いてつくったラジオがちゃんと聞こえるんですよ。ちょっと衝撃でしたね。

1966年1月号「チョコレートの紙筒で易しいマーブルゲルマラジオ」

──工作がすごくお好きだったんですね。

  そういえば、記事の通りにつくった鉄道模型がこの間出てきたんですよ。

村井先生が『子供の科学』の記事を見ながらつくった鉄道模型。
(写真提供/村井純)
上の鉄道模型は、1964年8月号の「特殊集電の2軸ディーゼル機関車」を見ながらつくったそうです。

―『子供の科学』を読んで、いろいろ工作をされたり、科学への興味を広げていったのですね。それは、村井先生のインターネットの研究につながっていたりするのでしょうか?

 そのままですよ。『子供の科学』で学んだり夢中になったりしたことを、そのまま今でも行っています。なぜ地球をつないで、人類をつないで、月までつながないといけないのかと考えたら、『子供の科学』が全部悪いんですね(笑)。とにかく『子供の科学』まみれの子供時代だったから。
 だから、記事を依頼された(2000年3月号「インターネットの現在と未来」)ときは本当にうれしかったですよ。

2000年3月号「インターネットの現在と未来」

 なぜマーブルチョコレートのラジオが印象に残ったかというと、ラジオは普通、買って聞くものじゃないですか。それが自分でつくれたんです。そのおかげで、僕はステレオも自分でつくったし、機械がブラックボックスじゃなくて、自分でつくって動かせるものだという経験があった。だからコンピューターも使うものではなくてつくるものだという気がしていました。

 コンピューターに計算をさせてそれをみんなが待っているような、コンピューターが偉くて、それに人間が群がっているようなものは嫌いでした。それで、人間のために機械が何かを支えてくれるなら、その機械はつながっていなきゃいけないと考えたのが、コンピューターネットワークの研究の始まりだったんです。

 機械は魔法ではなくて、人間が人間のためにつくりだすものという認識を『子供の科学』は与えてくれたんです。その感覚はすごく大事ですね。

 今の子供たちにとっても、インターネットが与えられたものではなくて、自分たちでつくりだすものだと思ってくれればいいなと思います。

──今はいろいろなものが身の回りにあって、コンピューターもブラックボックスになっているのですが、そういう中で子供たちは何に興味を持つといいでしょうか。ぜひ、アドバイスをお願いします。

 いろいろ試してほしいかな。インターネットの上で動くものも、AIも自動運転も、宇宙旅行も飛行機も、いろいろなテクノロジーが長い時間をかけて発展してきています。それぞれがどうやって動いているのか、そこにはどういう問題があるのか、どのような方向に向かうのか、どのようなことができたらいいかとか。やはり人間がつくったものなので、全部ちゃんとした理由と原理があります。それを楽しんで知っていってほしいなと思います。

 新幹線の先頭車両のデザインが、鳥のくちばしの形をそのまま取り入れたというエピソードを講演で聞きました。そのような発見は、何か特別なことを勉強しなきゃいけないわけではなく、おもしろそうなことを追求することが大事だと思います。

──貴重なお話や、アドバイスをありがとうございました!

(撮影/尾山翔哉)

『子供の科学』100周年サイト
https://www.kodomonokagaku.com/100th/

 1924(大正13)年に創刊された小中学生向けの科学誌『子供の科学』は、2024年で100周年を迎えます。100周年イヤーとなる2024年には、子供向けの企画はもちろん、100年間のすべての読者と一緒に盛り上がれるコンテンツやイベント、『子供の科学』とともに歩んできたパートナー企業とコラボレーションした企画など、100周年を記念したさまざまなプロジェクトを企画しています。

子供の科学編集部 著者の記事一覧

1924年創刊の小中学生向け科学月刊誌。話題の科学ニュースを、どこよりもおもしろく、わかりやすく解説。宇宙、生き物、テクノロジーなど、好奇心旺盛な子供たちがわくわくする科学をお届けします。創刊以来、研究者や医師、エンジニアなど一流の人たちが子供時代に読んでいた雑誌として知られています。また、毎月工夫をこらした実験や工作を多数紹介。手を動かしてものづくりをする体験を提供しています。子供向けのプログラミング学習記事も充実。記事の内容と連動したプログラミングキットの開発も行っています。

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