『子供の科学』は2024年で100周年を迎えました。『子供の科学』が創刊したのは1924年、大正13年のこと。関東大震災の翌年、都市部の復興が進み、交通や建築、通信の新しい科学技術が続々と登場する中で、『子供の科学』は誕生しました。
今回は、この創刊号に一体どんなことが載っているのかご紹介しましょう。
100年間変わらない『子供の科学』のコンセプト
まず冒頭に、創刊編集長の原田三夫による「この雑誌の役目」という記事があります。100年間、今も変わらない『子供の科学』のコンセプトを伝えていて、編集部員はこの内容を心に刻んで雑誌をつくっています。
要約すると、「研究者に話を聞いて、子供たちが喜ぶ話を載せる」、「写真や絵を使って科学をわかりやすく伝える」、「ものづくりを通して子供たちの“発明の才”を伸ばす」、そして一番大切な目的は、「本当の科学がどういうものかを知ってもらう」というものです。最後にある本当の科学についての説明は名文だと思うので、全文載せておきます。
「人は生まれながら、美しいものを好む心を持っておりますが、それと同じように、自然のもの事についてくわしく知り、深くきわめようとする欲があります。昔から、その欲の強い人々がしらべた結果、自然のもの事のあいだには、たくさんの決まった規則のあることがわかりました。科学ということは、この規則を明らかにすることであります。多くの人が科学といっているのは、たいていは、その応用に過ぎません。この規則を知ることによって、人間は、自然にしたがって、無理のないように生き、楽しく暮らすことができ、それを応用して世が文明におもむくのです。」
巻頭グラビアは「お猿づくし」
今のように動物図鑑を気軽に見られない当時、今ならおなじみの動物たちのビジュアルも、子供たちにとってじっくり見る機会は少なかったのではないでしょうか。
もちろん、こうした動物たちの画像は、今なら種名をネット検索すればいくらでも見ることができます。でも、誌面の中で、こんなふうに見開きでいろいろな種が並ぶワクワク感は、今でも紙が提供できる大事な体験だと考えています。雑誌は特に、「めくったら猿がいっぱい!」という突然の出会いがあります。ネット検索はどうしても、興味があるものに情報が偏ります。今の子供たちにはネットを便利に使ってもらいたいですが、一方で雑誌のような紙媒体でしか得られない価値もあることを知ってもらいたいです。
『子供の科学』は子供っぽくない!?
創刊号の特集は、「乗り物の王様 自動車はどうして走るか」。
自動車と電車、どちらが速いかという質問を子供からよく受ける、という書き出しで始まっています。速さを追い求めることは、単に必要に迫られるだけでなく、「そういう人間の本性がある」と伝えた冒頭の文章も素敵です。よく、『子供の科学』は子供っぽくない、子供を子供扱いしていない、大人が読んでもおもしろいといわれますが、科学を楽しく伝える中に、こういう人間の本質や科学の裏事情みたいなものを入れ込む、創刊当初からの原田三夫編集長の書きぶりが、今にも少し残っているからなのかもしれません。
この後、エンジンの図解もまじえて自動車のしくみを解説していくわけですが、自動車が発明されるとたちまち世の中に広まり、街を走り回るようになったのは、この便利で扱いやすいしくみのおかげ、だから乗り物の王様になれた、と紹介しています。世の中の子供たちの興味から科学技術を解説する、とても『子供の科学』らしい創刊号の特集だなと思います。
血の流れる速さを知る衝撃の実験
「不思議な血」という人体の特集記事。これもおもしろい書き出しです。
昔の人は、川や運河を利用して、ものや人を運んだ。私たちの体の中にもその仕掛けがある。それが血管だ、という説明から始まります。
次のページをめくると、「血の流れる速さを知る実験」として、「カエルの腸をさいて腸間膜を出し、顕微鏡で見ると赤血球の行列がよく見えます」という説明とともに、なかなか衝撃のイラストが……。さすがに今はここまでは載せませんが、何か体験できるものを紹介するというスタンスは、今の編集方針に受け継がれています。
海外の情報は『子供の科学』でキャッチ
この「世界一周」と題した企画、初回はハワイ島を紹介しています。
ホノルル市街やサーフィンの様子と一緒に、現地に住む原住民の写真も。記事には、原住民は日本人とよく似た人種で、ホノルルには日本人もたくさん住んでいると書かれています。こうした海外事情の紹介記事も、戦前の『子供の科学』には多くありました。
欲しいものはつくる! 『子供の科学』の工作記事
そしてこの当時、流行し始めたのが「無線」です。創刊号では、電気屋さんで集められる材料でつくれる無線通信機を紹介しています。
当時の工作記事を見ると、つくり方の丁寧な説明が不足しています。そのかわり、どの部品がどういう役割をするのか、そのしくみが詳しく解説されています。読者はこれを読み解きながら、何をどうつないで組み立てれば機能するか考えてつくっていたのだと想像します。きっと「つくれない」子も多くいたと思います。
工作記事に手を動かす体験や教育的な意味もあったとは思いますが、それにも増して、読者は無線通信機がほしかったのではないでしょうか。どんなに難しくても、不親切な説明でも、何とか読み解いてつくり上げ、それを無線通信に使っていたのだと思います。今はものがあふれている時代で、スマホやパソコンがあれば何でも楽しめます。当時の読者のようなものづくりに注ぐ情熱を、どうやって今の読者に持ってもらうかは、編集部の大きな悩みどころです。
今回は、100年前に発行された『子供の科学』創刊号の記事を見ていきました。『子供の科学』100周年スペシャルサイト「科学タイムトラベル!」では、期間限定(2024年内)で創刊号の全ページを電子版で読むことができます。ぜひその目で、100年前の『子供の科学』と今の『子供の科学』を読み比べてみてください。
「科学タイムトラベル」に入ったら出現する検索マドに「1924」と入力して、創刊号へGO!
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