【コカトピ!】アリグモの擬態が不完全なのはなぜ?

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文/保谷彰彦

アリのフリをしているはずが、あんまり似ていない

 アリグモはアリに擬態したクモです。アリに擬態するのは天敵から身を守るのに役立つからです。たとえば、アリは食べてもまずいので捕食者に食べられにくいことや、アリの集団での攻撃が他の生きものにとって脅威になることなどの理由が考えられています。実際には、アリグモだけでなく、昆虫の中にもアリに擬態している種がいます。

 ところが、アリグモの擬態はアリによく似ているとはいえ、私たちからは、どうも不完全な擬態に見えます。なぜ不完全な擬態のままなのかは、長らく謎とされ、いくつかの仮説が提唱されていました。その1つはクモは昆虫ではないので、昆虫に擬態するには、進化的に制約があるというものです。

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完璧な擬態じゃなくても大丈夫だった!

 このほど、マッコーリー大学(オーストラリア)などの研究グループは、クモや昆虫の不完全なアリ擬態は、進化的な制約があるからではなく、主に適応的なプロセスによって形成されている可能性が高いことを発見しました。これは、不完全な擬態でも、それが生存や繁殖に有利に働いているということを意味しています。

 研究グループでは、昆虫の方が進化的にアリのモデルに近いため、クモよりもうまく擬態しているだろうと予想しました。そこで、アリグモと、アリに擬態した昆虫を合計106種248個体集めて、それぞれを詳しく比較しました。

 その結果、予想は外れました。アリグモと、アリに擬態した昆虫とは同じレベルの擬態だったのです。このことは、体のつくりなどの制約が、必ずしも擬態の進化を妨げるとは限らないことを示しています。

 その一方で、興味深い違いも発見されました。アリグモやアリに擬態した昆虫を横から見ると、アリグモの方が擬態が下手な傾向があったのです。これは、クモの捕食者が地上からではなく、空中から襲ってくるためで、横方向の擬態があまり重要ではないからだと研究グループでは考えています。

アリに擬態する昆虫と、その推定されるモデル。アリに擬態する未成熟のホソヘリカメムシ科の昆虫(左上)と推定モデルのツムギアリ(左下)。アリに擬態するアリグモ属昆虫(右上)と推定モデルのトゲアリ属のアリ(右下)。写真は、McLean D.J. et al, (2024) Biology Letters.20: 20230330.より引用

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植物学者、文筆家。博士(学術)。主な著書は『ワザあり! 雑草の生き残り大作戦』『身近な草花「雑草」のヒミツ』(共に誠文堂新光社)、『タンポポハンドブック』『生きもの毛事典』(共に文一総合出版)、『ヤバすぎ!!! 有毒植物・危険植物図鑑』『有毒! 注意! 危険植物大図鑑』(共にあかね書房)、『わたしのタンポポ研究』(さ・え・ら書房)など。中学校教科書「新しい国語1」(東京書籍)に「私のタンポポ研究」掲載中。 https://www.hoyatanpopo.com/

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