1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者へのインタビュー企画。子供時代のお話や、今の読者の子供たちへのメッセージなどをいただいています。
──『子供の科学』を読み始めたきっかけを教えてください。
小学校4年生のときの担任の先生にすすめられて、母親が定期購読をしてくれるようになりました。とても面倒見のよいご高齢の先生だったのですが、私は理科が得意だったので、『子供の科学』でもっと勉強して博士になれよ、ということだったのだと思います。
『子供の科学』は毎月、母親が勤めていた市役所に配送されてくるんですが、発売日になると家でワクワクして待っていました。母親が帰ってくると、むさぼるように『子供の科学』を読みふけっていましたよ。
──『子供の科学』のどんな記事がお好きでしたか?
子供のころはいろいろなことに興味があったのですが、特に飛行機のことが好きでしたね。私が読んでいたころの『子供の科学』は、飛行機の記事が多かったんですよ。飛ぶ原理や飛行機のしくみはかなり詳しくなりました。
当時流行っていたゴム動力の飛行機をよくつくって飛ばしましたね。空高く飛ばして、ゆっくり旋回しながら降りてくるのが楽しかったのを覚えています。大会にも出ました。翼の形を研究して、どうやったらよく飛ぶのか試行錯誤しながらつくっていました。
(当時の『子供の科学』を開きながら)
あ、懐かしい! これは実際に家にありましたね。「ポンプ式空気銃」。
レバーを動かして空気を入れて撃つしくみの銃です。家の裏庭で誰もいないときに撃っていました。今では危ないっていわれてしまうようなものですが、こういうものにワクワクしていました。
星座の記事も毎号載っていましたが、実際の夜空を見るとどの星がどの星座かよくわからなくて、「あぁ、天体観測は自分に向いていないな」と思ったのも覚えています。空に星座の線が引いてあればわかるのになぁ、なんて思っていました(笑)。
『子供の科学』にはいろいろなものが載っているので、自分が好きなもの、向いていないものがわかるんですよ。生き物よりも機械とか、もののしくみを知るのが好きな子でした。
──今のテクノロジーは中身が見えなくて、しくみがわかりづらくなっていますが、基本的なしくみや原理はきちんと知る必要がありますね。
今はAIは複雑になりすぎて、なかなかしくみを理解するのは難しいですけれど、トランジスターから始まって、それが集まってICになり、コンピューターになるという基本を知ることは大切ですね。ハードウェアとソフトウェアがあって、どうやって入力のしくみが働いてソフトが動いているのかという根本を『子供の科学』では伝えてほしいと思います。
子供たちもスマホを持っている子が多いですが、例えばそもそも電話がなんで通じるのかも知らない人が多いかもしれません。テクノロジーはただ使うだけじゃなく、その中身にも興味を持ってもらいたいです。
──GIGAスクールの端末が子供たちに配られて、みんなパソコンやタブレットを使って学んでいますが、浮川さんは今のキーボードでのローマ字かな入力の基本のしくみを開発したことでも知られています。みんな当たり前に使っていて、これを誰がどうやって考えたかなんて思わないですが、これを読んでいる子供たちにはぜひその便利なしくみをはじめに考えた人がいるということに思いを馳せてほしいなと思いました。
以前のキーボードは、変換キーという左端についている小さいキーで、ひらがなを漢字に変換していましたが、これが面倒なんです。ローマ字入力のキーボードは、端のほうにある変換キーを使っていると、肘が動いてしまって遅くなってしまう。どうやってホームポジションを維持しながら、日本語を早く打てるようになるか、ジャストシステムという会社を創業した私と初子で考えていました。
英語と日本語の違いを考えてみると、英語は単語ごとにスペースをあけて分かち書きをする言葉ですが、日本語の文章にはスペースがないんですね。英語はスペースをたくさん使うから、キーボードに長いスペースキーがあります。このスペースキーに変換機能を割り当てようと考えたんです。
また、当時は今のようにローマ字かな入力ではなく、ワープロ専用機にかな入力でタイピングしている人がほとんどでした。でも、これからはパソコンの時代になり、世界中で標準に使われるキーボードでローマ字入力することが主流になると考えて、ローマ字かな入力でスペースキーを使って変換するスタイルを開発したんですね。今では当たり前すぎて、最初からそうだったみたいに感じると思いますが、ジャストシステムでスペースキーに変換を割り当てるというしくみを開発する前は、ローマ字かな入力で日本語の文章を速く打ち込むのは難しかったんですよ。
──子供のころからもののしくみに興味を持って学んできた浮川さんだからこそ、たどり着けたアイデアですね! 将来、新しい発見をしたい、おもしろいものをつくりたいという今の読者にメッセージをお願いします。
『子供の科学』の中には、いろいろなもののしくみが解説されています。「なるほど、こうやってできているんだ!」「こんな仕掛けになっているんだ!」という発見を大切にしてほしいと思います。しくみがわかったときのうれしさを体験していると、世の中のいろいろなものに対して、「これはどんなしくみなんだろう?」「あれはどうやって動いているんだろう?」という想像力がわいてきます。子供時代に「発想が広がっていく瞬間」に出会うのが大切で、そういう経験をしていると、ものごとを深く考えられるようになってくると感じます。そのきっかけとして『子供の科学』はとてもいい雑誌だと思います。
──本日は貴重なお話をいただきありがとうございました!
(撮影/青栁敏史)
1924(大正13)年に創刊された小中学生向けの科学誌『子供の科学』は、2024年で100周年を迎えます。100周年イヤーとなる2024年には、子供向けの企画はもちろん、100年間のすべての読者と一緒に盛り上がれるコンテンツやイベント、『子供の科学』とともに歩んできたパートナー企業とコラボレーションした企画など、100周年を記念したさまざまなプロジェクトを企画しています。
『子供の科学』では100年の節目を迎えるにあたり、科学技術の発展に貢献し、未来をもっとおもしろくするために、好きなことを探究して、チャレンジする子供たちをサポートする「KIDS STARTUP PROJECT(キッズスタートアッププロジェクト)」を立ち上げます。そのメインプロジェクトとなるのが、「好き」をトコトン究める次世代教育プログラム「小中学生トコトンチャレンジ2024」です。
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