1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者や関わりのある方々からメッセージをいただく企画です。
白川英樹先生のノーベル賞研究は以下のページで解説しています。
──『子供の科学』を読み始めたきっかけは何だったのでしょう?
昭和20(1945)年、終戦の年の暮れに私は岐阜県の高山に引っ越しをして、住む場所が落ち着きました。そのときにはじめて『子供の科学』を買ってもらいました。そのときの『子供の科学』は、まだ物資が不足していたのでしょう、とても薄い雑誌ですね。
このころの一時期、小学校でもらう教科書は、大きな紙だったんです。これを先生のいう通りに折り曲げて、切って自分で製本して教科書をつくりました。この薄い『子供の科学』を見て、そんなことも思い出しましたね。
高山の大自然の中で育った私は、野山を走り回って昆虫や植物を採集するか、図書館で本を読むかをして楽しんでいました。私が最初に触れた科学は、高山の大自然と、毎月読んだ『子供の科学』でした。
こうして読み返してみると、このころの『子供の科学』はとても専門的ですね。大人が読んでも難しいと思います。これを当時の私が読んでいたのですから、今思うとすごいことだなと感じました。執筆者は有名な先生たちですが、本気で研究を伝えようという熱意が感じられますね。内容はあまりわからなかったとしても、当時の私も含めた理科が好きな子供たちは、他に読むものもそんなになかったですし、これを読んで科学の世界に魅せられていたのだと思います。
多くの科学雑誌が消えていく中で、私が小学3年生のころから読んでいた『子供の科学』が今日まで生き残っているというのは奇跡のようにも思います。編集に携わるみなさんの意気込みを感じますね。
──ありがとうございます! 白川先生が科学者になろうと思ったのはいつごろからですか?
私はプラスチックを専門に研究しましたが、プラスチックの製品が出始めたのが、私が小学校のころ、婦人がはくナイロンの靴下でした。中学校に入ると弁当の汁がこぼれてしまうのを嫌がって、新しもの好きの母がビニールの袋に弁当を入れるようになったのを覚えています。ただ、この当時の新素材のビニール袋は使い捨てではないですから、毎日しわを伸ばしてまた使うのですが、これがとても使い勝手が悪いわけです。
それで「プラスチックは便利だけれど使い勝手が悪い。それを改良するような研究がしたい」と卒業文集に書いたんですね。私は自然科学が好きで、このころから一途にプラスチックを追い求めたわけではないんですが、入学した東京工業大学には当時生物の学科はなくて、化学系にはたくさんの素晴らしい先生がいましたので、結果的に高分子の研究を選ぶことになりました。今にして思うと、あの中学校の卒業文集が原点になっているのだと思います。
──科学者になりたいと思っている子供たちにアドバイスをいただけますか?
『子供の科学』を読んでいるみなさんには、読んで満足ではなく、やってみる、手を動かしてみるということを大切にしてほしいと思います。
私は大人になってから、付録についている紙飛行機をつくって飛ばしたくて『子供の科学』を何回か買ったことがありました。『子供の科学』の紙飛行機は難しくて、なかなかうまく飛ばなかったですね。飛行機のしくみを読んで知るよりも、紙飛行機をつくって、どのように飛ぶか、どうやったらうまく飛ぶか考えるほうが、飛行機のしくみがよくわかります。
私は大学を退職してから、科学実験教室をやったり、5泊6日の自然観察教室をやったりして、子供たちの科学体験の機会をつくってきました。コロナ禍で体験する機会を奪われてしまったのが残念でしたが、これからは外に出ていけると思いますので、ぜひ実験やものづくり、自然観察など好きなことを積極的に体験していってほしいと思います。
──貴重なお話をいただきありがとうございました!
1924(大正13)年に創刊された小中学生向けの科学誌『子供の科学』は、2024年で100周年を迎えます。100周年イヤーとなる2024年には、子供向けの企画はもちろん、100年間のすべての読者と一緒に盛り上がれるコンテンツやイベント、『子供の科学』とともに歩んできたパートナー企業とコラボレーションした企画など、100周年を記念したさまざまなプロジェクトを企画しています。
『子供の科学』では100年の節目を迎えるにあたり、科学技術の発展に貢献し、未来をもっとおもしろくするために、好きなことを探究して、チャレンジする子供たちをサポートする「KIDS STARTUP PROJECT(キッズスタートアッププロジェクト)」を立ち上げます。そのメインプロジェクトとなるのが、「好き」をトコトン究める次世代教育プログラム「小中学生トコトンチャレンジ2024」です。
文