1924(大正13)年の創刊から100年間、科学への好奇心あふれる子供たちを応援し続けてきた雑誌『子供の科学』。誌面に載っている最先端の科学の話や、驚きの実験、おもしろい仕掛けの工作などにワクワクして育った読者から、ノーベル賞受賞者をはじめとした大発見をする研究者、画期的な発明をする開発者たちが生まれました。 そんな『子供の科学』を読んで育った読者へのインタビュー企画。子供時代のお話や、今の読者の子供たちへのメッセージなどをいただいています。
寄藤文平さんは、書籍や雑誌、広告などのデザインをしたり、イラストを描いたりするグラフィックデザイナー。元素が好きな子なら、『元素生活 Wonderful Life With The ELEMENTS』の本や『元素手帳』をつくった人といえばわかるかもしれません。「子供の科学★ミライサイエンス」、「子供の科学★ミライクリエイティブ」シリーズのアートディレクションも担当しています。さまざまな楽しいデザインを生み出す寄藤さんは、子供のころに読んだ『子供の科学』に大きな影響を受けたといいます。
──寄藤さんはお父さんが微生物の研究者と伺いましたが、『子供の科学』を読み始めたきっかけはお父さんですか?
僕の家はまんがやテレビが禁止だったので、クラスの友達と同じ娯楽がなかったんです。NECの「PC-6001mkII」と、『マイコンBASICマガジン』、『子供の科学』の雑誌だけが我が家で許されたエンタメだったんですよ(笑)。父親が『子供の科学』だけは必ず買ってくれましたね。他に読むものがないから、何度も何度も読みました。
──思い出の誌面を教えてください。
付録の紙飛行機はよくつくって飛ばしました。
あとは「ぼくの発明きみの工夫」はお気に入りコーナーでした。『子供の科学』で最初にまず開くのが発明のページ。自分ではアイデアが思いつかなくて投稿したことはないんですが、入選した子の発明を見て、「なるほど、こうやって考えるのか」と毎号刺激を受けていましたね。
自分で作品を投稿したのは写真のコーナーです。僕が投稿した写真が、「けっさく写真」のコーナーに掲載されたんですよ。お店で母親を撮った写真を、家で現像して編集部に送りました。
カメラは「アサヒペンタックスSP」が家にあって、カメラの原理や露出の合わせ方を教わって、とにかくいわれるがままに撮ってみたという感じでした。家に現像設備があって、モノクロのネガフィルムを紙に焼き付けて送りました。この時代に家でできる科学っぽいものって、望遠鏡と顕微鏡、それからカメラなんですよね。
あと、父親の友達でハム(無線通信)をやっている人がいて、『子供の科学』にもハムの記事がよく載っていたので、自分では資格は取らなかったんですが、よく交信しているのを見せてもらいました。当時は、世界中の人と交信しているのを見て、本当にすごいと思いました。
──このころからデザインやイラストにも興味があったのですか?
小学校のころはそんなに絵をよく描いたということはなかったのですが、ただ『子供の科学』を読みながら、このタイトル文字のレタリングにワクワクしました。ぜんぶ手書きで、めちゃくちゃ凝っているんですよ。今僕がデザインするときの、文字の基本的な感覚って、このころの『子供の科学』のレタリングなんです。
この凝ったタイトル文字とちょっとした挿絵があるデザインが、めくっていて楽しかったんですよ。子供のころにあまりにこれを見すぎて、もうこれが僕にとっての楽しいデザインになっているんです。こういう「飾り罫」(装飾された罫線のこと)も凝ってますよね。
記事のひとつひとつの図版も細部まで描き込まれていて、見ているだけで楽しいですね。
次のページはどんな図がでてくるんだろう、とワクワクしながらページをめくっていった気持ちを今でも思い出します。編集者、著者、イラストレーターといったスタッフの熱量が伝わってきます。
──このころの『子供の科学』は今のデザインにも影響していますか?
子供時代に影響を受けすぎていて、どこを参考にしているというような話ではないんですよね。この当時の『子供の科学』の熱量とか、ワクワクとか、そういう子供時代の体験が、デザインの仕事をするときの基準になっているという感じでしょうか。あのとき自分が感じた気持ちになれるようなものをつくっていきたいと思っています。
──寄藤さんは科学のことをビジュアルでわかりやすく表現するような仕事もされますが、自由研究のときのプレゼンテーションや、将来研究者や開発者になったときに、自分の研究を人に伝えるときのアドバイスをいただけますか?
表現の仕方はいろいろあると思いますが、まず一番最初に伝えるのは自分自身ですから、人にどう思われるかは置いておいて、自分がそれを書いたり、つくったりしているときにウキウキしているかどうかが一番大切です。自分がウキウキしていないものに、他の人がウキウキする確率は、ほぼないでしょう。
『子供の科学』を読んでいると、「どうだ、これおもしろいだろう?」というつくり手や書き手のウキウキが伝わってくるんですよね。デザインやイラストのことでいうと、昔の手書きのころに比べてどんどんつくるのが楽になって、がんばってつくっている熱量みたいなものが抜け落ちていってしまうのですが、ぜひ『子供の科学』はつくり手がウキウキしながら、熱量を感じる誌面をつくり続けていってほしいと思います。
──貴重なお話をいただき、ありがとうございました!
(撮影/青栁敏史)
1924(大正13)年に創刊された小中学生向けの科学誌『子供の科学』は、2024年で100周年を迎えます。100周年イヤーとなる2024年には、子供向けの企画はもちろん、100年間のすべての読者と一緒に盛り上がれるコンテンツやイベント、『子供の科学』とともに歩んできたパートナー企業とコラボレーションした企画など、100周年を記念したさまざまなプロジェクトを企画しています。
『子供の科学』では100年の節目を迎えるにあたり、科学技術の発展に貢献し、未来をもっとおもしろくするために、好きなことを探究して、チャレンジする子供たちをサポートする「KIDS STARTUP PROJECT(キッズスタートアッププロジェクト)」を立ち上げます。そのメインプロジェクトとなるのが、「好き」をトコトン究める次世代教育プログラム「小中学生トコトンチャレンジ2024」です。
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