体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「今ここにいる、あなた」です。
あなたが今ここにいることとは
このシリーズの最後に、あなたにどうしても伝えたいことがあります。それは、あなたが今ここにいるのは、お母さん、そしてお父さんがいてくれた“おかげ”だということ。
もし、この世にお母さんとお父さんの両方、それとも、どちらかでもいなかったら、あなたはこの世に生まれてくることはなかった。
お母さんとお父さんがいることとは
そして、お母さんとお父さんにも、お母さんとお父さんの親、あなたからみるとお婆ちゃん(祖母)とお爺ちゃん(祖父)がいる。すると、お婆ちゃんとお爺ちゃんがいてくれたからこそ、お母さんとお父さんが生まれてくることができた。そのお婆ちゃんとお爺ちゃんもまた、お婆ちゃんとお爺ちゃんの親、あなたからみると曾お婆ちゃん(曾祖母)と曾お爺ちゃん(曾祖父)がいてくれたからこそ、あなたのお婆ちゃんとお爺ちゃんが生まれてくることができた。こうしてたどっていくと、あなたからみれば、たった十代前のご先祖さまでも、なんと1,000人以上(実際、1,024人)もいるのですよ。すると、あなたのお母さんお父さんを含め、十代前までのすべての人を合計すると、なんとなんと2,000人以上(実際、2,046人)にもなるのです!
つまり、とてもたくさんのあなたのご先祖さまがいてくれたおかげで、今ここにあなたがいるわけだね。もし、そのたくさんの人たちのうち、たった1人でもいなかったら、残念ながら、あなたはこの世にはいなかった。だから、あなたがこの世に生まれてこれたことは、まさに奇跡としかいいようのないすごいことなのです。
まだある奇跡のお話
奇跡のお話はこれだけではありません。
お母さんとお父さんはかつてあなたが生まれてくる前、お母さんの体の中では卵細胞(卵子)が、お父さんの体の中では精細胞(精子)がつくられていたわけだけど、お父さんの精細胞がお母さんの体の中に泳いでいって、奇跡的にお母さんの卵細胞と出会ったことで受精が起こった。この受精した細胞を「受精卵」というのだけど、受精卵はあなたの体ができる、最初の!たった1個の!目に見えない!小さな!でもあなたをつくり出すすべての可能性を秘めた細胞なのです。
精子と卵子の出会いの奇跡って?
卵細胞はお母さんのお腹の中で1ヵ月にたった1個(一生で約500個)つくられ、精細胞はお父さんのお腹の中でたくさん(数えきれないほどたくさん)つくられる。そして驚くことに、それらの細胞の中の遺伝情報(DNA)はどれもほんの少しずつちがいがある。すると、つくられる卵細胞と精細胞の見た目は同じでも中身は一個一個すべて異なる。これはどういうことかというと、将来あなたの体になる受精卵をつくるためのたった1個の卵細胞と、たった1個の精細胞が出会えた確率は限りなく低く、実はほとんど「0」。だから、あなたの体がつくられる受精卵ができたことは、実はとてつもなく奇跡的なことなのです。
もしもお母さんの卵細胞があなたの体をつくる精細胞と異なる精細胞と受精していたならば、それはあなたとはちがう別の人の受精卵ができあがったことになるでしょう。もしそうだったならば、この世にあなたが生まれてくることはなかった。ですから、あなたがこの世に生まれてきたことは、まさに奇跡の中の奇跡なのです!
あなたはお母さん似?それともお父さん似?
卵細胞と精細胞の中には、栄養分とともに、お母さんとお父さんの遺伝子がふくまれています。受精が起こると、その遺伝子どうしがであう。ちょうど半分半分。だから、あなたはお母さんの遺伝子とお父さんの遺伝子を半分ずつ受け継いだ体なわけです。
あなたの顔はお母さん似? それともお父さん似? 女の子はよくお父さんに似る、男の子はお母さんに似るというけれど、それでもやっぱりどちらにも似ている部分があるはず。
お母さんとお父さん
お母さんとお父さんは、そんなあなたが大好きなんです。お母さんとお父さんのいちばんの宝物、それはあなたです。「お部屋を片付けなさい、宿題しなさい、早く寝なさい、言うことをききなさい、喧嘩してはいけません、残さずたべなさい、ご飯はこぼさないようにたべなさい、お箸をきちんともちなさい」などと、いろいろうるさいことをいわれるときもあるけれど、それはあなたが大好きだから。あなたを大切に思うからこそいうのです。そして、お母さんとお父さんは一所懸命働いて、汗を流して、つらいこともすべて我慢して、あなたに愛情のすべてを注いで育ててきてくれた。なぜそこまでしてくれるのかって? それは、あなたはお母さんとお父さんの体の一部を分けて授かった、世界でたった一人の掛け替えのない存在だから。
そんなあなたもお母さんとお父さんが大好きでしょ?
限りある時間を大切に
でも、命というのは、前回のテーマ(第30話「命」)でもお話ししたように、いつか終わりがくる。今のあなたにはまだ命の終わりなんか信じられないし考えられないことかもしれないけれど、すべての生き物には終わりがくる。
だからこそ、あなたは限りある時間を大事にして、家族や友人、大切な人たちとともに楽しみ、そしてたくさんの思い出をつくりましょう。それがいちばんの幸せであり、悔いのない人生になることでしょう。
命と命のリレー
あなたが女の子であれば、大きくなったら、子供を産むかもしれない。そう、お母さんとしてね。あなたが男の子であれば、男の子は子供を生まないけれど、受精には精細胞が必要だった。そう、お父さんとしてね。だから、女の子も男の子も、お母さん、そしてお父さんとして子供ができるためには必要な存在。これはまさに命と命のリレー。そしてそのリレーは未来永劫
絶えまなくずっと続いてゆく。
まとめ
今日のお話をまとめると、あなたはお母さんとお父さんがいてくれたから生まれることができた。もしもいなかったら、あなたはこの世に生まれてくることはなかった。お母さんとお父さんにもそれぞれの親(お婆ちゃんとお爺ちゃん)、そしてお婆ちゃんとお爺ちゃんにもそれぞれの親(曾お婆ちゃんと曾お爺ちゃん)と続くご先祖さまがいてくれたからこそ生まれることができた。そうやってずっと命から命を連綿と受け継いできた。
あなたの心、体、そして命がここにあることはまさに奇跡。きっとあなたは、生きているのではなく生かされているのでしょう。この奇跡の結晶であるあなたを精一杯輝かせるためにも、これからも一生懸命に生きていきたいものですね。
いかがでしたか? あなたが生まれてこれたのは、お母さんとお父さん、そしてずっとずっと昔から続いてきたご先祖さまがいてくれたおかげだということがわかりましたか? ときにはお墓参りをして、ご先祖さまに感謝の気持ちを伝えることの意味もわかりましたね。
“今ここにあなた”がいることのすべてに対し、おかげさまの気持ちとありがたい気持ちを、あなたの心と体に命が灯っている限り、ずっと持ち続けて生きていきましょう。
エピローグ
このシリーズのしめくくり。
あなたはこの『人体MAPS』でたくさんのことを勉強しました。
あなたの体にはさまざまな体の部位や臓器
があり、それらがあなたが生きることを実にうまく支えてくれているお話、あなたが生まれる前にたくさんのご先祖さまがいて下さった奇跡のお話、お母さんとお父さんの細胞からあなたの体のもとになる受精卵ができた奇跡のお話、そして今ここに、心と体と命をもったあなた自身がいる奇跡のお話、これらの奇跡のお話に思いを馳せると、もうそれは“たまたま”とか“運がいい”などの言葉では言い表すことができない、むずかしい言葉でいえば、人智を超えた大いなる何かの力がはたらいているのでは、と考えずにはいられません。そう、もしかすると、いいえきっと、目には見えないけれど、神さまっているのかもしれません。そしてその神さまはあなたに燦然と輝く命と希望と元気を与え、この世に生(誕生すること)を授けて下さった。きっとそういうことなのでしょう。それはあなただけが与えられた特別なものなのではなく、この世にいる人、いた人、そしてこれから生まれてくる人、すべてにあてはまることでもあるのです。
あなたは何を感じましたか? あなたが“今ここにいるその訳”とは一体何だと思いますか? そしてあなたはこれから先、何をなすべきと考えたでしょうか。あなた自身、これからそういったことをじっくり考えてくれることを、筆者は願っています。
一つの答えは、お母さんとお父さん、お婆ちゃんとお爺ちゃん、そしてすべてのご先祖さま、そして、この世界に生を授けて下さった目に見えない神さまに、いま自分がここにいることに対して感謝の気持ちを忘れないことでしょう。
目をとじて唱えましょう。「ありがとう」って。
文
(イラスト/齊藤恵)
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