ウーパールーパーを知っていますか? そう、あのチャーミングな顔がなんともたまらない水の生き物です。実はおうちでの飼育が難しくない上、生態的に興味深い点がたくさんあります。ここでは、ウーパールーパーの基本から飼育方法、自由研究にする際のポイントまでわかりやすく解説していきます。
ウーパールーパーの基本
ウーパールーパーは、日本で最もポピュラーな両生類のペットの1つです。その愛らしい姿が何よりの特徴ですが、少し調べてみると、とても興味深い生態の生物であることがわかります。一般的な方法で飼育するだけでも十分にその魅力を知ることができますが、いろいろな知識をもって観察してみると、多くの発見が得られるでしょう。
ウーパールーパーは両生類のうちの有尾類(有尾目)と呼ばれる仲間で、メキシコサンショウウオ(学名:Ambystoma mexicanum)というのが正式な名前です。メキシコに生息するサンショウウオの一種で、古代アステカのナワトル語で水と犬を意味する「アホロートル」という名前で呼ばれることもあり、「水の使者」や「水の精」などの意味もあります。このことからもわかるように、古代から人間と関わってきた生物で、食用にもされていたそうです。
しかし、現在では生息地の激減により、絶滅危惧種
になってしまいました。悲しい現実ですが、メキシコよりも日本にいるウーパールーパーの個体数の方が多くなっているかもしれません。
ウーパールーパーの特徴①ネオテニー
ウーパールーパーでもっとも興味深いのは、ネオテニー(幼形成熟
)と呼ばれる特徴です。幼体の形のまま性成熟
し、繁殖
を行うことができます。
サンショウウオの仲間を含めた両生類は基本的に水辺で繁殖行動を行い、卵から幼体の期間を水中で過ごします(ただし、例外も少なくありません)。成体に近づくとエラが消えて、エラ呼吸から肺呼吸や皮膚呼吸に変化して上陸します。ただし、体が乾いてしまうと生きていけない種類が多く、水辺の近くや森林内など湿度のある場所で生活しています。そして産卵期になると、産卵のために水辺や水中へ戻ってきます。
一方、ウーパールーパーの場合、幼体の姿のまま繁殖を行い、陸上にはあがらず水の中で一生を過ごす個体がほとんど。成体になっても外エラがなくなることがありません(外エラについては、後ほどまた詳しく解説します)。
ウーパールーパーの特徴②再生能力
生物の再生能力といえばイモリが有名ですが、ウーパールーパーも驚異の再生能力の持ち主です。
ウーパールーパーを含めた有尾類の仲間の多くは、再生能力がずば抜けています。手足を失ったりしても再生してしまうのです。人も肝臓
などが再生することが知られていますが、手足などを大きく失ってしまうとちょっとした傷のようには再生できません。ウーパールーパーは四肢
(手足)などはもちろん、外エラや尾なども再生してしまいます。さらに、内臓や脳、脊椎
などが損傷しても再生することがわかっています。
このようなウーパールーパーの能力は医学的な観点からも大変注目されており、人間の10倍以上、320億の塩基対
からなるゲノム情報の解読がすでに終えられ、その能力の秘密を握る遺伝子の研究が進められています。再生医療の発展のカギを握っているのは、ウーパールーパーかもしれません。
このようなおもしろい生態が身近に観察できる、ウーパールーパー。ぜひ飼育に挑戦して、その魅力を発見してみませんか?
ウーパールーパーを飼育してみよう
飼育環境を整える
ウーパールーパーの飼育は難しくありません。一般的な飼育ケースに小型フィルターを使用するだけで飼育可能です。室温であれば、ほぼ問題なく飼育できますが、夏場の高水温には少々注意し、涼しい場所で飼育するとよいでしょう。必要であれば、冷却ファンなどを使用しましょう。
エサは市販されているウーパールーパー専用の人工飼料が最も適しています。基本的になんでもよく食べる生物ですが、バランスのとれた「ひかりウーパールーパー」などの人工飼料を中心に、たまにおやつ程度に冷凍赤虫やイトミミズ、大型の成体にはメダカや金魚を与えてもよいでしょう。ひかりウーパールーパーは各サイズが用意されているので、飼育する個体の大きさに合わせて購入します。
とても大食漢なので、水が汚れやすい傾向があります。1週間に1度から2度は半分程度水を変えてあげることが大切です。ウーパールーパーの体表は水質悪化の影響をダイレクトに受けてしまうので、フィルターでは補えない水質悪化を、水換えを行うことで改善します。
どんなウーパールーパーをどうやって飼育する?
ウーパールーパーの購入は、アクアリウムショップやホームセンターなどでも可能です。卵の購入は専門店で稀にできますが、ほとんどは5cmから10cmの個体の購入になります。ピンクホワイトのかわいらしい色のイメージが強いウーパールーパーですが、カラーバリエーションもいくつかあります。購入する際は好みの色を確認しましょう。
性別の区別は、成体になって繁殖期になるとオスの総排泄口
付近(後ろ足と尾の付け根辺り)の膨らみでわかるのですが、普段は難しいので、雌雄を飼育しようと考えているのであれば複数の個体を飼育することをおすすめします。雌雄をしっかりと飼育していれば繁殖も可能で、繁殖行動を観察でき、産卵した卵や、孵化
した幼体観察もできるので、ぜひ挑戦してみましょう。卵は水草などに産み付けるので、水槽内に丈夫な水草を入れるか、イミテートの水草を入れて置いてもよいでしょう。
同一の水槽で複数飼育する際には、注意点があります。
ウーパールーパーは何でもよく食べると話しましたが、それが仇になることもあります。ウーパールーパーはじっと待ち伏せしてエサを捕食する待ち伏せ型で、匂いにも敏感です。習性として、目の前を通過する物体に反射的に反応してしまうことがあり、複数飼育していると他のウーパールーパーにも噛み付いてしまうことがあります(ネオテニーなので歯はありませんが、鋤骨歯列
と呼ばれる歯のような硬い部分があります)。
成体になるとそれほど問題ないのですが、幼体の時期はかじられて外エラや手足などを食べられてしまうことがあるのです。ただし、すでに解説したように、再生能力がありますので、多くの生物では手などを食べられてしまうと一生その状態で暮らしていかなければいけませんが、ウーパールーパーの場合はその程度であれば問題ありません。
外エラを観察してみよう
ウーパールーパーの外見上の特徴として挙げられる、外エラ。多くの魚はエラ蓋
の内側に内エラをもっていますが、ウーパールーパーには見ての通り、エラ蓋から突出している外エラがあります(外エラは「外鰓
」とも呼ばれます)。
アフリカに生息する古代魚であるポリプテルスや、肺魚
の仲間の一部は幼魚のときに外エラをもっていますが、成長とともに内エラだけになります。ですが、前述したようにウーパールーパーはネオテニーなので、成体になっても外エラがなくなりません。また、エラ呼吸を行いながらも肺をもっているので、時折水面まで泳いできて、口から直接呼吸をする行動も見られます。おうちでウーパールーパーを飼育した際には、よく観察してみましょう。
また、外エラは3対6本ですが、その大きさには個体差があります。筆者の経験上、しっかりとろ過された状態のよい水質でエアーレーションを強めにして程よく水流がある環境にすると、外エラが大きくなる傾向があります。数個体を飼育して、それらの違いを調べて見るのもおもしろいでしょう。
上級者になったら、陸上にあげてみることも
ウーパールーパーがネオテニーであることはすでに解説しましたが、まれに変態する個体がいます。有尾類の変態には「Thyroxine(チロキシン、サイロキシン)」という甲状腺
ホルモンが関わっていますが、ウーパールーパーはチロキシンを分泌しないことによって幼形成熟をしています。チロキシンを合成するのにはヨウ素が必要なのですが、飼育水にヨウ素を継続的に添加すると変態することが知られています。
ウーパールーパーの変態した姿は滅多に見られるものではありませんが、このような方法で見ることはできるのです。ただし、ネオテニー個体よりも飼育は難しく、成体に合わせた飼育環境を用意したり、エサの与え方などもコツが必要になります。また、上陸した成体は、幼形成熟の個体より短命であることが知られています。
いつか成体の姿を見てみたいと思ったら、まれにネオテニーが発生することのある近縁種のタイガーサラマンダーなど他のサンショウウオの成体を飼育して、ある程度の飼育技術を身につけてから挑戦することが大切です。
自由研究のポイント
ウーパールーパーってとってもおもしろい! ここまで読んで、自由研究でウーパールーパーの観察をしてみたいと思った人もいるでしょう。ここでは、自由研究にまとめるにあたってのポイントをまとめて紹介します。
飼育日誌をつけよう
生き物観察の基本ですが、日々の飼育日誌をつけるようにしましょう。水温や気温、その日に観察できた行動や気になったことなどを記録します。できれば写真もたくさん撮影しましょう。こういった記録は、ウーパールーパーの体調管理や水槽の環境を把握するのにも役立ちます。
繁殖や成熟化に挑戦しよう
複数飼育であれば、繁殖にも挑戦できます。卵から孵化し、大きくなるまでの様子を記録しましょう。どのような環境を整えると産卵しやすくなるのか、卵が産まれたらどんなことに気を付ければいいのかなど、調べたことも合わせてまとめるとよいでしょう。飼育上級者であれば、成熟化に挑戦してみてもよいかもしれません。ウーパールーパーは寿命が比較的長いので、長期的なスパンで研究してみるとますます興味深い発見があるかもしれません。
生態や生息地について調べてまとめよう
ここでも紹介してきたように、ネオテニーであることや再生能力など、ウーパールーパーは生態的に興味深い点が多くあります。これからの特徴について調べてまとめてみましょう。ウーパールーパーは絶滅危惧種で、サイテス(ワシントン条約)の2類に分類されています。野生のウーパールーパーの現状について調べるのもよいでしょう。
また、日本のウーパールーパーは100%日本産まれで、みなさんがウーパールーパーを購入して飼育しても、生息地の生態に影響はありません。地球環境に配慮したペットという視点で、ウーパールーパーを調べてみてもおもしろいでしょう。
アカハライモリと比較してみよう
野生下では日本に広く分布し、ウーパールーパーと同じくペットとしても人気があるアカハライモリ。同じ有尾目の仲間で、幼体のアカハライモリは外エラをもつため、特にウーパールーパーとよく似ています。しかし、成体になると大きな違いが出てきます。ウーパールーパーとイモリの比較をまとめてみるのもおもしろいでしょう。
ウーパールーパーの生態や飼育については、コカネット「デジタル図書館」に入っている下記の書籍も参考になります(閲覧はコカネットプレミアム(DX)会員のみ)。
爬虫類・両生類★飼い方上手になれる!
『ウーパールーパー・イモリ・サンショウウオの仲間』
著:佐々木浩之
文・写真
協力/うぱるぱ屋、キョーリン