連載《人体MAPS》 第29話「心」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「
こころ)
(
」です。

心はどこにある?

 あなたの「心」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 あなたは今心臓のあたりをさわりましたか? それとも頭をさわりましたか?

 これは実はとてもむずかしい問題です。心って、どこにあって、その正体って、いったい何だと思いますか?

心は目に見えない

 「心」というのは、今まで勉強してきた体の部位のように、目で見えるものだったり、体温みたいに機械で(はか)れたりできるものではありません。だから、よくわからない。でも、「見たり、聞いたり、味わったり、匂いだり」という感覚、そして「動きたいように体を動かす、話す、食べる」など、あなたが普段の意識(いしき)の中で経験することは、心のはたらきの一つと考えていいと思います。

 ただ、心のはたらきはそれだけではないよね。心は、考えたり、判断したり、我慢したり、計算したり、想像したりという、あなた自身が積極的に行うことの他、喜んだり、怒ったり、(あわ)れんだり、楽しんだり、これらをむずかしい言葉で喜怒哀楽(きどあいらく)というけれど、そういう感情をつくることも心のはたらきだね。

心と脳

 それでは、今挙げたいろいろな心のはたらき、それらは体のどこにあるのでしょう。そう、脳ですよね。だから、脳は心をつくっている、生み出している、あるいは脳は心のある場所といってもよいでしょう。その証拠に、もしも脳に大きなけがや傷害(しょうがい)が起こると、その人の心が乱れたり、意識がなくなったりします。

心はいつからできはじめるのか?

 さて、あなたはあなた自身の心がいつからはじまったか覚えていますか? 大体3歳くらいじゃないかな。3歳になると、ある程度記憶ができるようになるから、振り返って思い出すことができる。だからみんな大体3歳頃っていう。でも、それは記憶ができるようになるからそう思うのであって、実際にはそれよりも前に心があったかもしれないし、そうではなかったかもしれない。あなたはどう思いますか?

 心というのは、その人にしかわからないもの。“心臓が動く”、“肺がふくらむ”、のように自分や他の人から直接見たり触れたりできるものではない。つまり、あなたの心はあなたにしかわからない。だから、心がいつ現れて、いつ終わるという疑問は、きっとどんなに医学や科学が進歩しても、わからないでしょう。

あなたの心とまわりの人の心

 あなたは心を持っている。すると、あなたのお友だちやおうちの人も同じように心をもっている。「心と心が通じ合う」っていうけれど、本当に心が通じあえたかどうかはわからない。だって、心は目に見えないのだから。

 ときには心と心が通じ合わなくて、お友だちと喧嘩(けんか)をすることもあるでしょう。それはそれで仕方がないことだけど、そういうときあなたは「だって、あの友だちがわたし(ぼく)の気持ちをわかってくれないから」ってお友だちのせいにしてしまうこと、ないかな? もしそうならば、仲直りが遅くなってしまうかもしれない。だって、お友だちはあなたの心の中がわからないのだから。逆にあなたもお友だちの心の中はわからない。そこであなたは、お友だちにもあなたには見えない心をもっているからこそ、そのお友だちの心の中を思い想像しながら接してあげようとすれば、そんな喧嘩は起こらないかすぐに仲直りできるかもしれない。そうでしょ?

心はあなたの行動をうつしだす()

 心は目に見えない。けれども、あなた自身の考えや行動はときにあなたの心を映しだす(かがみ)になるもの。なぜなら、あなたがどのように考え、どのように行動するかは、あなたの心が決めることだから。つまり、あなたの自由にはいつも心がついてくるということだね。

心を()える

 そこで、もしもあなたがこれから強くたくましく生きていこうと思うのならば、心を(きた)えていかないといけない。でも、目に見えない心をどうしたら鍛えられるのでしょう。実際、心を鍛えるなんて決して簡単なことではありません。

 一つの方法としては、「忍耐(にんたい)」を身に付けること。それには「我慢する力」と「継続(けいぞく)する力」の両方が必要で、どちらも身に付けるには苦しくてとても時間がかかることです。だけど、やればきっとできることでもあるもの。もしもあなたが大変だと思うことに対して途中であきらめてばかりいると、きっと心もその甘えにそまってしまって、忍耐力は身に付かないでしょう。だって、「あきらめる」は我慢と継続の正反対だから。

心もときには傷つく

 そうはいっても、長い人生の中ではいろいろなことがあるから、ときに心が傷つくことだってある。ずっと悲しいことが続いたり、ずっと痛いことが続いたり、ずっと(さび)しいことが続いたり、ずっと自分の思い通りにならなかったり、ずっと(はげ)しい労働(ろうどう)をさせられたりすると、人間の心はだんだん弱まってきて、ついには病気になってしまうことだってある。一度心の病気にかかると、なかなか治らない。そして心の病気は、必ず体の不調(ふちょう)として現れてくるものです。

 あなたはそうならないように、いつも心に元気の(たね)を植えておこう。そして、楽しい遊びやうれしいお話をたくさんして、いつも心に笑顔(えがお)の花を咲かせておきましょう!

心と体は通じ合っている!

 さて、あなたは今までのお話でもう気付いたと思う。実は、心と体ってとても深くかかわっていることを。これをむずかしい言葉で「心身(しんしん)一如(いちにょ)」といいます。

 心を鍛えることは体を鍛えること、体を鍛えることは心を鍛えること。心と体はつながっている。この教えは、あなたの長い人生できっと役立つでしょう。

心たくましく

 最後に。あなたはまた、正直で、正しくて、信頼される人であってほしい。なぜなら、それらは、あなたが一人の人間として、日本、いや世界のたくさんの人たちの中で生きていくためになくてはならない素質(そしつ)だから。それを(やしな)うためには、あなたはたくさん本を読みましょう。そしてあなたはその本を書いた作者や本の中の主人公の気持ちをよく考え、できればあなたの気持ちと比べてみましょう。それから、あなたのお友だちや先生、おうちの人、そしてできるだけ多くの大人の人とたくさんお話ししましょう。そうすると、あなたは自分の心だけでなく他人の心もわかってきて、深く広い心をもてるようになってくるでしょう。これを少し難しくいうと、「人間力(にんげんりょく)涵養(かんよう)」といいます。

まとめ

 今日のお話をまとめると、心はその人だけが持ついろいろなことを感じたり考えたりするはたらきの集合体。きっと心は脳の中で生み出されている。心は小さなころから鍛えておくことが大事。継続と我慢によって忍耐力を身に付ける。でも、心はときに病気になることもあるから、心に元気を与えることも大事。

 いかがでしたか? 心は目に見えないけれど、あなたにとってたった一つの、あなたといつも一緒にいる自分そのものだということがわかりましたか? 

 見えないからこそ、あなたの心を大切に、そして周りの人の心も大切にしましょう。もし、あなたの周りに心を痛めている人がいたら、そっと声をかけてあげましょう。あなたのその優しい心配(こころくば)りがその人にとってどれほど救われるものになるか。

 くれぐれも周りの人に、寂しい思い、悲しい思い、(みじ)めな思い、痛い思いをさせてはいけませんよ。 大切にしましょうね、あなたの心。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科教授、愛知学院大学健康科学部心身科学研究所 特任研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)、『生体物質事典』(ソシム)、『そうやったんか!ケアの根拠がわかる病態生理学 疾患・症状24』(メディカ出版)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

第12話「首」

第13話「おっぱい」

第14話「お臍」

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第16話「背中」

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第20話「骨」

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第22話「皮膚」

第23話「神経」

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