体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「お母さんのお腹」です。
あなたはお母さんのお腹の中にいた
もしお母さんがいたら、さわらせてもらってください。そして少しなでてみましょう。お母さんのお腹のさわり心地はいかがですか? 温かい? 柔らかい? 大きい?
あなたの目の前にあるお母さんのお腹は、実はあなたが生まれるまでの間、ずっといた場所なのです。
お母さんのお腹の中には「子宮」という袋状の臓器があって、あなたはそこで約10か月(40週)というとても長い期間、お母さんのぬくもりに包まれて共に暮らしていたのです。
お母さんのお腹の中っていつも大きな音がしていたと思う。何の音だと思いますか? 笑い声、話し声、歌声? それもあったでしょう。もっと大きな音、それはお母さんの心臓の音です。「ドクン、ドクン」、お母さんの心臓はずっと動いていて、その音を聞いて10か月間過ごしてきました。
赤ちゃんを泣き止ませる方法
泣き止まない赤ちゃんにお母さんの左側のお胸に耳を当てると、赤ちゃんが泣き止むってことがあります。なぜだろうね。きっと、お母さんの心臓の音を聞いた赤ちゃんが、かつてお母さんのお腹の中にいたとき、毎日聞いていた音と同じだから、安心して泣き止むのでしょうね。
下腹部にある「子宮」
お母さんの子宮のある場所は、お腹の下のほう、「下腹部」です。赤ちゃんがいないときの子宮の大きさは大体7cmくらいだから、とても小さいですね。
焼肉屋さんに行くと、ときどき「コブクロ」っていうメニューがあります。これは牛の子宮のことです。きっと、赤ちゃん(子)を育てるための袋(フクロ)であることからそのような名前が付けられたのでしょう。人間も特に男の人は自分のお母さんのことを「おふくろ」ということがあります。これは一説によると、かつて自分がいた子宮のふくろをお母さんと見立てて、尊敬の念も込めて「おふくろ」って呼ぶのだそうです。
あなたは子宮の中でどのような姿でいたの?
さて、あなたが生まれる前の小さな赤ちゃんのとき、子宮の中にいたわけだけど、そのときの子宮の中は「羊水」という液体で満たされて、あなたはこの羊水のプールの中に浸った状態でいました。
え? プールの中にいたらどうやって息をするかって?
実はね、お腹の中にいる状態の赤ちゃんは、酸素を得るための息を吸ったり吐いたりする呼吸運動はしていません。もちろんそれでも生きています。では赤ちゃんはどうやって酸素を得ていたのでしょう。
第14話「お臍」のときのお話をもう一度思い出してください。子宮の中の壁の一部には、胎盤があったよね。胎盤は、ちょうどお母さんの体の血管とあなたのお臍から伸びる臍帯の中を通る血管とが向かい合う場所。つまり、お母さんの血液とあなたの血液がものすごく近づく場所ってことだね。そんな場所だから、お母さんの血液の中の栄養分や酸素があなたの血液の中にどんどん入ってくる。まさにお母さんからあなたへの栄養の“お裾分け”だね。そしてもらった栄養は、臍帯の中を流れてお臍に向かい、やがてお臍からあなたの体の中に入っていく。こうしてあなたは、自分で栄養や酸素をとらなくてもお母さんからそれらをプレゼントされていたんですね。
あなたの体から出るゴミ(老廃物)は?
それだけじゃないよ。あなたの体の細胞からはたくさんのゴミ、つまり老廃物が出るはず。この老廃物、どうしよう?
実は、あなたの体から出た老廃物は、栄養とは逆に、あなたのお臍を出て、臍帯を通って胎盤に向かい、やがてお母さんの血管の中にとりこまれていきます。そしてお母さんの体の中であなたの老廃物をお掃除してもらうのです。
まとめると、今あなたがやっている口や鼻から息を吸い込んだり吐いたり(酸素を得る)、食べ物を口から取り入れたり(栄養分を得る)、ゴミを出したり(老廃物を処理)、そういう生きていく上で絶対必要な活動は、なんと、お母さんの子宮の胎盤がしてくれていたのです。すごいでしょ、お母さんのお腹!
お母さんのお腹の中でどんどん大きくなった
あなたの体はこうしてどんどん成長し、あなたがお母さんのお腹の中にいはじめて3週目くらいにはもう心臓ができはじめて、8週~10週目くらいには、目、耳、手足、中枢神経など、多くの体の部位がつくられてゆきます。そして大体5か月くらいになると、あなたはずいぶん体が大きくなって、足でお母さんの子宮の壁を内側からグイグイ押すようになる。お母さんはそれを感じるようになる。これを「胎動」っていいます。お母さんはそれを感じると、「あ、今日も赤ちゃん元気にお母さんのお腹の中で活動しているのね」って、わかるのです。あなたとお母さんのいちばん近いキャッチボールだね。
この後もあなたはどんどん体は大きくなって、お母さんのお腹の中で過ごす期間が9か月を過ぎると、お母さんのお腹もすごく大きくなる。もちろん子宮もそれだけ大きくなる。最初は小さかった子宮もあなたが生まれる前にはとても大きく広がることができます。まるで大きな風船のように。
いよいよ出産の準備、こうしてあなたは生まれてきた
ここまでくると、あなたはもういつ生まれてもおかしくない。お母さんもあなたを生む準備を整えて、あなたが「もうここから出るよ!」という合図を出すまで、待っててくれている。そしていよいよ出産。
お母さんは陣痛というとても痛い思いをして、何時間も何時間も耐えて踏ん張って歯を食いしばってあなたを生むのです。そしてあなたはお母さんのお腹の下(腟口)から頭を先頭にして出てきます。そう。あなたがこの世界に生まれてくる瞬間。あなたは「オギャー、オギャー」と産声をあげる。そして、お母さんとあなたのはじめてご対面。お母さんは生みの苦しみからやっと開放され、あなたを見た瞬間、喜びと安心感から思わず涙がこみあげ、あなたをやさしく抱きしめる。これ以上ない感動と神秘的な場面です。
あなたが生まれるときって、実はこんなにすごいことがあったのです。
まとめ
今回のお話をまとめると、お母さんのお腹の中には子宮という、あなたが生まれるまでのしばらくの間育ててもらった袋状の臓器がある。子宮の中は羊水で満たされ、あなたはその中に浸った状態でいた。
そしてあなたがお母さんのお腹から生まれ出てくる。生まれるまで約10か月間、あなたはお母さんの胎盤から栄養をもらいながらどんどん成長していく。
いかがでしたか? お母さんのお腹はあなたにとってとても大切な体の一部、いや、命と成長の源だということがわかりましたか?
大切にしましょうね、お母さんのお腹。そしてたまには命がけであなたを生んでくれたお母さんに感謝し、お母さんのお腹をなでて自分が育った場所を大切に大切にいたわりましょうね。
文
(イラスト/齊藤恵)
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