体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「汗」です。
汗は体のどこから出る?
あなたの「汗」は体のどこから出ますか? 手で示してみましょう。
そう、汗は体の皮膚のほとんどの部分から出ますね。頭、鼻の頭、首まわり、背中、わきの下、手のひら(手掌)、足の裏(足底)などから特に出ませんか?
汗は、皮膚の表面にある「汗腺」という特殊な細胞でつくられて、皮膚の表面に分泌されます。ちなみに「分泌」というのは、汗や涙などの液体成分を出すことを意味します。
汗が出る理由
あなたは汗がなぜ出るか知っていますか? そう、第22話「皮膚」のお話でもあったように、“体を冷やすため”ですね。汗の一番大切な役割は、「体温調節」です。
夏の暑いとき、外の気温は体温(36~37℃)を超えることもあります。そんな中で運動すると、汗がどんどん出てくる。大人だとその量はなんと1時間に1,500mL! そしてこれを長時間続ければ5,000mLにもなるとか!! すごい量ですね。
汗が体を冷やすしくみ
では、どうやって汗は体を冷やすのでしょうか。
汗が出ると皮膚の表面が濡れます。その汗に含まれる水分が蒸発するとき、つまり、汗の水分が「液体から気体に変化する」とき、水はたくさんのエネルギーを必要とします。そのエネルギーの一部はあなたの体の皮膚の温度が用いられます。言いかえると、あなたの体温が汗にうばわれる。だから、汗が乾くのと同時に、あなたの皮膚の温度が下がり、体が冷えることになるわけです。
お風呂から上がった直後、「寒いっ!」って思ったことないかな? お風呂から上がったばかりのときは、さっきお話しした汗が出た状態と似ていて、皮膚がまだ濡れている。しかも体全体に。すると、皮膚の表面の水分が一気に蒸発し、体全体が急に冷やされるから「寒い!」って感じるわけですね。風邪ひかないためにも、お風呂から上がる前にしっかり体をふきましょう。
2種類ある汗腺
この汗をつくって体の表面に分泌する汗腺は、実は2種類あります。「エクリン汗腺」と呼ばれる小汗腺と、「アポクリン汗腺」と呼ばれる大汗腺です。
エクリン汗腺は、体の皮膚のほとんどに分布しています。ここから出る汗の成分のほとんど(99%以上)は水分で、残りは食塩、尿素、アンモニア、ムコ多糖などが含まれます。エクリン汗腺の主な役割は体温の調節です。暑いときは汗を大量に出して、すばやく体温調節が行われます。また手掌や足底のエクリン汗腺は、ドキドキしたときなど精神的な緊張が高まっているときに特に分泌が多くなります。
一方、アポクリン汗腺はエクリン汗腺と違って、体の一部の限られた場所にあります。耳の孔、わきの下、まぶた、乳輪、肛門周囲など。アポクリン汗腺は人以外の哺乳類では全身にあって、体温調節よりもむしろ、自分の存在場所を示したり、異性へアピールするフェロモンとしての作用が大きいようです。しかし人間の場合はエクリン汗腺が全身で発達したから、哺乳動物のそのような作用はほとんどなくなっています。
アポクリン汗腺から出る汗は、脂質、糖質、タンパク質などを含んで、ミルクのような粘り気のある分泌物です。この分泌物そのものににおいはないけれど、分泌されたのちに皮膚表面に住む細菌によってアポクリン汗腺からの分泌物が分解されて、特有の臭いを発するようになります。人間も思春期になると、アポクリン汗腺の働きが活発になってにおうようになる。特に、わきの下から出るにおいは、異性が気になる思春期ではちょっと悩みのタネになってしまいます。
発汗にもいろいろな種類がある
ところで、通常私たちが暑いときにかく汗を「温熱性発汗」といって体温調節が主な役割だけど、それ以外にも汗が出ることがあります。さっきも少し触れたけど、「精神性発汗」というもの。これは緊張したときなど、交感神経の興奮によって分泌が増えて、まさに「手に汗をにぎる」とか「冷や汗をかく」状態のときにかく汗です。
その他、食べ物に含まれる成分でとくに酸味や辛味など味覚の強い刺激によって起こる「味覚性発汗」というものもあります。
それから、気温や運動に関係なく、たえず行われている汗の分泌もあって、これは目に見えない汗の分泌ということで「不感蒸泄」といいます。これは一日に600mLほど出るからけっこうたくさん出ます。その他、「盗汗」といって病気になったときに出る汗や「更年期の発汗」といって特に年を重ねた女性によるホルモンバランスの乱れによって出る汗もあります。
こまめな水分補給を
汗はこのように体温を調節すること以外に、あなたが気付いていないときでもたくさん出ています。だから、特に夏の暑い時期にはこまめに水分をとるようにこころがけましょう。
汗にはさっきお話ししたように塩分が含まれているから、大量に汗をかくと身体の塩分もうばわれるので、水だけでなく適度な「塩」をとることも忘れないようにしましょう。ポカリスエットなどスポーツ飲料がおすすめです。
まとめ
今日のお話をまとめると、汗は汗腺から分泌される水分とその他の成分を含む液体のことで、体の体温調節としての重要な機能をもつ。汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺があって、エクリン汗腺は体のほとんどの部位に、アポクリン汗腺は体の限られた場所にあって、分泌される成分も異なる。
いかがでしたか? 汗を出すことはあなたの体の中の大切なはたらきだということがわかりましたか?
汗をかくことは単に体温調節だけでなく、体を動かして体の中にたまった老廃物を出すなど別のよいはたらきもあるから、ときどき運動して気分をリフレッシュしましょう。
大切にしましょう、汗をかくことを。
文
(イラスト/齊藤恵)
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