体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「神経
」です。
神経はどこにある?
あなたの「神経」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
え? 神経はどこにあるかわからないって? 神経はね、実は、体のあちこちにあります。ただ、いちばん大切な神経は何かといえば、わかるかな?
そう。頭をさわっているあなた、正解です。脳です。脳は、計算したり、考えたり、判断したり、体を動かす命令を出したり、見える、聞こえる、味わう、匂うといった感覚を出したり、痛い、冷たい、かゆいなど皮膚から受ける感覚を受けたりと、本当にいろいろなことをしています。そればかりか、心臓、肺、胃、腸、肝臓、腎臓など内臓を動かすはたらきも行っていて、まさに脳は“体の中のもっともえらい司令塔”として、体の中で一番大切な場所です。
脳の次に大切な場所
では、体の中で二番目に大切な場所はどこだったかな?
そう、脊髄だったね(第16話「背中」参照)。
脊髄も神経の仲間です。脳と脊髄を併せて「中枢神経」といいます。中枢神経って名前、いかにも大切そうでしょ?
脳と脊髄から伸びる神経たち
さっき、神経は体の中のあちらこちらにあるといいました。これはどういうことかというと、中枢神経から白く細長い神経が、まるで木の幹からたくさんの枝が分かれて出てくるように、全身に広がっています。その枝はあなたの皮膚、筋肉、そして内臓など全身のあらゆる部分に達しています。脳から出る神経は主に顔や頭の部位に、脊髄らか出る神経は主に首から下の部位に伸びていきます。
これらの中枢神経から体の隅々に伸びていく神経のことを、中枢神経に対して「末梢神経」といいます。
末梢神経って何?
末梢神経は、筋肉や骨のように皮膚の上から触ってすぐわかるものではないけれど、ときどき末梢神経の存在に気付かされるときがあります。あなたは、自分の肘の少し内側を机の角などにぶつけて、一瞬「ビリッ!」と電気が走ったような感覚をもったことありませんか? これは、肘のすぐ近くを通る尺骨神経という神経が刺激されるために生じる感覚です。この尺骨神経がまさに末梢神経の一つです。
末梢神経の役割はちょっとわかりにくいけれど、簡単にいうと、連絡係です。たとえば、あなたの手の皮膚をつねると、あたりまえだけど痛い。この「痛い」という感覚は、つねった皮膚の所にある痛みを伝える末梢神経が「つねった」という情報を脳に伝えるために起こります。「痛み」は具体的には大脳の中の「感覚野」という場所に情報が運ばれて、脳が「痛み」の感覚を生みだすことによってあなたは「痛い」と感じる。このときの末梢神経をとくに“感覚神経”と呼んでいます。少しややこしいけど、要するに皮膚そのものが痛みを感じているのではなく、脳が伝えられた情報をもとに「痛み」の感覚を出して感じているということ。このしくみは痛みだけでなく、かゆい、熱い、冷たい、触れる、見える、聞こえる、匂うなど、すべての感覚が脳で生み出されて、あなたがそれを感じているのです。
逆に、脳で始まった情報を体のどこかに伝えることもあります。例えば、左手の人差し指を曲げたいとき、まずは脳の左手の人差し指に指令を出す場所が活動して、その情報が脳➝脊髄➝末梢神経➝左手の人差し指を動かす筋肉、と順番に情報が伝わることで、指がうごきます。このときの末梢神経をとくに“運動神経”と呼んでいます。
自分の意志で動かすことができる神経とそうでない神経
神経のはたらきはとても複雑で、さっきの指を曲げる・伸ばす運動のように、自分の意志で動かすことができる神経と、心臓や肺、胃袋を動かすなど、自分の意志とは関係なく勝手にはたらく神経があります。つまり、末梢神経の中でもいろいろと役割や種類があるということです。
基本的に、自分の意志で動かすことができる神経を「体性神経」、自分の意志とは無関係に動く神経を「自律神経」といいます。自律神経は主に、平滑筋、内臓、血管、そして汗や涙などの分泌腺に分布しています。あなたがご飯を食べてからすぐに寝たとしても、朝起きるとお腹はへっている。これは何より自律神経があなたの知らないところできっちりはたらいてくれている証拠です。
神経がかかえる弱点
ところで、こんな大切な神経に決定的な弱点があるってこと、覚えているかな? そう、一度神経がダメージを受けると、完全にもとの姿に戻すことができないというお話。第4話「頭」のお話でも出てきました。皮膚のように擦り傷や切り傷をしても元に戻る場所とはちがって、中枢神経も、末梢神経も、一度壊れたらもとに戻すことができない。すると、どうなるか想像してみましょう。
そう。一生体が動かなくなったり、痛みを感じなくなったりするのだった。これは大変!
神経の活動
さて、これまでみてきた「神経の活動」の正体って、一体何だと思いますか?
神経の中にはとても細長い形の細胞、つまり神経細胞があります。神経細胞の中では電気が発生して、その電気が神経細胞の中を流れて、たとえば手の中や足の中を電気が流れ、遠くまで活動を伝えることができるのです。まるでナマズみたいだね。
さらに神経細胞は、カタツムリのツノのような細長いアンテナをたくさん出して、神経細胞と神経細胞はそのアンテナ同士が結びつくことで、複雑なネットワークを形成します。脳の中にはおよそ1000億個の神経細胞があって、1個の神経細胞は約1000個のアンテナを持つといわれています。ということは、それぞれの神経細胞が他の神経細胞とむすびつけば、そのネットワークの数は、もはや天文学的な数字になります。こうして私たちは、物を考えたり、判断したり、いろいろと高度な活動ができるって考えられています。まさにスーパーコンピューターですね!
年齢とともに神経細胞の数が減っていく?
ただ、年齢を重ねていくと、神経細胞の数はどんどん減っていきます。おじいちゃんやおばあちゃんになると、物忘れが多くなったり、同じことを何度も言ったり、さっきいったことが記憶できなくなったり、やがては、その人の人格が変わってしまうこともあったりして、いろいろな場面でその影響が出てきます。おどろくことに、人間は20歳をこえたくらいから、徐々に神経細胞が減っていくのだそうです。
脳の神経細胞をできるたけ減らさないためには、若いうちから頭を使って頑丈な神経細胞ネットワークをつくっておくことが大切です。骨も筋肉もそうだったように、人間の体って、使えば使うほど丈夫になって長持ちする。だからあなたもたくさん本を読んだり、勉強したり、運動したり、お話の記憶をしたりして、脳をできるだけ使うようにしましょう。
睡眠時間をしっかりとろう
睡眠もとても大切です。一日の終わりの睡眠は、体の疲れをとることはもちろん、脳がその日あったことを整理したり、覚えたことをしっかり記憶に残したり、脳の休息のためだったり、最近だと「成長ホルモン」という体の成長にかかわるホルモンが出されたりするなど、睡眠は成長と休息になくてはならないとても大切な時間になります。
まとめ
今日のお話をまとめると、神経は、脳や脊髄を含めた中枢神経と、そこから出る末梢神経がある。末梢神経には自分の意識にのぼる神経(体性神経)と自分の意識にのぼらない神経(自律神経)、感覚の信号を伝える神経(感覚神経)、運動の信号を伝える神経(運動神経)がある。神経は一度損傷すると、もともとあった機能を完全に回復するのはむずかしい。神経の活動の正体は電気の流れ。脳(頭)は子供のころからしっかり使うこと。
いかがでしたか? 神経はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?
大切にしましょうね、あなたの神経。
文
(イラスト/齊藤恵)
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