人類初の有人月面着陸を果たしたアポロ計画から半世紀、アメリカが再び人類を月面に送り込もうと取り組んでいるアルテミス計画。3段階に分かれた計画のファーストステップである、「アルテミス1」のミッションが難航しています。ロケットの打ち上げが2度中止となり、次の打ち上げは早くても9月19日以降に延期されることになりました。原因は新型のスペースローンチシステム(SLS)ロケットのトラブルです。今回の記事では、再々延期となった経緯をまとめます。
エンジンの冷却失敗、液体水素漏れ……2回の打ち上げ断念
まず、当初の予定日であった2022年8月29日。ケネディ宇宙センターの39B発射台から打ち上げが予定されていましたが、SLSロケットのコアステージ(1段目)に取り付けている4基のRS-25エンジンのうち、1基の温度が規定の低温にまで冷却できず、2時間あった打ち上げ枠が時間切れとなってしまいました。午前8時34分(アメリカ東部時間)、実施の断念が決まりました。
再度挑んだ9月3日午後2時17分(同)の打ち上げでは、燃料の液体水素を発射台からSLSロケットのコアステージに注入しようとしたところ、燃料漏れが発生。3回にわたって漏れを止めようと試みたもののうまくいかずに中止となりました。SLSロケットに液体水素を地上から送り込む配管の接続部から漏れたのが原因でした。NASAは、液体水素を注入する前の準備作業で圧力が一時的に上昇するミスがあり、燃料漏れと関連があるのか調査していることを明らかにしています。
次に向けて、SLSロケットを組立棟に戻して再整備
2度にわたる打ち上げ断念の影響でシステムのバッテリーを再充電する必要がでてきたため、SLSロケットは一度、7kmほど離れた組立棟に戻され、3回目のチャレンジに向けて再整備を進めています。
次の打ち上げは、現地時間で9月19日〜10月4日(9月29、30日を除く)の間に設定されています。ただ、国際宇宙ステーション(ISS)に滞在する若田光一宇宙飛行士を乗せたスペースX社のクルードラゴン宇宙船が10月3日に39A発射台から打ち上げられる兼ね合いもあり、さらに先になる可能性もありそうです。
まずはホップ、ステップ、ジャンプのホップ
「アルテミス1」の段階では、SLSロケットの初号機で無人のオライオン宇宙船を月周回軌道に投入し、43日後にアメリカ・サンディエゴ沖の太平洋にオライオン宇宙船を着水させ、無事に帰還できるか確認することを目的としています。セカンドステップである「アルテミス2」では、2024年に有人のオライオン宇宙船を月周回軌道への投入を実施。最期のステップである「アルテミス3」はアポロ17号の月着陸から53年後となる2025年に実施予定で、女性飛行士による有人月面着陸を目指します。
まずは、ホップ、ステップ、ジャンプで進むアルテミス計画のホップがうまくいくかどうか――。アメリカの宇宙開発計画を担う重要な打ち上げ手段と位置づけられているSLSロケットの成否が、アルテミス計画、さらには日本も参加する月周回有人拠点「ゲートウェイ」の建設、人類が滞在する有人月面基地「ベースキャンプ」の建設を左右するだけに、関係者の緊張の日々が続きます。
※2022年10月17日追記:NASAは9月27日の打ち上げに向けて39B発射台で準備を進めていましたが、ハリケーンの接近で9月26日にSLSロケット初号機を組立棟に格納。10月12日の段階で、アメリカ東部時間11月14日午前零時7分(日本時間14日午後2時7分)から始まる69分間のローンチウインドウで打ち上げを目指すことになりました。11月16日と11月19日が予備日です。
※2022年9月16日追記:NASAは、9月21日までの試験実施、順調にいけばアメリカ東部時間9月27日午前11時37分(日本時間28日午前0時37分)の打ち上げスケジュールを明らかにしました。バックアップとしてアメリカ東部時間10月2日午後が設定されました。
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【バックナンバー】
《シリーズ「アルテミス計画」を追え その①》NASAアルテミス計画の全貌
《シリーズ「アルテミス計画」を追え その②》パーシビアランスが火星に着陸!火星探査ラッシュの到来
《シリーズ「アルテミス計画」を追え その③》打ち上げロケット1段目エンジンの燃焼テストに成功!