体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「皮膚
」です。
皮膚はなんのためにある?
あなたの「皮膚」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
皮膚は全身のいたるところにあって、つねったり、なでたり、たたいたり、何かとふれることは多いものです。そんな皮膚は、さわったりなでたりすると気持ちのよいものです。
皮膚は体のほとんどの部分を覆っていて、大人だと約9kgもあるそうです。そしておよそ数mmの厚さがあって、とても丈夫です。皮膚は表面から、角質層、顆粒層、有棘層、基底層といって、平たいものや丸い細胞が積み重なって分厚くできています。かといって硬い骨とは異なり、やわらかく、少し伸びたり移動できたり弾力があるから、ものにぶつかっても皮膚がやわらげてくれます。
もし皮膚がなかったら?
もしも皮膚がなかったら、体の中にある筋肉や血管、神経などが丸見えになってしまいます。だから皮膚は絶対に必要な体の一部です。
皮膚は体を覆うこと以外に、他に何か役割があるのでしょうか。
まずは、体をばい菌から守ることが挙げられます。 あなたの身の周りには、目に見えないたくさんのばい菌がいます。もしも皮膚がなければ、そのばい菌があなたの体の中に簡単に入ってくるでしょう。すると病気になってしまう。これではまったく生活ができません。
ばい菌以外にも体に入ってはいけない小さなものがあちらこちらに落ちています。だから皮膚はそういうものが体の中に入らないようにしっかり守ってくれているのですね。
皮膚からでる垢
ところで、皮膚の表面は毎日きれいに洗っていても垢がでます。この垢は、皮膚の表面から剥がれた古い皮膚細胞の死骸です。
実は、皮膚はとてもはやいスピードで古い細胞から新しい細胞にどんどん置き換わっていて、常に新しくつくりかえられています。ケガをしてもしばらくすると傷が治るのは、皮膚のこの特別な性質のおかげです。
皮膚をもう一度見てみましょう
ここで、あなたの皮膚をもう一度見てください。
実は皮膚の表面というのは目に見えない細菌がたくさんいます。もちろん、病気を引き起こす菌もあるけれど、多くは病気を引き起こさない、むしろ皮膚から悪い菌が入ることを防いでくれる菌です。この菌のことを常在細菌といって、これらの菌がしっかり縄張りという名のバリアーを張って、外から来た悪い菌を追い出してくれるのです。すごいでしょ!?
それ以外にも皮膚はいろいろな分泌液
を出します。その最も代表的なものが「汗」です。ふつう汗は暑いときに出るけれど、手に出る適度な汗はものをつかむときの“滑り止め”になったり、ばい菌を分解する成分を含んでいたりと何かと便利です。
とにかく皮膚は体の周りを覆っているだけでなく、悪いばい菌を体の中に侵入させないはたらきもあるのです。
手を観察してみましょう
それでは、手の皮膚をみてみましょう。手掌(手のひら)と手背(手の甲)の皮膚、少し様子が異なります。
手掌の皮膚は厚くつくられ、手背にくらべると汗が出やすくなっています。これはものを掴むときにとても便利です。手背をよくみると「毛」が生えていますね。逆に、手掌に毛はありません。もしも手掌に毛があったら滑ってものをうまく掴めませんね。
手背側の指先には「爪」が生えています。爪は、皮膚よりうんと硬いけれど、実は皮膚が特殊に変化してできたものです。指の曲がる向きを考えると、爪が手掌がわにはなく手背がわにある理由がわかりますね。
皮膚から生える毛
皮膚から生える毛は、場所によってその量が異なります。あなたは頭から生える毛以外に目立った毛はないと思うけれど、大人になると頭以外にも毛が生えてきます。一般には、男の人の方が女の人より毛が生える範囲が広くなる傾向があります。
毛は、髪の毛のように「頭を守る」という機能もあるけれど、実は「保温」といって、体の表面の温度を逃がさないようにする効果もあります。ただ、人間はサルやチンパンジーと違ってそれほどたくさんの毛があるわけではないから、保温効果といってもそれほど高くはありません。でも、「鳥肌」といって、寒いときやゾクゾクしたときに皮膚表面が鳥の肌のようにぶつぶつした模様になることがあります。これは一種の体温を逃がさないようにするための皮膚の反応なのです。
皮膚の色の違い
ところで皮膚は、人によって色に違いがあります。日本人は黄色人種といって、白っぽい色から茶色っぽい色の皮膚の人が多いけど、世界には真っ白な人もいれば、真っ黒な皮膚の色をもつ人がいます。
この皮膚の色は、その人が住む地域の太陽の光の強さと関係があります。 赤道といって、地球の中で太陽の光が強い地域に住む人の皮膚は黒いことが多い。これは、太陽の中に含まれる紫外線という有害な光を皮膚の奥にある細胞まで入れなくするためです。黒い色というのは、光を「吸収」する(光を通り抜けにくくする)性質があります。つまり、皮膚の色を濃くして紫外線が体の中に入らないようにしているのですね。
逆に、北極や南極に近い場所だと太陽の光が少ないから、紫外線の量も少ない。だからその地域に住んでいる人の皮膚の色は白いことが多いのです。
ほくろ
それから、私たちの皮膚にはほくろがあります。ほくろの場所や大きさや数は人によって異なります。私たちの皮膚には黒い色素(メラニン色素)をつくる細胞があちらこちらにあるのですが、ほくろはこの細胞が変化して、他のところよりもたくさん集まることことで見た目の黒いかたまりとなって見えたものです。
皮膚の感覚はすごい!
それ以外に、皮膚はたくさんのことを感じる”感覚器“としてのはたらきもあります。
熱い、冷たい、痛い、かゆいなど、いろいろな感覚を感じることができます。これによって、例えば自分の体にとって害になるような虫や、やけどするほど熱いものなど、近づいてはいけないものからすばやく身を遠ざけることができる。そしてもっとすごいのは、識別覚といって、手で触ったものが何かを見なくてもすぐに判別できます。たとえば、あなたは握手しただけでその手がお母さんの手なのか、お父さんの手なのか、見なくてもわかるでしょ?
「点字」といって、目が見えない人のための文字の表記法があります。点字は小さな点のあつまりだけど、それが言葉としての意味を持ちます。訓練すれば、点字を指先でさわるだけで何が書いてあるかを読み取れるそうです。点字は、電車の切符売り場など、実は私たちの身近なところにたくさんあります。
皮膚は体温も調節している
最後に、暑いときも、寒いときも、私たちは体温を一定に保つことができますが、皮膚はこの体温を一定に保つためのとてもすぐれた体温調節装置でもあります。このことについては、また「体温」のお話のところで。
まとめ
今日のお話をまとめると、皮膚は体の表面を覆い、外から進入する体の害になるものを入れさせないはたらきがある。皮膚表面には、常在細菌やばい菌がいやがる分泌液が出て、悪いばい菌の増加を防ぐ。皮膚の色は太陽の紫外線の侵入を予防する。皮膚は実にいろいろな感覚を感じることができるすぐれた感覚器であり、体温調節装置でもある。
いかがでしたか? 「皮膚」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?
くれぐれも人の皮膚をつねったりたたいたり、傷つけたりしてはダメですよ。 大切にしようね、あなたの「皮膚」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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