私たち人間の経済活動は、自然を破壊するものと思われがちです。しかし、伝統的な農業が行われている里山では、農地、雑木林、草地といったいろいろな環境が保たれ、それぞれの環境を好む野生生物が暮らしています。人間活動によって生物多様性が保たれていると言っても過言ではないのですが、今後、日本が本格的に人口減少時代へと突入すると、過疎化
が深刻化し、人がいなくなる里山も増えていくことでしょう。これまで人の手で維持されていた里山の環境が荒れ果てて、そこに暮らす野生生物もいなくなるのではないかと心配されています。
そこで東京大学、国立環境研究所などの研究グループは、チョウに注目して、人がいなくなって土地が放棄
された影響を明らかにする研究に取り組みました。全国の廃村
をまとめたデータベースを参考に、北海道から九州にかけての廃村が存在する18地域を調査地に選定。34の廃村集落と、現在も人が暮らしている30の近隣集落でチョウ類の調査を行いました(図1)。
さらに、近年は地球温暖化も大きな環境問題となっていることもあり、チョウの種ごとに土地放棄の影響と年間気温の影響に関係があるかどうかについて、また、チョウの生息地のタイプ(草原・農地・市街地・森林など)によって影響の受けやすさに違いがあるかどうかについても調べられました。
その結果、調査した地域にあらわれた43種類のチョウのうち、キアゲハ、クジャクチョウ、コヒオドシ、ツバメシジミなどの13種類は、土地が放棄されたことで個体数を減らすことが確認され、逆に個体数を増やしたのはアオスジアゲハ、イシガケチョウ、イチモンジチョウの3種類しかいませんでした(図2)。
チョウの種ごとの土地放棄の影響と年平均気温の影響には明らかな関係があることも認められ、土地放棄によって減少するチョウには寒冷地を好む種類が多いことが明らかになりました。寒冷地を好むチョウは地球温暖化の影響で減少するリスクが高まっていると考えられますから、そこに土地放棄の影響も加われば、さらに個体数を減らす可能性があります。生息地タイプごとの影響のあらわれ方については、11タイプに分けて調べたところ、草原、農地、市街地を好むチョウでは土地放棄によって個体数が減少することが明らかになりました。
少子高齢化
が進む日本では、今後、人口が減って廃村が増えていくのは避けられないでしょう。その点で、この研究成果は、これからの日本のチョウの生息状況を考える上で重要な情報になるでしょうから、研究成果を参考により積極的な保護策がとられることが期待されます。
文