連載《人体MAPS》 第1話「目」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「()」です。

目はなんのためにある?

 あなたの「目」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

 そう。顔の真ん中より少し上の左と右に一つずつ、あわせて2個あります。

 では、目は何のためにあるのでしょう。そうですね、目はものを見るためにありますね。目の前の赤いリンゴ、青い空、黄色いバナナ、緑色の葉っぱ、そしてお友だち、おうちの人、鏡に映ったあなた、それらを見るためにあるのが、目です。目があるって、すごく便利!

 もし、あなたに目がなかったら? あなたはものや人を見ることができません。確かめてみましょう。目をギュッと閉じてみてください。うす目で見てはダメですよ。目をちゃんと閉じたら、ほら、何も見えなくなるでしょ? だから、目がなかったらとても不便です。 目を開けていても、あなたがいるその部屋の中が真っ暗だったとしたら、何も見えません。だから、あなたの目にわずかでも「(」が入ってこないと、ものを見ることができません。

カメラに似ているけど、ずっと高性能

 私たちが普段見るこの光のことを、「可視光線
かしこうせん
()
」といいます。可視光線は、太陽や電球などから出る光で、目の前のものを明るく照らしています。

 ちなみに、あなたは光の進む速さがどのくらいか知っていますか? 実は光の速度はとても速く、1秒間に30()キロメートルも進みます。地球の1周が4万キロメートルだから、なんと光は1秒間に地球を7周半も回ってしまうのです。恐ろしく速いスピード。

 目はよくカメラに似た構造といわれます。でも、実際は人間の目の方がカメラより、うんと高性能です。

 例えば、あなたが真っ暗な部屋に入ったならば、最初はまったく見えない。でも、しばらくその部屋にいると、だんだんと部屋の中の様子が見えてくる。ほら、映画館を思い出してみて。映画が始まる前、映画館の中が急に暗くなる。最初はなにも見えないけれど、しばらくすると中の様子がはっきり見えるようになるよね。このように、「暗い所にいても、目が慣れてだんだんと見えるようになる」機能を「暗順応
あんじゅんのう
()
」といいます。

 さらに、目の前の近くにあるものを見たいとき、またはとっても遠くにあるものを見たいとき、もしもカメラやビデオだとピント焦点(しょうてん))を合わせないと、ぼやけてはっきり見えないけれど、人間の目は、ピントを勝手に、しかもあっという間に合わせてしまう。こんな目のはたらき、すごいと思いませんか?

カメラと目の中身はよく似た構造になっています。光が入るための窓口、光を曲げて(屈折
くっせつ
)ピントを合わせるためのレンズ、光が通る空間、屈折した光を照らし出す
まと
など、基本的な作りは同じです。でも、人間の目はカメラのようにレンズの位置をずらしてピントを合わせることができません。そこで人間の目は、レンズの厚さを変えることでピントを合わせています。ピントを合わせる場所(レンズの厚さを調節する場所)は「毛様体筋
もうようたいきん
」という筋肉と「チン小帯
しょうたい
」という線維
せんい
です。これが縮んだり緩んだりしてレンズの厚さを変えます。具体的には、筋肉が縮むとレンズの厚さが増して、近くのものにピントがあうようになります。逆に、筋肉が緩むとレンズの厚さが減って(薄くなって)、遠くのものにピントがあうようになります。これらは自律神経
じりつしんけい
といって無意識にはたらく神経によって調節されています。

なぜ目は2つある?

 ところであなたは、なぜ目が2個あるか知っていますか?

 ここで1つ実験。あなたの目の前に人差し指を立ててそのままキープしてください。次に、右目を閉じて左目だけで指先を見てください。次に、左目を閉じて右目だけで指先を見てください。すると、ちょっとだけ指先の見え方が異なりますね。実は、この両目のほんの少しの見え方の(い(ズレ)を使って、物体の近さや遠さを認識する、むずかしい言葉で「立体(りったい)()」をするのです。その証拠に片目でキャッチボールをするのはとてもむずかしい。両目だとボールとの距離感や、速さ、位置をすばやく読み取ることができます。

 暗い所で本を読んだり、長時間ゲームをしたり、テレビを近くで見たり、スマートフォンをずっと見てばかりいると、目が悪くなるって知っていますか?

 そのわけは、さっき出てきた「目がピントを合わせる」はたらきが悪くなるから。目が悪くなったら、ものが見えづらくなって、それはそれは本当に不便です。あなたの友だちやおうちの人の顔の表情も見えにくくなるし、学校の先生が書いた黒板の字も見えづらくなる。

 もし目が悪くなったら、メガネをかけたり、コンタクトレンズをつけたりして目の見る力を矯正(きょうせい)しないといけません。メガネやコンタクトレンズをつかうって、とてもストレス。だから、目が悪くならないように、ずっと大切にしないといけませんね。

目を見れば気持ちがわかる?

 ここで「目」を含んだ言葉を紹介しましょう。あなたは、「目は口ほどにものを言う」という(ことわざ)を聞いたことがありますか? この(ことわざ)、なんか面白いですね。ものを言うのは口がすることなのに、目がものを言うなんて、まるで目が口みたいです。

 あなたはときどき泣いたり、怒ったり、笑ったり、悲しんだりするけど、そのときのあなたの目はどんな目? ニコっと目が丸くなったり、つまらなさそうに目を細めたり、思わず涙がポロポロ落ちたりするよね? だから、あなたが何も話さなくても、ほかの人はあなたの目を見ただけで、あなたの言いたいことや心の中の様子がわかる。

 だから、「目は口ほどにものを言う」のですね。

目を守るしくみ

 では、鏡を使って自分の目をよく見てみましょう。

 目の内側(鼻に近い方)を目頭(めがしら)、その逆の目の外側(耳に近い方)を目尻(めじり)といいます。そして目の真ん中に黒目、その周りに白目がありますね。さらに目の上と下にはまぶたがあって、まぶたの先には「まつげ」が生えています。目はとても大切な場所だから、外から飛んできたホコリや虫が目の中に入らないように、まぶたやまつげは目を守っています

 でも、それらをくぐり抜けて目の中にホコリやゴミが入ることもあるよね。そういうときは手でこすらずに、目をパチパチしてください。このパチパチすることを「まばたき」といいますが、まばたきは車のワイパーみたいに目の表面についた汚れやばい菌をとってくれる。実際あなたが気づかないうちに、まばたきはいつもしています。

 では、いまから、あなたはまばたきをせずに、どのくらい我慢できるか試してみましょう。

 どう? すごく目が痛くなって、(なみだ)も出てきたでしょ? 目はとてもデリケートな場所だから、ほんの少しの時間でも目を開けっぱなしにはできない体のつくりになっているのです。そして、実はいまあなたの目から出た涙は、あなたが泣いていないときも少しずつ出ている。つまり、涙とまばたきのはたらきによって、いつも目の表面に(うるお)いが与えられて、きれいな状態を保って目を守っているのですね。

 ちなみに、涙を作っている場所は上のまぶたの中で、作られた涙は少しずつ目の表面に出されています。

目を守るためにとても大切なはたらきを行うのが「まぶた」と涙です。まぶたには「上まぶた」と「下まぶた」がありますが、上まぶたが下に降りることで目が閉じられて保護します。これを何度も繰り返す動作、そう、それがまばたき(瞬き)ですね。まるで車のワイパーのようです。人間は無意識のうちに、一日約2万回まばたきをするそうです。上下のまぶたの先端には「睫毛
しょうもう
」とよばれるまつげが生えていて、これも目にゴミなどが入らないように保護するのに役立っています。さらに目の表面は、目に
うるお
いを与える液体、涙(涙液
るいえき
という)に
おお
われています。涙は、目に潤いだけでなく、ばい菌を攻撃してくれる抗体やばい菌を溶かすためのリゾチームと呼ばれるタンパク質が含まれていて、目をばい菌から守ってくれています。涙は上まぶたの中にある涙腺
るいせん
と呼ばれる分泌線から出されます。そして余分になった涙は、下まぶたの内側(鼻側)にある小さな
あな
涙点
るいてん
と呼ばれる)へと吸い込まれていきます。その孔は、やがて通路になって、鼻の孔の奥にある空洞(鼻腔
びくう
といいます)につながります。涙点に入った涙はたいてい途中で乾燥するのですが、泣いたり目薬を差したりしてたくさんの液体が涙点に入ると、鼻腔まで流れていって、あたかも鼻水のようにズルズルと出てきます。目と鼻って、中でつながっているのですね。

まとめ

 今日のお話をまとめると、目は私たちがものを見るためにある。目はとてもデリケートだから、ホコリなどが入らないようなしくみがある。まばたきや涙は目を守るためにある。

 いかがでしたか? 「目」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? もし、あなたの周りに目の見えない、または目の不自由な方がいらしたら、そっと手をたずさえて助けてあげてくださいね。

 大切にしましょうね、あなたの「目」。

 

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

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