体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「背中」です。
背中はどこにある?
あなたの「背中」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
そう。体の後ろがわに、大きくて広い背中が1か所ありますね。背中はとても広いし、しかも体の後ろにあるから、手が届かない部分もあるでしょう。でも、体の柔らかいあなたならきっと背中のほとんどを触ることができるハズ?
背中はなんのためにある?
では、背中は何のためにあるのでしょう。
おうちの人がいたら、背中をさわらせてもらってください。上の方に大きな骨、肩甲骨が左と右に1つずつ、そして中央には頭の下からお尻までまっすぐ続く背骨、背骨の上半分から左右に広がるアバラ、つまり肋骨、これらの骨があるのがわかるかな? これらの骨の周りはたくさんの筋肉がついていて、肋骨の周りにある肋間筋、背中の上の方にある僧帽筋や広背筋、背中の下の方にある背筋が背中をとても頑丈なつくりにしています。
このような頑丈な骨や筋肉に囲まれているから、背中は、お腹と胸と同じように、中にある大切な臓器たちをしっかりと守っている場所といえます。
肝腎要という言葉
第9話「腎臓と肝臓」のお話で出てきたちょっとむずかしい言葉、「肝腎要」というのを覚えていますか? そう。肝腎は「肝臓」と「腎臓」(ときに肝心と書いて、肝臓と心臓という見方もある)、そして要は「腰」だったよね。実は、腰は腰でもこれは腰骨(こしぼね)を意味します。背骨全体を真横から見ると、腰骨は前側(お腹側)に曲がって(カーブして)います。これを前弯といって、これが本来の正しい腰骨の形です。
正しい姿勢を心がけよう!
ところが、ずっと姿勢を悪くしていると、つまり背中を丸めていると腰骨は後ろ側(背中側)に曲がってきます。これだと人間の大きくて重たい胴体を支えることがとてもつらくなってしまいます。これは決していいことではありません。
ですから、骨だけにたよるのではなく、あなたも子供のときから意識して腰を前側にグッと力をいれ、骨の周りの筋肉も鍛えておこう。腰をお臍に近付けるイメージが理想です。そうすると自然に背中がまっすぐになって正しい姿勢になります。この姿勢、むずかしい言葉で「立腰」といいます。この姿勢のイメージを忘れないでくださいね。
赤ちゃんの背骨
生まれたての赤ちゃんの背骨は後弯といって、背骨全体が後ろ側に曲がっています。でも生まれて数か月くらいで“首”のあたりの背骨に前弯がはじまり、「首がすわる」ことができてくる。おくれて“腰”のあたりの背骨にも前弯がはじまり、「お座り」ができるようになる。お座りはお尻の上に胴体をのせる姿勢だから、やがて行う「歩く」ためにもとても大切な背骨の成長です。
最終的に成長が完了した背骨を真横から見ると、首は前側、胸は後ろ側、腰は前側、お尻は後ろ側に曲がっていて、なんかくねくねしてへんな感じがするけど、実はこれが正しい背骨の形なのです。
それでは、背中を丸めないでまっすぐにした方がいい別の理由を今から説明します。
背骨は、首からお尻まで続く1本の柱になる骨で、これは椎骨という骨が重なり合ってできたもの。その背骨をもう少し詳しく見ると、首の辺りの頸椎、胸の辺りの胸椎、腰の辺りの腰椎、お尻の辺りの仙椎、お尻の尻尾が生える辺り(人間に尻尾はないけど)の尾椎からなります。
「頭」のお話のときに、体の中で一番大切な「脳」を勉強しましたね。そして脳は、硬くて丈夫な骨、つまり頭蓋骨に囲まれているということも習いました。
この脳の下からは太さ約1cm、長さが40㎝(大人の場合)くらいの細長いヒモのようなものが下に伸びています。それを「脊髄」というのだけど、脊髄は神経の仲間で、実は人間の体の中で“二番目”に大切な場所。あなたの手足を動かしたり、内臓を動かしたり、おっしこやウンチを出したり、とにかく脳の次に大切なはたらきをする場所です。
脊髄はどこを通るの?
では、この脳の下から伸びる脊髄って、一体、体のどこを通っているのでしょう。
実は、背骨の中を通っています。背骨の1個の椎骨を上または下から見ると、「椎孔」という孔があって、椎骨が積み重なれば、自ずと椎孔でできた1本のトンネルができます。このトンネルを「脊柱管」といって、脊髄は、実はこの中を通っている(貫いている)のです。
つまり、脳と同じく脊髄も人間の大切な場所だから、骨に囲まれてしっかり守られているわけです。だけど、交通事故や高い所から落ちたりして背骨が折れてしまうと、一緒に脊髄も切れてしまうことがあります。これを脊髄損傷といって、そうなるともう体が動かなくなったり感覚がなくなったりしてしまいます。しかも一生治らない。そんなことになったら一大事です。
背中を丸める姿勢を続けると・・・
そんな大切なものが入っている背骨だから、背中を丸める姿勢をつづけると脊髄や脊髄から出る神経に負担がかかってしまう。これではだめです。それに姿勢が悪いと、長時間机に座っていられない、集中力がもたない、成績も伸びない、本も読めない、ごはんもきれいに食べられない、そして見た目も決していいとはいえない。という具合に、まったくいいことがない。
その他にも、姿勢が悪いと歩くときどうしても顔が下を向いてしまう。下を向くと、あなたは足しか見えない。外にはたくさんの生き物がいたり植物があったり、澄んだ空、そして友だちの笑顔がある。そんな美しい景色と笑顔があるのに目に入ってこない。これはたくさんこれから学んでいかないといけないあなたにとって実にもったいないことです。
でも姿勢を正せば、自然に顔が前を向くからいろんなものが目に入ってくる。友だちも、あなたのことを「明るい子」って見てくれるから近づいてきてくれる。姿勢を正すって、いいことばかりだね。これで肝腎要の「要(腰)」の大切さがわかりましたね。
背中がつく言葉
あなたは、「親の背中を見て子供は育つ」という言葉を聞いたことがありますか? これは、どちらかといえばおうちの人が気を付けないといけないことだけど、親がすることや態度、日頃の行いのことを「背中」といいあらわしています。言い換えれば、背中はその人の歩む、もしくは歩んできた人生そのものを映す鏡になるってことだね。子供はそんな親の背中をよく見ているから、親はとくに子供の前では注意しないといけない。背中って本当に奥が深いものですね。
まとめ
今日のお話をまとめると、背中には内臓を守る頑丈な骨や筋肉がある。脳から続く二番目に大切な脊髄が背骨の中を貫いている。そして背骨は、その人の姿勢を決めることから日頃の立腰がとても大切。
いかがでしたか? 「背中」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?
くれぐれも友だちの背中をたたいたり、蹴ったり、傷つけたりしては絶対ダメですよ。背骨が折れて、中の脊髄が切れてしまうと体はもう動かなくなるから。
大切にしましょうね、あなたの「背中」。
文
(イラスト/齊藤恵)
【連載バックナンバー】