なぜ爆発事故は起きるの? 「爆発」の科学

 福島・郡山
こおりやま
での飲食店のガス爆発や、レバノン・ベイルートの港湾施設
こうわんしせつ
で起きた爆発事故など、ここ最近大きな爆発事故が起きています。そもそも爆発とはどのような現象なのでしょう? なぜ起きて事故になるのか、防ぐにはどんな注意が必要なのかを考えていきます。

そもそも爆発とは?

 爆発というと、火薬や爆薬、あるいはガス爆発などを連想することが多いと思います。「コカねっと!夏のスペシャルサイト」8月16日の記事で紹介した「粉塵爆発
ふんじんばくはつ
」を思い浮かべるかもしれません。

 爆発にはいろいろありますが、大きく2つに分けることができます。ひとつは、燃料
ねんりょう
ガスや火薬
かやく
などがいっぺんに燃えたり、その他の化学反応で発生した気体が原因で起きる「化学的爆発」です。もうひとつは、ボイラーの圧力
あつりょく
が限界を超えたり、火山で地下のガス圧力が高まったりして起きるような、圧縮
あっしゅく
した気体や水蒸気
すいじょうき
の圧力などによる「物理的爆発」です。

火山の爆発。火山ガスがたまって高圧になったり、地下水などと高温のマグマとが反応して大量の水蒸気が発生し、大きな爆発(マグマ水蒸気爆発)になることがある。

爆発の原理は?

 これらに共通しているのは、エネルギーが圧力の変化というかたちで「急激
きゅうげき
に」周囲に伝わる点です。エネルギーの作用で大きな音が出たり、まわりのものに大きな力がはたらくのが爆発です。

 例えば、燃えやすいガソリンに火をつけても、激しく燃えますが爆発はしません。でも、自動車などのエンジンの中で起きているように、同じガソリンを霧状にして空気とまぜて火をつけると、爆発が起きます(エンジンではこの爆発のエネルギーを動力にしています)。また、シューッと燃える花火(少量の火薬が入っています)も、一度に大量に火がつけば爆発します。

 つまり爆発は、「大きな圧力の変化」が「瞬間的に(急激に)」起きる現象です。

「高い圧力」はどのように生まれる?

 では、爆発が起きるような高い圧力はどのようにして生まれるのでしょうか。

 ひとつは、発生する気体(燃焼ガス)が大量である場合です。石油燃料や木材などが燃えると二酸化炭素
にさんかたんそ
が発生するのは知っていると思います。この他に燃えるものの違いにより、さまざまな燃焼ガスができます。このとき、もとの状態に比べて体積
たいせき
がとても大きくなるのです。

 また、なにかが燃えると熱がでます。この熱で温められると周囲の空気がふくらみます(膨張
ぼうちょう
する)。さらに水が熱せられて水蒸気に変わる変化では、体積は千数百倍にも大きくなります。

 このように、なにかが変化して大きくふくらむ=膨張する(体積が増える)という現象が起きるとき、膨張するものが大量であれば、その度合いはとても大きくなります。

 でも、膨張するだけなら広がっていきはしますが、高い圧力は生まれません。ところが、膨張が限られた容積
ようせき
の中で起きると、非常に高い圧力が発生します。密閉
みっぺい
されたケースや閉め切った部屋などがこれです。

 ですので、燃焼しやすいものをせまくて頑丈
がんじょう
な容器に密閉したり、せまくて窓のない部屋であつかったりすると、爆発事故が起きやすくなります
。逆に高い圧力にならなければ、激しい爆発が起きにくくなります。爆発事故を防ぐひとつのポイントがここにあります。いわば圧力を逃がす工夫です。

 例えば、圧力釜
あつりょくがま
では中で水蒸気が発生して高い圧力になりますが、釜がこわれるよりはるか前に安全弁
あんぜんべん
が作動して水蒸気を逃がします。

蒸気を逃がす圧力釜の安全弁。

 また、花火工場などでは万が一火薬に火がついても、圧力が高まらないように部屋のしくみが工夫されています。

「瞬間的な変化」の原因は?

 密閉された容器の中で圧力が高まるとき、容器が頑丈であるほど中の圧力は高くなります。そして容器が耐えられる限界を超えた圧力になると、容器がこわれて圧力が一気に外部に伝わります。つまり容器が丈夫であるほどこわれるときの圧力が高くなり、変化の時間は短く(急激に)なるので、爆発は強力になります。

容器がある場合の爆発を示した図。黒い枠が容器の壁。高い圧力が発生し、外壁がこわされて圧力が外部に伝わると、圧力の変化が一気に周囲に伝わり、爆発となる。

 逆に容器が弱ければ、あるいはどこかに
れがあって圧力が少しずつ外に伝われば、激しい爆発にはなりにくいのです。

化学的爆発の場合

 この瞬間的な圧力の変化は、化学的爆発の場合は「大量の反応」が「同時に起きる」ことで発生します。つまり、大量のものがいっぺんに燃えるなどの現象です。これは、ものが燃えやすい条件がそろったときに起きます。

 例えば、石炭
せきたん
は火をつけるとゆっくり燃えますが、石炭が
こな
になると爆発が起きます。50年ぐらい前まで炭鉱
たんこう
などで起きていた粉塵爆発の事故がこれです。石炭が粉になると、空気とふれる面積が大きくなり、酸素とよくふれあってきわめて燃えやすくなります。空気中に大量の石炭の
つぶ
があれば、ぜんぶが瞬間的に燃えるのです。

 また、燃料ガスは爆発しやすいものとして知られています。ガスは気体なので分子がばらばらになっており、他の気体と非常によく混ざります。このため一部で燃焼がはじまると急激に全体が燃えるので、爆発になります。

 なお、大量の燃料が一瞬で燃えると、頑丈な容器に密閉されていなくても爆発になります。膨張速度が非常に速いと、周囲の空気が圧力の変化に追いつけず、空気が壁のようにはたらくためです。音速
おんそく
とは、空気中で圧力が伝わる限界の速度のことです。このような非常に急激な圧力変化では、圧力が広がる速度が音速を超えることがあります。

容器がない場合の爆発を示した図。大量の燃料が一瞬で燃えると、まわりの空気を押しのけながら圧力が伝わり、圧力が伝わる速度が音速を超えると爆轟になる。

 これは「爆轟
ばくごう
」という現象で、圧力が伝わる先端の部分で非常に大きなエネルギーが生まれ、超音速で周囲に広がります。爆発事故で大きな被害が発生するとき、多くは爆轟が起きています。

爆発を防ぐには?

 では、どうすれば爆発を防ぐことができるでしょうか?

 まず第一は、「燃えやすいものを密閉された空間に入れない(保存しない)」ことです。ただしガス燃料などは密閉しなくては保存できないので、この場合は燃えやすいものの膨張を防ぐ…つまり高い温度や熱源に近づけないことが重要になります。

 この、高い温度にしないということは、「燃えやすいものを燃やさない」という第二のポイントにもつながります。他にも空気を遮断
しゃだん
して酸素にふれないようにすることなどにより、とにかく火がつかないようにする工夫です。

 そして大切なことは、「燃えやすいものを1か所に大量に集めない」ことです。少量ならそれほど危険でないものも、大量に集まると爆発の原因になるのです。

 また燃料ガスなどでは、「爆発しやすくなる濃度
のうど
にしない」ということがあります。燃料ガス(可燃性ガス)では、特に爆発しやすい濃度の範囲
はんい
(爆発範囲)があります。空気(酸素)とのまざり具合がその濃度より高いか低いかすれば、爆発は防げるということです。

 実際には、高すぎる濃度にするより、濃度を下げるほうが有効です。燃料ガスを使うときに換気
かんき
に気をつけるのは、酸欠などを防ぐのが主な目的ですが、爆発を防止するという意味合いもあるのです。

最後に

 爆発事故などのニュースに接すると、爆発という現象が恐ろしいものに感じます。確かに周囲に大きな影響を与える爆発ですが、エンジンやロケットのように人類の役に立つ現象です。事故を防ぎ、よりうまく利用するためには、ただ恐れるだけでなく正しく理解することが大切です。

山村紳一郎 著者の記事一覧

サイエンスライター/和光大学非常勤講師。1956年、東京都生まれ。東海大学海洋学部卒。編集記者、カメラマンを経て、現在は自然科学から先端技術までの執筆や、科学館の企画プロデュースなどを行う。天体観測と顕微鏡観察が大好き。

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