連載《人体MAPS》 第14話「おへそ」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「お(へそ)です。

雷がなるとお臍を隠す?

 あなたの「お臍」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 そう。ちょうどお腹の真ん中より少し下に、1つありますね。

 あなたは(かみなり)がなると思わずお臍をかくしますか? おうちの人から「おへそを出していると雷様にお臍を取られちゃうよ!」なんていわれたことありませんか?

 実際には雷がなっているときにお臍を出しても、お臍が取られることはないけれど、雷がなっているときは外がすこし寒くなるので、お臍があるところ、すなわちお(なか)を出さないように、という昔の人の考えと知恵、そしてやさしさなのでしょうね。もちろん雷がなっていないときもお腹は大切だから、お臍をださないようにしましょう。

人間以外にも臍をもつ動物

 ちなみにお臍は人間だけでなく、哺乳類(ほにゅうるい)とよばれる動物の仲間にもあります。哺乳類は生まれる前、お母さんのお腹の中にいるとき、あとで説明する胎盤(たいばん)というところから栄養をもらいます。その胎盤から出る1本の
へそ

とあなたの体との接点
せってん
名残
なごり
がお臍となります。。

 ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、あるいは水の中でくらすイルカやクジラなどもお臍をもっています。

臍は何のためにあるの?

 さて、そんなお臍。これって一体何をしているのでしょう。そして何のためにあるのでしょう。

  一度じっくりお臍をみてごらん。おうちの人がそばにいたら、おうちの人のお臍も見せてもらってみてください。

 どんな形をしていますか? 見えますか? よくみると黒いカスのようなものがないかな? そう。よくいう「臍のごま」というものだね。お臍の形は人それぞれだけど、小さなシワがたくさんあるから、そこに(あか)がたまって、それが黒いカスになってしまうのです。だから、ときどきていねいにお臍を洗うようにしましょう。

 そんなおもしろい形のお臍だけど、実際お臍が何をしているのかといえば、実はすごくむずかしい。ハッキリ言ってしまえば、すでに役割は終えました。

 すでに終えた!? ではいつお臍は活躍(かつやく)していたのでしょう。実は、あなたがお母さんのお腹の中にいたときに“大活躍”していました。今はお臍には何もついてないけれど、お母さんのお腹の中にいたときは、およそ2センチメートル(はば)の半透明のヒモ状のものがお臍から出ていて、お母さんのお腹の中にあった「胎盤(たいばん)」というところとつながっていたのです。

 ちなみにそのヒモのことを「臍帯(さいたい)」といいます。臍帯は、「臍の()とも呼ばれています。

あなたが生まれる前、お母さんのお腹の中にいるときの図。お母さんのお腹の中には胎盤があり、胎盤から臍帯という「へその緒」がでている。臍の緒は子供(胎児)のお臍の部分とつながっている。こうして、胎児は、お母さんから生きていく上で必要な栄養分や酸素などをもらうことができる。

胎盤と臍帯の関係

 では、胎盤と臍帯ってどんな関係なのか。

 まず、胎盤というのは、お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいるときにだけできる、お母さんの血液をたっぷり含んだ大きなスポンジのような構造物です。だから、胎盤の中にはいつもお母さんの酸素や栄養分がたっぷり含まれている

 胎盤につながる臍帯の中には血管がつくられていて、その血管があなたの体の中までつづいています。だから、胎盤にあるお母さんの酸素と栄養分は、臍帯の中の血管を通ってあなたの体の中に入っていけるのです。

 お母さんの胎盤からもらった酸素や栄養分は、まだ赤ちゃんにも満たない小さな体(胎児(たいじ))を成長させるために必要な細胞のエネルギー(げん)になります。あなたはこうしてお母さんのお腹の中で、胎盤から臍帯を通じて栄養をもらい、そして大きくなることができたってわけです。

 胎盤と臍帯のみごとなはたらき、スゴイでしょ!

まだある臍帯のスゴイところ

 驚くのはまだ早いよ。あなたが胎児だった頃の体の細胞はお母さんからもらった栄養分を使って生きていくわけだけど、細胞からはウンチがでる。実際にはウンチではないけれど、細胞からはゴミが出ます。そのゴミ、きっとすごくたくさん出ると思う。そのゴミをどうするか?

 実は、あなたが赤ちゃんにも満たない小さな体の細胞から出たゴミは、あなたの体の中を通る血管を流れ、やがてさっきお話しした臍帯の中の血管にいき、臍帯の中を通ってお母さんの胎盤に向かいます。そして、あなたの体が出したゴミを、胎盤に向かってポイッ!します。

 そのゴミはやがてお母さんの体の中に入っていって、“あなたの代わり”にお母さんの体が処理してくれるのです。スゴイでしょ!

 あなたは生まれる前から、お母さんに栄養分をもらうだけでなく、あなたの体から出たゴミの処理もしてもらっていたのです。

 ちなみに、あなたは気づきましたか? 臍帯の中って、出ていく血((さい)動脈(どうみゃくあなたの体から出たゴミを含む血)と入ってくる血((さい)静脈(じょうみゃく)お母さんの栄養分や酸素を含む血)が通る2種類の血管があるってことを。

臍帯を分断したときの断面図。1本の臍静脈と2本の臍動脈が臍帯の中の血管。臍静脈を流れる血液は「胎盤からお臍」へ、臍動脈を流れる血液は「お臍から胎盤」へ流れる。臍静脈は栄養が豊富な血液を、臍動脈は胎児からでた老廃物を母胎に運ぶための血液が流れている。臍帯は胎児にとってのまさに“命づな”なんだ。

生まれると臍帯はどうなるの?

 そして気になるお母さんとあなたを結ぶ臍帯は、あなたが生まれたすぐ後にお医者さんがあなたのお臍の前でチョキンと切ります。このときが、あなたとお母さんの体が完全に分かれた瞬間で、あなたはもう二度とお母さんの胎盤から栄養をもらうことはできない。ちょっぴりと(さみ)しい一瞬でもある。

 そしてあなたはこれからの長い人生、自分で栄養を取っていかないといけないし、体から出るゴミも自分で処理しないといけない。そんないろいろなことがあった名残が、今のあなたのお臍なのです。

もう一度お臍をさわってみましょう

 あなたのお臍、もう一度触ってみて。そのお臍は、かつてあなたがお母さんのお腹の中にいたとき、お母さんの体の中にあった酸素や栄養分があなたの体の中に入ってくる玄関(げんかん)になる場所だった。

 いかがですか? 生まれた後の今はお臍の役割は何もないけれど、生まれる前に実はそのような活躍をしていたのです。改めてお母さんに感謝だね。

まとめ

 今日のお話をまとめると、お臍は今はその活躍はないけれど、あなたがお母さんのおなかの中にいたとき(胎児のとき)に、お母さんから酸素や栄養分をもらい、あなたの体から出たゴミをお母さんに受け渡す玄関のような場所だった。そしてあなたのお臍とお母さんのおなかの中の胎盤は臍帯でつながっていた。だから臍帯って、かつてあなたとお母さんを直接つないでいた親子の(きずな)であり()(はし)だった。

 いかがでしたか? 「お臍」はあなたが生まれてくるためのとても大切な場所だということがわかりましたか?

 大切にしましょうね、あなたの「お臍」。そしてたまにはお母さんへのありがとうの気持ちを思い出してね。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

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第3話「胃と腸」

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第5話「耳」

第6話「鼻」

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第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

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第11話「肺」

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