体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「お臍」です。
雷がなるとお臍を隠す?
あなたの「お臍」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
そう。ちょうどお腹の真ん中より少し下に、1つありますね。
あなたは雷がなると思わずお臍をかくしますか? おうちの人から「おへそを出していると雷様にお臍を取られちゃうよ!」なんていわれたことありませんか?
実際には雷がなっているときにお臍を出しても、お臍が取られることはないけれど、雷がなっているときは外がすこし寒くなるので、お臍があるところ、すなわちお腹を出さないように、という昔の人の考えと知恵、そしてやさしさなのでしょうね。もちろん雷がなっていないときもお腹は大切だから、お臍をださないようにしましょう。
人間以外にも臍をもつ動物
ちなみにお臍は人間だけでなく、哺乳類とよばれる動物の仲間にもあります。哺乳類は生まれる前、お母さんのお腹の中にいるとき、あとで説明する胎盤というところから栄養をもらいます。その胎盤から出る1本の臍
の緒
とあなたの体との接点
の名残
がお臍となります。。
ブタ、ウマ、イヌ、ネコ、あるいは水の中でくらすイルカやクジラなどもお臍をもっています。
臍は何のためにあるの?
さて、そんなお臍。これって一体何をしているのでしょう。そして何のためにあるのでしょう。
一度じっくりお臍をみてごらん。おうちの人がそばにいたら、おうちの人のお臍も見せてもらってみてください。
どんな形をしていますか? 見えますか? よくみると黒いカスのようなものがないかな? そう。よくいう「臍のごま」というものだね。お臍の形は人それぞれだけど、小さなシワがたくさんあるから、そこに垢がたまって、それが黒いカスになってしまうのです。だから、ときどきていねいにお臍を洗うようにしましょう。
そんなおもしろい形のお臍だけど、実際お臍が何をしているのかといえば、実はすごくむずかしい。ハッキリ言ってしまえば、すでに役割は終えました。
すでに終えた!? ではいつお臍は活躍していたのでしょう。実は、あなたがお母さんのお腹の中にいたときに“大活躍”していました。今はお臍には何もついてないけれど、お母さんのお腹の中にいたときは、およそ2センチメートル幅の半透明のヒモ状のものがお臍から出ていて、お母さんのお腹の中にあった「胎盤」というところとつながっていたのです。
ちなみにそのヒモのことを「臍帯」といいます。臍帯は、「臍の緒」とも呼ばれています。
胎盤と臍帯の関係
では、胎盤と臍帯ってどんな関係なのか。
まず、胎盤というのは、お母さんのお腹の中に赤ちゃんがいるときにだけできる、お母さんの血液をたっぷり含んだ大きなスポンジのような構造物です。だから、胎盤の中にはいつもお母さんの酸素や栄養分がたっぷり含まれている。
胎盤につながる臍帯の中には血管がつくられていて、その血管があなたの体の中までつづいています。だから、胎盤にあるお母さんの酸素と栄養分は、臍帯の中の血管を通ってあなたの体の中に入っていけるのです。
お母さんの胎盤からもらった酸素や栄養分は、まだ赤ちゃんにも満たない小さな体(胎児)を成長させるために必要な細胞のエネルギー源になります。あなたはこうしてお母さんのお腹の中で、胎盤から臍帯を通じて栄養をもらい、そして大きくなることができたってわけです。
胎盤と臍帯のみごとなはたらき、スゴイでしょ!
まだある臍帯のスゴイところ
驚くのはまだ早いよ。あなたが胎児だった頃の体の細胞はお母さんからもらった栄養分を使って生きていくわけだけど、細胞からはウンチがでる。実際にはウンチではないけれど、細胞からはゴミが出ます。そのゴミ、きっとすごくたくさん出ると思う。そのゴミをどうするか?
実は、あなたが赤ちゃんにも満たない小さな体の細胞から出たゴミは、あなたの体の中を通る血管を流れ、やがてさっきお話しした臍帯の中の血管にいき、臍帯の中を通ってお母さんの胎盤に向かいます。そして、あなたの体が出したゴミを、胎盤に向かってポイッ!します。
そのゴミはやがてお母さんの体の中に入っていって、“あなたの代わり”にお母さんの体が処理してくれるのです。スゴイでしょ!
あなたは生まれる前から、お母さんに栄養分をもらうだけでなく、あなたの体から出たゴミの処理もしてもらっていたのです。
ちなみに、あなたは気づきましたか? 臍帯の中って、出ていく血(臍動脈:あなたの体から出たゴミを含む血)と入ってくる血(臍静脈:お母さんの栄養分や酸素を含む血)が通る2種類の血管があるってことを。
生まれると臍帯はどうなるの?
そして気になるお母さんとあなたを結ぶ臍帯は、あなたが生まれたすぐ後にお医者さんがあなたのお臍の前でチョキンと切ります。このときが、あなたとお母さんの体が完全に分かれた瞬間で、あなたはもう二度とお母さんの胎盤から栄養をもらうことはできない。ちょっぴりと寂しい一瞬でもある。
そしてあなたはこれからの長い人生、自分で栄養を取っていかないといけないし、体から出るゴミも自分で処理しないといけない。そんないろいろなことがあった名残が、今のあなたのお臍なのです。
もう一度お臍をさわってみましょう
あなたのお臍、もう一度触ってみて。そのお臍は、かつてあなたがお母さんのお腹の中にいたとき、お母さんの体の中にあった酸素や栄養分があなたの体の中に入ってくる玄関になる場所だった。
いかがですか? 生まれた後の今はお臍の役割は何もないけれど、生まれる前に実はそのような活躍をしていたのです。改めてお母さんに感謝だね。
まとめ
今日のお話をまとめると、お臍は今はその活躍はないけれど、あなたがお母さんのおなかの中にいたとき(胎児のとき)に、お母さんから酸素や栄養分をもらい、あなたの体から出たゴミをお母さんに受け渡す玄関のような場所だった。そしてあなたのお臍とお母さんのおなかの中の胎盤は臍帯でつながっていた。だから臍帯って、かつてあなたとお母さんを直接つないでいた親子の絆であり架け橋だった。
いかがでしたか? 「お臍」はあなたが生まれてくるためのとても大切な場所だということがわかりましたか?
大切にしましょうね、あなたの「お臍」。そしてたまにはお母さんへのありがとうの気持ちを思い出してね。
文
(イラスト/齊藤恵)
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