体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「おっぱい」です。
おっぱいはどこにある?
おなたの「おっぱい」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
そう。左と右の胸の真ん中あたりに一つずつ、合計2個ありますね。
あれ? あなたには、お母さんのように柔らかいおっぱいはありませんね。では、お父さんは? お父さんのおっぱいはお母さんのものとはずいぶん様子が違いますね。そう。柔らかくてふくらみのあるおっぱいは、お母さん、つまり女の人にしかありません。男の人にはないのですね。ちなみに、ふくれたおっぱいのことを「乳房」ともいいます。
おっぱいは何のためにある?
では、おっぱいは何のためにあるのでしょう。そう、赤ちゃんにミルクをあげるためですね。赤ちゃんを産むのはお母さんで、お父さんではありません。赤ちゃんを産んだお母さんのおっぱいから、あら不思議! ミルク(正しくは母乳)がたくさん出て、赤ちゃんは母乳を飲んで育ちます。生まれたての赤ちゃんは歯がないし、お腹の内臓もまだ十分にはたらいてないから、形のある食べ物は食べられない。そこでお母さんの母乳が赤ちゃんにとっての大切な栄養源になるわけです。
もし母乳がなければ赤ちゃんは育つことができません。だから、おっぱいって、すごく大切! でも、お母さんによっては、赤ちゃんが必要とするじゅうぶんな量の母乳が出ない人もいます。だからといって心配はいりません。今は粉ミルクなど、赤ちゃんの栄養になるミルクが売られているから大丈夫。あなたがお母さんの母乳で育ったのか、粉ミルクで育ったのか、一度聞いてみるといいでしょう。
母乳のふしぎ
母乳の成分(含まれる栄養や物質たち)は、生まれた赤ちゃんの月齢
によって変わっていきます。
母乳の中でも赤ちゃんが生まれたあと最初に出る母乳を、「初乳」といいます。初乳はやや黄色い色をしていて、生まれたばかりの未熟な赤ちゃんでも消化しやすく、普通の母乳よりたくさんの栄養やバイ菌から体を守る物質が含まれています。このことから、初乳は“黄金の液体”などとよばれています。
赤ちゃんは、およそ1歳まで母乳を飲みます。母乳にはたくさんのタンパク質や糖質、脂質といった赤ちゃんにとっての大切な栄養源が含まれていることはもちろん、赤ちゃんの体を悪い菌から守ってくれる細胞たち(白血球)や赤ちゃんの腸の中に住む体に良い菌(乳酸菌など)がたっぷり含まれています。
こうして、母乳は生まれたばかりの赤ちゃんを大きくし、ご飯を食べられるようになるまで赤ちゃんの発育を助けてくれるのですね。しかも母乳は直接お母さんのおっぱいからもらうから、あなたの体温と同じで温かく、そしてとても清潔なのです。
母乳の弱点
赤ちゃんは母乳を飲めば必要な水分とエネルギーをもらうことができるのだけど、実はこんなにすばらしい母乳にも弱点があります。
あなたは母乳ってどうやってつくられるか知っているかな?
おっぱいの中に乳腺という母乳をつくる細胞があるのだけど、乳腺は血液を材料にして母乳をつくります。
仮
に、お母さんの食べた物や飲んだ物の中に悪い成分が入っていたとしましょう。するとその成分はお母さんの血液に混じってしまうかもしれない。それがやがて血液を材料につくられる母乳にも含まれてしまうことが考えられます。
例えば、お母さんがお酒やお薬を飲むと、少しは母乳にもそれらの成分が含まれるかもしれない。だとすれば、赤ちゃんの口から体の中にそれらが入ることになるから、お母さんは普段から食べる物や飲むものに気を付けておかなくてはいけません。それと、もしもお母さんが何かのばい菌が体に入ってしまう病気にかかってしまったら、その病気の原因生物が母乳に含まれてしまうことがあって、すると赤ちゃんの口に入ってしまうかもしれない。
それから少しむずかしい話だけど、母乳に含まれる「ビタミンK」という栄養量が十分ではないことも問題です。ビタミンKというのは、血液を固めるはたらきをもつ栄養素です。そういったことが母乳の弱点として考えられます。
それでも、基本的にはお母さんのおっぱいからの母乳は、その栄養成分だけでなく、母乳を飲むという行為が、赤ちゃんとお母さんとのスキンシップになって、お母さんから赤ちゃんへ愛情がたっぷり注がれる時間になるから、母乳を飲むことってすごく大切なのです。
おっぱいはどうやってできるの?
ところで、柔らかくて大きなおっぱいは、まだ小さな子供にはないよね。おっぱいは、だいたい小学校の高学年ごろから膨らみ始めて、思春期ごろ(18歳くらい)まで続きます。この体の変化のことを第二次性徴とよんでいます(生まれたときからある男女の体のちがいを一次性徴という)。
そして、もしも女の人が妊娠してお腹の中に赤ちゃんがいる体になると、おっぱいはさらに大きく発達します。ちなみに、おっぱいが大きくなるのは、「エストロゲン」という女性ホルモンのはたらきによって、乳腺を発達させるからです。
あなたは女の子ですか? それとも男の子ですか?
女の子なら、体が成長していくとおっぱいもだんだんと大きくなってくる。最初はきっと恥ずかしいと思うけど、それはみんな一緒。体の正常な発達が起こっている証拠だから、安心してください。
そしておっぱいは、人によって形も大きさも違うことは正常なことですよ。もしも小さなおっぱいだったとしても、赤ちゃんがお腹から生まれた後には、おっぱいはすごく発達して、ちゃんと赤ちゃんがうまれてきた後のおっぱいをあげる準備がはじまります。人の体って、本当にうまくできていますね。
「胸」が使われる言葉
あなたは、「胸をふくらませる」という言葉を聞いたことがありますか? 胸をふくらませる、これは一見おっぱいのことかと思うかもしれないけれど、そうではなくて、「胸が期待や希望でいっぱいになる」とか、「希望に満ちている」という意味なのです。
胸は「胸騒ぎ」、「胸がいっぱい」さらには「胸が張り裂けそう」などと自分の気持ちを表すときに使われることが多いから、胸というのは“自分の心の中を表す鏡”と考えられているわけですね。
まとめ
今日のお話をまとめると、女の人は、体の成長とともにおっぱいもだんだんと大きくなる。そして赤ちゃんが生まれた後に、おっぱいから母乳が出るようになって、赤ちゃんは母乳を飲むことですくすくと体が成長していく。
いかがでしたか? お母さんの「おっぱい」は、あなたの赤ちゃんだったときの成長にとても大切な場所だということがわかりましたか? みんな、おっぱいに感謝しましょうね。
大切にしましょうね、お母さんの「おっぱい」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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