連載《人体MAPS》 第13話「おっぱい」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「おっぱい」です。

おっぱいはどこにある?

 おなたの「おっぱい」は体のどこにありますか? さわってみましょう。

 そう。左と右の胸の真ん中あたりに一つずつ、合計2個ありますね。

 あれ? あなたには、お母さんのように(やわ)らかいおっぱいはありませんね。では、お父さんは? お父さんのおっぱいはお母さんのものとはずいぶん様子が違いますね。そう。柔らかくてふくらみのあるおっぱいは、お母さん、つまり女の人にしかありません。男の人にはないのですね。ちなみに、ふくれたおっぱいのことを「乳房(にゅうぼう)」ともいいます。


おっぱいは、左と右の胸に一つずつ、合計2個ある。おっぱいの中央には、丸い形をした部分の乳輪
にゅうりん
があって、その中央にはポチッと小さな部分の乳頭
にゅうとう
乳首
ちくび
がある。子供のときのおっぱいは女の子も男の子も違いはほとんどない。女の人は成長するにつれてだんだん大きくふくらんでくる。大きくふくれたおっぱいのことを「乳房」ともいう。

おっぱいは何のためにある?

 では、おっぱいは何のためにあるのでしょう。そう、赤ちゃんにミルクをあげるためですね。赤ちゃんを産むのはお母さんで、お父さんではありません。赤ちゃんを産んだお母さんのおっぱいから、あら不思議! ミルク(正しくは母乳))(ぼにゅう)がたくさん出て、赤ちゃんは母乳を飲んで育ちます。生まれたての赤ちゃんは歯がないし、お腹の内臓もまだ十分にはたらいてないから、形のある食べ物は食べられない。そこでお母さんの母乳が赤ちゃんにとっての大切な栄養源になるわけです。

 もし母乳がなければ赤ちゃんは育つことができません。だから、おっぱいって、すごく大切! でも、お母さんによっては、赤ちゃんが必要とするじゅうぶんな量の母乳が出ない人もいます。だからといって心配はいりません。今は粉ミルクなど、赤ちゃんの栄養になるミルクが売られているから大丈夫。あなたがお母さんの母乳で育ったのか、粉ミルクで育ったのか、一度聞いてみるといいでしょう。

母乳のふしぎ

 母乳の成分(含まれる栄養や物質たち)は、生まれた赤ちゃんの月齢
げつれい
によって変わっていきます。

 母乳の中でも赤ちゃんが生まれたあと最初に出る母乳を、「初乳」といいます。初乳はやや黄色い色をしていて、生まれたばかりの未熟(みじゅく)な赤ちゃんでも消化しやすく、普通の母乳よりたくさんの栄養やバイ菌から体を守る物質が含まれています。このことから、初乳は“黄金の液体”などとよばれています。

 赤ちゃんは、およそ1歳まで母乳を飲みます。母乳にはたくさんのタンパク質や糖質(とうしつ)脂質(ししつ)といった赤ちゃんにとっての大切な栄養源(えいようげん)が含まれていることはもちろん、赤ちゃんの体を悪い菌から守ってくれる細胞たち(白血球(はっけっきゅう)赤ちゃんの腸の中に住む体に良い菌(乳酸(にゅうさん)(きん)など)がたっぷり含まれています

 こうして、母乳は生まれたばかりの赤ちゃんを大きくし、ご飯を食べられるようになるまで赤ちゃんの発育を助けてくれるのですね。しかも母乳は直接お母さんのおっぱいからもらうから、あなたの体温と同じで温かく、そしてとても清潔(せいけつ)なのです。

母乳の弱点

 赤ちゃんは母乳を飲めば必要な水分とエネルギーをもらうことができるのだけど、実はこんなにすばらしい母乳にも弱点(じゃくてん)があります。

 あなたは母乳ってどうやってつくられるか知っているかな?

 おっぱいの中に乳腺(にゅうせん)という母乳をつくる細胞があるのだけど、乳腺は血液を材料にして母乳をつくります

おっぱいの中身の図。おっぱいは乳頭からおっぱいの中まで細い管(乳管)が続いていて、最終的に乳腺が集まった場所(乳腺葉)に達する。母乳はこの乳腺でつくられている。つくられた母乳は、乳管を通って乳管の開口部(乳頭の先)から分泌される。おっぱいの大きさは脂肪の多さで決まる。

 
かり
に、お母さんの食べた物や飲んだ物の中に悪い成分が入っていたとしましょう。するとその成分はお母さんの血液に混じってしまうかもしれない。それがやがて血液を材料につくられる母乳にも含まれてしまうことが考えられます。

 例えば、お母さんがお酒やお薬を飲むと、少しは母乳にもそれらの成分が含まれるかもしれない。だとすれば、赤ちゃんの口から体の中にそれらが入ることになるから、お母さんは普段から食べる物や飲むものに気を付けておかなくてはいけません。それと、もしもお母さんが何かのばい菌が体に入ってしまう病気にかかってしまったら、その病気の原因生物が母乳に含まれてしまうことがあって、すると赤ちゃんの口に入ってしまうかもしれない。

 それから少しむずかしい話だけど、母乳に含まれる「ビタミンK」という栄養量が十分ではないことも問題です。ビタミンKというのは、血液を固めるはたらきをもつ栄養素です。そういったことが母乳の弱点として考えられます。

 それでも、基本的にはお母さんのおっぱいからの母乳は、その栄養成分だけでなく、母乳を飲むという行為が、赤ちゃんとお母さんとのスキンシップになって、お母さんから赤ちゃんへ愛情がたっぷり注がれる時間になるから、母乳を飲むことってすごく大切なのです。

おっぱいはどうやってできるの?

 ところで、柔らかくて大きなおっぱいは、まだ小さな子供にはないよね。おっぱいは、だいたい小学校の高学年ごろから(ふく)らみ始めて、思春期ごろ(18歳くらい)まで続きます。この体の変化のことを第二次(だいにじ)性徴(せいちょう)とよんでいます(生まれたときからある男女の体のちがいを一次性徴という)。

おっぱいの成長していく様子。
第1期:(思春期前)まだ乳房がふくらんでいない状態(乳頭のみ突出)
第2期:乳房がややふくらみ、乳輪が大きくなる
第3期:乳房がさらに大きくなる
第4期:乳輪が盛り上がってくる
第5期:大人と同様のおっぱい(成人型)。乳輪はやや後ろに退き、その結果、乳頭のみ乳房から突出して見えるようになる
*Tanner分類を参考

 そして、もしも女の人が妊娠(にんしん)してお腹の中に赤ちゃんがいる体になると、おっぱいはさらに大きく発達します。ちなみに、おっぱいが大きくなるのは、「エストロゲン」という女性ホルモンのはたらきによって、乳腺を発達させるからです。

 あなたは女の子ですか? それとも男の子ですか?

 女の子なら、体が成長していくとおっぱいもだんだんと大きくなってくる。最初はきっと恥ずかしいと思うけど、それはみんな一緒。体の正常な発達が起こっている証拠(しょうこ)だから、安心してください。

 そしておっぱいは、人によって形も大きさも違うことは正常なことですよ。もしも小さなおっぱいだったとしても、赤ちゃんがお腹から生まれた後には、おっぱいはすごく発達して、ちゃんと赤ちゃんがうまれてきた後のおっぱいをあげる準備がはじまります。人の体って、本当にうまくできていますね。

「胸」が使われる言葉

 あなたは、「胸をふくらませる」という言葉を聞いたことがありますか? 胸をふくらませる、これは一見おっぱいのことかと思うかもしれないけれど、そうではなくて、「胸が期待(きたい)希望(きぼう)でいっぱいになる」とか、「希望に満ちている」という意味なのです。

 胸は「胸騒ぎ」、「胸がいっぱい」さらには「胸が()()けそう」などと自分の気持ちを表すときに使われることが多いから、胸というのは“自分の心の中を表す(かがみ)”と考えられているわけですね。

まとめ

 今日のお話をまとめると、女の人は、体の成長とともにおっぱいもだんだんと大きくなる。そして赤ちゃんが生まれた後に、おっぱいから母乳が出るようになって、赤ちゃんは母乳を飲むことですくすくと体が成長していく。

 いかがでしたか? お母さんの「おっぱい」は、あなたの赤ちゃんだったときの成長にとても大切な場所だということがわかりましたか? みんな、おっぱいに感謝しましょうね。

 大切にしましょうね、お母さんの「おっぱい」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

第11話「肺」

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