音や声は、多くの動物にとってコミュニケーションをとるための大切な手段
です。大部分の動物では音声パターンは生まれたときから決まっていて、親を真似
ることなく発声
します。
その一方で、言葉を学ぶヒトのように、親などの発声を真似ることを発声学習といいます。発声学習する種は、生まれつきではなく、学習によって歌や言葉を使えるようになりますが、それは霊長類
、鳴禽類
(スズメ目スズメ亜目のなかま)、オウム、ハチドリ、クジラ類、鰭脚類
(アザラシ、アシカ、セイウチのなかま)、コウモリの7つのグループに属
する一部の動物に限られます。霊長類で発声学習するのはヒトのみです。
歌をさえずる鳥である鳴禽類では、発声学習を始めるための神経系が十分に発達するのは、ふ化後かなり時間が経ってからだと考えられてきました。しかし、鳴禽類がどの時点から親のさえずりを認識
し、学習しているのかは未解明
でした。
このほど、フリンダース大学(オーストラリア)を中心とする国際的
な研究グループは、発声学習する鳴禽類は卵
の中にいる胎児
のときから、同種
のさえずりに強く反応
していることを発見しました。
研究対象
として調べた鳥は、発声学習するルリオーストラリアムシクイ、ウスアオオーストラリアムシクイ、コガラパゴスフィンチの3種と、発声学習しないコガタペンギンとニホンウズラの2種です。
これらの発声学習する種と、発声学習しない種とで、卵の中にいる胎児の心拍数
を指標
とし、同種
や異種
のさえずりへの反応や学習の状態
が調べられました。具体的には、無音
状態を60秒間、続いて同種か異種のさえずりを60秒間、再び無音状態を60秒間の合計180秒間を卵に向けて再生
し、その際の心拍数の変化が測定
されました。なお、これらの実験は胎児の体に傷をつけることなく進められました。
実験の結果、調べたすべての種で、胎児が異種よりも同種のさえずりに対して強く反応することがわかりました。そして同種のさえずりへの反応の強さは、発声学習する種のほうが、発声学習しない種よりも大きいことが明らかになったのです。一連の実験により、発声学習する種では、卵の中にいる胎児のときから周囲
の音を認識して学習する能力があることに加えて、発声学習をしない種にも、その能力の一部が備
わっていることがわかりました。
発声学習する鳥が、複雑
なさえずりや歌をつくり始めるのは、ふ化して数カ月から数年後のことですが、卵の中にいる胎児のときから周囲の音声を聴
く学習が始まっていたというわけです。卵の中で聴いた音が、大人になったときのさえずりにどのように影響
するのかなど、今後の研究が楽しみです。
【論文情報】
タイトル:Prenatal auditory learning in avian vocal learners and non-learners
著者:Diane Colombelli-Négrel, Mark E. Hauber, Christine Evans, Andrew C. Katsis, Lyanne Brouwer, Nicolas M. Adreani and Sonia Kleindorfer
公開日:2021/9/6
リンク:https://doi.org/10.1098/rstb.2020.0247
文