体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「首」です。
首は何のためにある?
あなたの「首」は体のどこにありますか? さわってみましょう。 そう。顔と胸、そして頭と背中のあいだに、細長い首が1本ありますね。
では、首は何のためにあるのでしょう。そうですね、首は頭と胴体をつなげたり、頭を右や左に向けたり振ったりするためにあります。首の長いキリンを見れば、その大切さは一目瞭然です。
では、首がなかったらどうでしょう? あなたの頭と胴体が直接くっついたままで自由がきかない。例えば、もしあなたが左へ向きたいとすると、同時に胴体も一緒に左に向けないといけない。上へ向きたいときはもっと大変で胴体ごと上に向けないといけない。でも、首があると首を曲げただけで頭を左にも上にも斜めにも向けることができる。わざわざ胴体を動かさなくていい。だから、首があるってすごく便利!
もちろん首が曲がる角度には限界があって、左も右もだいたい90°より少し広いくらいだけど、目の動きとあわせると、体の真後ろまでとかなり広い範囲で見ることができます。
意志を伝える首
また、「うん、うん」と首を縦に振ってうなずく、「ちがう、ちがう」と首を横に振って否定するときなど、あなたの意志を伝えるときにも首は大活躍します。このような首の動きができるのは、首の中にとてもはたらきものの「筋肉」と「骨」があるおかげです。
その筋肉とは、胸鎖乳突筋
、そして僧帽筋
という筋肉で、首を前後左右にいろいろ動かせる。そして忘れてはいけないのが首の中にある骨。首の骨は、頸椎
と呼ばれる7つの平たい骨の積み重なりによってできています。7つの平たい骨があると、首に柔軟性を生み出すことができます。
「首をひねる」や「首をかしげる」という“首”を用いた言葉がありますが、これは普通に首を曲げるという意味とは異なり、「意味がわからず考え込む、疑う、納得できない」などの意味があります。これもよく使われる言葉です。
首をさわってみよう!
さて、首の中には、筋肉以外にもたくさんの大切なものが入っています。もう一度首のまわりをさわってみましょう。
もし近くにお父さんかおじいちゃんがいたら、首の前の方を触らせてもらってください。なんか、とんがり帽子のような“でっぱり”があるのわかるかな? さわるとちょっと気持ち悪い。ここを「のど仏」といいます。
では、今度は、お母さんかおばあちゃんがいたら、同じところを触らせてもらってごらん。あれ? さっきの「のど仏」がないね。そう、この「のど仏」って、男の人、しかも大人の男の人にしかないもの。男の人は、「声変わり」といって体が大きく成長する時期に声も変わっていくのだけど、そのときにこの「のど仏」がでてくるのです。
つまり首の中って、声をつくることに関係する場所ってことだね。ではそれを実際確かめてみましょう。
あなたは自分の首を手で触りながら、「あ~~~」っていってごらん。なんか手に「じ~~ん」と振動を感じなかった? この振動は、「声帯
」という声をつくっている部分の“ふるえ”によって発生するもの。
もう一度「あ~~~」っていってみて。声を出すとき、あなたは同時に息もだしているよね。だから、声を出すときは、息を同時に吐き出しながら、声帯を“ふるわせて”いるのだね。
首はつまり、声をつくることと息を吸ったり吐いたりするときの空気の通り道にもなるってことだね。ちなみにこの空気の通り道を「気道
」といいます。覚えておきましょう。
首の中にある2つの道
まだ他にも、首の中には大事な場所があります。もう一回あなたの首の前の方を、手を開いた状態(パーの形)で横向きに触ってみて。手はできるだけ首の前全体にぺったり張り付けてね。それでは今から、唾
(唾液
)をゴックンしてみましょう。
「ゴックン!」
なにか、首の真ん中の一部がグッと上がらなかった? 首のこの動きは「嚥下
」といって、嚥下はゴックンした食べ物を「食べ物がいくべき道」にきっちり振り分けるはたらきをします。ちなみにこの「食べ物がいくべき道」のことを「食道」といいます。
さっき出てきた「気道」といま出てきた「食道」は、どちらも“道”がつくけど、もちろんこの2つは違う道。口の中は息(空気)も食べ物も同じ場所を通るけれど、咽の途中で気道と食道に分かれることで、空気と食べ物が決して同じ場所にいかないようになっているのです。もしも間違って食べ物や飲み物が気道に入っていけば大変! はげしく咳
を出して、それを追い出そうとします。
今から実験してみましょう!
では今から実験してみましょう。もう一度唾を「ゴックン」してください。その瞬間、鼻から息を吐き出せますか?
できないよね。このときの首の中は、一瞬息の通りを“ストップ”させて食べ物が息の通り道(気道)へいけなくしています。とてもうまくなっているでしょ、首の中って。
ただし、ここで1つ注意です。大きなあめ玉や少し硬めのゼリーを食べるときは、決して“吸い込んで”はいけません。吸い込みながら口の中に入れようとすると、いきおい余ってそれが空気の通り道、つまり気道に入ってしまうことがあります。
気道にあめ玉などがひっかかったら大変です。息ができなくなります。あめ玉を吸い込みながら食べることや、あめ玉を口の中に入れたまま走り回ることなど決してないようにしましょう。
お話を戻すと、吸った空気の気道の次の行き先は、胸の中の「肺」(第11話)、食べ物の食道の次の行き先は、お腹の中の「胃」(第3話)です。
首のわきにある血管をさわってみよう!
最後にもう一つ。さっきさわったのど仏の辺りから、そのまま右または左に手をずらして、ちょうどあごの下あたりに手をもっていきましょう。そして少し、指をグッと押し込んでみて。
どう? 何か手に“動き”が感じられなかった? 「トクン、トクン」って。
これ、心臓が血液を送るときに生じる「血管の振動」です。これを「脈拍
」っていうのだけど、つまり、首は心臓から出た血液を頭に運ぶ「血管の通り道」にもなるということ。ちなみに、首の中を通るこの血管のことを「頸動脈
」といいます。「頭」は人体でいちばん大切な場所だから、頸動脈が通る首も最も大切な場所だということになりますね。
まとめ
今日お話をまとめると、首には首を曲げるための筋肉、声を出すための声帯、のど仏、息を吸ったり吐いたりするための空気の通り道である気道、食べ物を通すための食道、頭に血液を運ぶための血管がある。
くれぐれも、あそび半分でお友だちの首をしめたり、たたいたりしてはダメ。息ができなくなったり、血が流れなくなったりして、とても危険だから。
いかがでしたか? 「首」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「首」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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