2020年化学賞 ジェニファー・ダウドナ教授(アメリカ・カルフォルニア大学バークレー校)、エマニュエル・シャルパンティエ所長(ドイツ・マックスプランク感染生物学研究所) ※所属は受賞当時
細菌が持つ免疫のしくみをもとにしたゲノム編集技術「CRISPR-Cas9
」を開発した、エマニュエル・シャルパンティエ氏、ジェニファー・ダウドナ氏が2020年の化学賞を受賞しました。CRISPR-Cas9は、簡単に遺伝子を操作できることから、世界中の研究機関で利用されています。
細菌の免疫機能に注目
遺伝子(ゲノム)を操作する技術は1970年代からあり、農作物の品種改良や医薬品製造などのさまざまな分野で利用されてきました。しかし、従来の技術は取り扱いが難しく、組換え体(遺伝子を組み換えた細胞や生体)をつくり出すのに時間がかかるという課題がありました。それを解決したのがCRISPR-Cas9ですが、開発の発端は細菌がウイルスから身を守る免疫の研究でした。
ダウドナ氏とシャルパンティエ氏は、細菌が持つ免疫機能が、感染したウイルスの遺伝子を切断することに注目。細菌が持つ「Cas」と呼ばれる酵素でウイルスを切断し、切断された場所の遺伝情報を、細菌の遺伝子中の「CRISPR」という場所で記憶していることを明らかにしました。ウイルスの遺伝子を覚えているので、同じウイルスが感染しても、すぐに切断して退治できるというわけです。
この免疫のしくみをゲノム編集技術に応用し、狙った遺伝子に結合する「ガイドRNA」を、酵素の「Cas9」に取りつけることで、ターゲットとなる遺伝子を確実に切断できるようにしました。切断した遺伝子の機能を欠落させたり、そこに別の遺伝子を挿入したりすることもできます。
2012年に発表されるとこの技術は瞬く間に広まり、世界中の研究機関で利用されるようになりました。
ゲノム編集には課題も
その中には私たちの日常生活に関わる研究もあり、京都大学、近畿大学などの研究グループはマダイやトラフグの筋肉量を調節する遺伝子を欠落させることで、身の多い魚を実現する研究を進めています。今後、もっと手頃な価格で高級な食材を食べられるようになるかもしれません。
一方、CRISPR-Cas9には、倫理的な課題もあると指摘されています。2018年には中国の研究者がエイズを発症させるウイルスに感染しにくくなるよう、受精卵にゲノム編集を行ったと発表して批判されました。人間に対するゲノム編集の応用は、病気の治療にも役立てられるだけに期待が高まりますが、慎重な議論を重ねていく必要があります。
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文