【ノーベル医学・生理学賞】利根川 進先生の研究-異物を排除する抗体が多様であるしくみを解明

1987年医学・生理学賞 利根川 進先生(マサチューセッツ工科大学教授※肩書は受賞当時

 私たちの体には外部から侵入してきた細菌やウイルスなどの異物を取り除く「免疫
めんえき
」と呼ばれる防御システムが備わっています。異物が侵入してくると、免疫を担う細胞の一種であるB細胞が、異物それぞれに応じて「抗体」をつくり出し、異物に結合。これを攻撃して排除します。

 そのため抗体は多種多様で、種類数は100億にも達すると考えられていますが、これほど多様な抗体をつくりだせるしくみは明らかになっていませんでした。タンパク質である抗体が多様だということは、タンパク質合成のもととなる情報が記された遺伝子は多様であるはずですが、従来、遺伝子は変わらないものと考えられてきました。

 そこで利根川進博士は、多様な抗体をつくりだすしくみを遺伝子から探ることにしました。異物にさらされておらず、抗体をつくっていないマウスの胎児のDNAと、盛んに抗体をつくっていると思われる、がんになったマウスのDNAを比較したところ、遺伝情報が大きく違っていました。

 アルファベットのY字型をした抗体の開いた腕の先端が、異物に応じて変化するしくみになっており、個々の異物にだけ結合する抗体をつくりだしていたのです。

 「遺伝子は変わらない」という常識をくつがえして、多種多様な抗体をつくるしくみを解明したことが評価され、利根川博士は1987年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。

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サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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