【ノーベル化学賞】福井謙一先生の研究-原子の性質を電子で決まるとする「フロンティア軌道理論」を提唱

1981年化学賞 福井謙一
けんいち
先生(京都大学教授
※肩書は受賞当時

 私たちの身の回りにある物質は、すべて原子で形づくられています。そのため物質の性質は原子によって決まるわけですが、福井謙一博士は原子の性質が電子の動きによって決まるとする「フロンティア軌道理論」を提唱し、この功績により1981年にノーベル化学賞を受賞しました。

 そもそも原子は、中心に原子核があって、その周囲を電子が回っています。といっても、電子は好き勝手に原子核の周囲を回っているわけではなく、軌道と呼ばれる決まった通り道の上を回っています。

 福井博士は、数ある軌道の中に、多くの電子が回っていて最も大きなエネルギーを持つ軌道(最高被占軌道
さいこうひせんきどう
)と、電子が少なくエネルギーも最も小さな軌道(最低空軌道)があること、さらに、これらの軌道上にある電子が化学反応の起こり方を決めていることを発見して、それぞれ「フロンティア軌道」、「フロンティア電子」と名付け、先に紹介したフロンティア軌道理論を発表しました。

 化学反応は、化学製品の製造過程はもちろんのこと、生物の体内で食物からエネルギーを得る反応などにも関わっています。福井博士が提唱したフロンティア軌道理論は化学反応のしくみを明らかにしただけでなく、新しい化学物質を合成するのにも役立っており、ノーベル化学賞を受賞するにふさわしい研究成果といえるでしょう。

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サイエンスライター。1968年、大阪府生まれ。東京水産大学(現東京海洋大学)卒業後、ライターとなり、最新の研究成果を取材し、科学雑誌を中心に記事を発表している。著書に『がん治療の正しい知識』、『寄生虫の奇妙な世界』、『イヌとネコの体の不思議』、『群れるいきもの』などがある。

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