連載《人体MAPS》 第11話「肺」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「肺」です。

肺はどこにある?

 あなたの「肺」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

 そう。肺はあなたの両方の胸の中にありますね。肺は直接さわることはできないけれど、心臓を囲んで、左に一つ、右に一つ、合計2個ある臓器です。肺はとても大きくて、上は鎖骨
さこつ
の高さ付近、下は肋骨
ろっこつ
の下の縁側
ふちがわ
付近まで達しています。

肺は胸の大部分を占める大きな、左右一対の臓器である。肺と鼻や口は、息を吸ったり吐いたりしたときに通るみち「気道」によってつながれている。肺はとても大きく、上は鎖骨、下は肋骨の下の方まで達する。胸に手を当てて、息を吸ったり吐いたりすると、胸が大きくなったり小さくなったりする。これは、肺の中に空気が出入りして、肺の大きさが変わるため。気道は肺の中でたくさん分岐して、最後には「肺胞
はいほう
」というブドウの房の形をした空洞
くうどう
に達する。

肺の動きを感じてみよう

 あなたは今、両方の胸に手を当てています。胸には肋骨があるのがわかりますね。それでは、大きく息を吸ってみてください。ゆっくり吐いてください。もう一度繰り返しましょう。息を吸うとき、肋骨が少し挙がりませんか? 逆に、息を吐くとき肋骨が少し下がりますね。これを「呼吸運動(単に呼吸ともいう)」といいます。

 呼吸の“呼”は「
く」を、“吸”は「
う」を意味します。今あなたが吸った空気は肺の中に入っていきました。空気は鼻(または口)から入って、
のど
、気道、そして肺に到達します。肺は空気が入ると大きく広がり、空気が出ると小さく縮みます。

 呼吸運動は主に肋間筋
ろっかんきん
横隔膜
おうかくまく
とよばれる筋肉の共同作業によって起こるのですが、とくに肋間筋のはたらきによる呼吸を「胸式呼吸
きょうしきこきゅう
」、横隔膜による呼吸を「腹式呼吸
ふくしきこきゅう
」といいます。

肺はなんのためにある?

 では、肺は何のために空気を入れたり出したりしているのでしょう。

 あなたは、第2話の「心臓」のときに肺が出てきたことを覚えていますか? そう、心臓の三つ目の役割、「酸素が少なくなった血液を“肺”に送り込む」って話。あなたが息を吸うと、酸素をたっぷり含んだその空気が肺の中に入る。一方で心臓から送られた酸素が少ない血液も肺に流れ込むから、あなたが吸った空気(酸素たっぷり)と、血液(酸素少ない)が近づくことになります。

 すると空気中の酸素が血液の中に入り込むことができる。こうして血液は酸素を取りいれることができます。 つまり、肺の役割は、「酸素が少ない血液を酸素が多い血液に変えること」ですね。

肺へは、心臓から送られてきた「酸素が少ない血液」が送られている。その血液は肺胞の周りの毛細血管網
もうさいけっかんもう
となる。肺胞の中にはあなたが吸った酸素がたくさん含まれている。すると、肺胞の中の酸素は毛細血管網の中に入っていく。こうして血液は「酸素が多い血液」と変化する。図の中の二酸化炭素は、細胞が出したいわばゴミのガス。このガス、酸素とは逆に肺胞側へ送られて、あなたが吐く息とともに体の外へ追い出される。つまり、酸素と二酸化炭素は肺胞と毛細血管網の間を逆向きに動く。これを「ガス交換」という。私たちが呼吸(息を吸って吐いて)をする一番大切な意味は、このガス交換を行うためといえる。

なぜ、酸素が必要なのか?

 では、なぜ血液は酸素を取り込む必要があるのでしょう?

 そうですね、あなたの体はとてもたくさんの細胞からできていて、その細胞が生きていくための酸素は血液から得ているためですね。だから、肺によって血液の中の酸素をたっぷりにしてもらい、次に心臓によってその血液を細胞へ送ってもらう。こうして心臓と肺は二人三脚
ににんさんきゃく
で酸素を全身に運んでいるのですね。

ギブ アンド テイク (give and take)

 ところで、細胞はもらった酸素や栄養を使ってエネルギーをつくりつつ、それと同時に二酸化炭素という、たとえていえば車から出る排気ガスのようなものを出します。これはいわば細胞が出すゴミです。

 細胞はポイポイと血液の中にそのゴミを捨てます。町中にゴミがあるのはよくないように、血液の中にゴミがたまるのもよくない。そこで、肺に入った血液は、肺から酸素をもらう“お礼”に二酸化炭素を肺に渡します。つまり、酸素と二酸化炭素の物々交換
ぶつぶつこうかん
、まさに“ギブ アンド テイク”が行われるのです。

 ただ、肺にとってはあまりうれしくないプレゼントですけどね。そこで肺はもらった二酸化炭素をどうするかというと、肺から空気を出す運動、つまり、息を吐くことで二酸化炭素を肺から追いだします
 まとめると、息を吸うのは酸素を取りいれる、息を吐くのは二酸化炭素を吐きだすという意味があるのですね。

鰓呼吸をする生物

 みなさんは、鰓呼吸
えらこきゅう
する生物を知っていますか? そうです。魚の仲間ですね。それ以外には? そう。カエルに代表される両生類の幼生、エビやカニなどの甲殻類
こうかくるい
、貝の仲間、イカやタコのような軟体動物には鰓を見ることができます。

 鰓を観察してみると、たくさんの絨毯
じゅうたん
の綿毛のようなちょっと変わった形をした組織があります。この絨毯の綿毛の一本一本に毛細血管が通っています。鰓に水や海水が触れると、それらの中にある酸素が鰓の血管の中に入っていくことができます。逆に、生き物の体から生じたゴミ(二酸化炭素)は、鰓から水中に出ていきます。

 人間の肺の中の肺胞を「海水」、毛細血管網を「鰓」と考えれば、外見はヒトと鰓をもつ生き物では異なるけれど、酸素と二酸化炭素の交換の原理はよく似ていますね。

聴診器で聞く胸の音

 第2話の「心臓」のときに、お医者さんが胸の音を聞く道具「聴診器」についてお話しましたね。聴診器を使うと、心臓の音だけでなく肺の音もよく聞こえます

 肺の音、正確には、肺に空気が出入りする音。つまり、お医者さんは、胸の奥にあるあなたの肺にちゃんと空気が出たり入ったりしているか、何かおかしいところがないかを聴診器で聞く音で判断します。だからお医者さんは、聴診器をあてるときにあなたに「大きく息を吸って~~、吐いて~~」っていうのですね。

聴診器を用いれば、心臓の音はもちろん、息を吸ったり吐いたりしたときに出る音、つまり「呼吸音」を聞くことができる。空気の通り道がせまくなっていたり、何やら液体のようなものが溜まっていたりしていないか、ゴロゴロ、ヒューヒュー、パチパチなどのような音がなっていないか、聴診器から聞いている。お医者さんは「息を吸って~、吐いて~」というのは、「今から吸う音を出しますよ、あるいは吐く音を出しますよ」ということがわかるため。

息をしてみよう!

 肺には息(空気)が入ったり出たり、心臓には血液が入ったり出たり、この2つの臓器はよく似ています。心臓が1分間に大きくなったり小さくなったりする回数を「心拍数」といったのと同じように、肺が1分間に大きくなったり小さくなったりする回数を「呼吸数」といいます。もしかすると、肺も心臓と同じくらい動くのかな?

 では、1分間に何回あなたは呼吸運動をするか、一度数えてみましょう。お家の人にも一緒に数えてもらいましょう。

 はい、スタート!

 

 どうだった?1 きっとおうちの人よりあなたの方が多かったんじゃないかな? だいたい、15回くらいかな。それでも呼吸数は心拍数に比べずいぶん少ないね。

息を止めてみよう!

 今度は逆に、息をすこしばかり止めてみましょう。

 どう? とても苦しいでしょ。もう息をしてもいいよ。息を吸ったり吐いたりする呼吸運動は、体に酸素を取り入れ、体から二酸化炭素をはき出すという、生きていく上で絶対必要な機能だから、ほんの少しの時間でも息を止めると、体は「苦しい!」という信号を出して、いち早く呼吸運動を再開させるように私たちに働きかけるのですね。ちなみに、この「苦しい!」という信号は脳が出しています。

まとめ

 今日のお話をまとめると、息を吸うことで肺の中に空気を取り入れ、その空気中の酸素を血液の中に取り込ませる。逆に、息を吐くことで肺の中の二酸化炭素を吐きだす。これを呼吸運動っていう。呼吸運動には肋間筋による胸式呼吸と横隔膜による腹式呼吸がある。

 いかがでしたか? 「肺」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「肺」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

【連載バックナンバー】

第1話「目」

第2話「心臓」

第3話「胃と腸」

第4話「頭」

第5話「耳」

第6話「鼻」

第7話「口」

第8話「歯」

第9話「腎臓と肝臓」

第10話「お尻」

最新号好評発売中!

子供の科学 2024年 12月号

CTR IMG