体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「肺」です。
肺はどこにある?
あなたの「肺」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。
そう。肺はあなたの両方の胸の中にありますね。肺は直接さわることはできないけれど、心臓を囲んで、左に一つ、右に一つ、合計2個ある臓器です。肺はとても大きくて、上は鎖骨
の高さ付近、下は肋骨
の下の縁側
付近まで達しています。
肺の動きを感じてみよう
あなたは今、両方の胸に手を当てています。胸には肋骨があるのがわかりますね。それでは、大きく息を吸ってみてください。ゆっくり吐いてください。もう一度繰り返しましょう。息を吸うとき、肋骨が少し挙がりませんか? 逆に、息を吐くとき肋骨が少し下がりますね。これを「呼吸運動(単に呼吸ともいう)」といいます。
呼吸の“呼”は「吐
く」を、“吸”は「吸
う」を意味します。今あなたが吸った空気は肺の中に入っていきました。空気は鼻(または口)から入って、咽
、気道、そして肺に到達します。肺は空気が入ると大きく広がり、空気が出ると小さく縮みます。
呼吸運動は主に肋間筋
と横隔膜
とよばれる筋肉の共同作業によって起こるのですが、とくに肋間筋のはたらきによる呼吸を「胸式呼吸
」、横隔膜による呼吸を「腹式呼吸
」といいます。
肺はなんのためにある?
では、肺は何のために空気を入れたり出したりしているのでしょう。
あなたは、第2話の「心臓」のときに肺が出てきたことを覚えていますか? そう、心臓の三つ目の役割、「酸素が少なくなった血液を“肺”に送り込む」って話。あなたが息を吸うと、酸素をたっぷり含んだその空気が肺の中に入る。一方で心臓から送られた酸素が少ない血液も肺に流れ込むから、あなたが吸った空気(酸素たっぷり)と、血液(酸素少ない)が近づくことになります。
すると空気中の酸素が血液の中に入り込むことができる。こうして血液は酸素を取りいれることができます。 つまり、肺の役割は、「酸素が少ない血液を酸素が多い血液に変えること」ですね。
なぜ、酸素が必要なのか?
では、なぜ血液は酸素を取り込む必要があるのでしょう?
そうですね、あなたの体はとてもたくさんの細胞からできていて、その細胞が生きていくための酸素は血液から得ているためですね。だから、肺によって血液の中の酸素をたっぷりにしてもらい、次に心臓によってその血液を細胞へ送ってもらう。こうして心臓と肺は二人三脚
で酸素を全身に運んでいるのですね。
ギブ アンド テイク (give and take)
ところで、細胞はもらった酸素や栄養を使ってエネルギーをつくりつつ、それと同時に二酸化炭素という、たとえていえば車から出る排気ガスのようなものを出します。これはいわば細胞が出すゴミです。
細胞はポイポイと血液の中にそのゴミを捨てます。町中にゴミがあるのはよくないように、血液の中にゴミがたまるのもよくない。そこで、肺に入った血液は、肺から酸素をもらう“お礼”に二酸化炭素を肺に渡します。つまり、酸素と二酸化炭素の物々交換
、まさに“ギブ アンド テイク”が行われるのです。
ただ、肺にとってはあまりうれしくないプレゼントですけどね。そこで肺はもらった二酸化炭素をどうするかというと、肺から空気を出す運動、つまり、息を吐くことで二酸化炭素を肺から追いだします。
まとめると、息を吸うのは酸素を取りいれる、息を吐くのは二酸化炭素を吐きだすという意味があるのですね。
鰓呼吸をする生物
みなさんは、鰓呼吸
する生物を知っていますか? そうです。魚の仲間ですね。それ以外には? そう。カエルに代表される両生類の幼生、エビやカニなどの甲殻類
、貝の仲間、イカやタコのような軟体動物には鰓を見ることができます。
鰓を観察してみると、たくさんの絨毯
の綿毛のようなちょっと変わった形をした組織があります。この絨毯の綿毛の一本一本に毛細血管が通っています。鰓に水や海水が触れると、それらの中にある酸素が鰓の血管の中に入っていくことができます。逆に、生き物の体から生じたゴミ(二酸化炭素)は、鰓から水中に出ていきます。
人間の肺の中の肺胞を「海水」、毛細血管網を「鰓」と考えれば、外見はヒトと鰓をもつ生き物では異なるけれど、酸素と二酸化炭素の交換の原理はよく似ていますね。
聴診器で聞く胸の音
第2話の「心臓」のときに、お医者さんが胸の音を聞く道具「聴診器」についてお話しましたね。聴診器を使うと、心臓の音だけでなく肺の音もよく聞こえます。
肺の音、正確には、肺に空気が出入りする音。つまり、お医者さんは、胸の奥にあるあなたの肺にちゃんと空気が出たり入ったりしているか、何かおかしいところがないかを聴診器で聞く音で判断します。だからお医者さんは、聴診器をあてるときにあなたに「大きく息を吸って~~、吐いて~~」っていうのですね。
息をしてみよう!
肺には息(空気)が入ったり出たり、心臓には血液が入ったり出たり、この2つの臓器はよく似ています。心臓が1分間に大きくなったり小さくなったりする回数を「心拍数」といったのと同じように、肺が1分間に大きくなったり小さくなったりする回数を「呼吸数」といいます。もしかすると、肺も心臓と同じくらい動くのかな?
では、1分間に何回あなたは呼吸運動をするか、一度数えてみましょう。お家の人にも一緒に数えてもらいましょう。
はい、スタート!
どうだった?1 きっとおうちの人よりあなたの方が多かったんじゃないかな? だいたい、15回くらいかな。それでも呼吸数は心拍数に比べずいぶん少ないね。
息を止めてみよう!
今度は逆に、息をすこしばかり止めてみましょう。
どう? とても苦しいでしょ。もう息をしてもいいよ。息を吸ったり吐いたりする呼吸運動は、体に酸素を取り入れ、体から二酸化炭素をはき出すという、生きていく上で絶対必要な機能だから、ほんの少しの時間でも息を止めると、体は「苦しい!」という信号を出して、いち早く呼吸運動を再開させるように私たちに働きかけるのですね。ちなみに、この「苦しい!」という信号は脳が出しています。
まとめ
今日のお話をまとめると、息を吸うことで肺の中に空気を取り入れ、その空気中の酸素を血液の中に取り込ませる。逆に、息を吐くことで肺の中の二酸化炭素を吐きだす。これを呼吸運動っていう。呼吸運動には肋間筋による胸式呼吸と横隔膜による腹式呼吸がある。
いかがでしたか? 「肺」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「肺」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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