体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「肝臓と腎臓」です。
肝臓と腎臓はどこにある?
あなたの「肝臓と腎臓」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。
これは少しむずかしいかもしれないね。肝臓はお腹の上の真ん中あたりに“1つ”、腎臓は肝臓と同じくらいの高さで、お腹の後ろ側に“2つ”ある臓器です。
「かんじんかなめ」って聞いてことある?
ちょっとむずかしい言葉だけど、あなたは「肝腎要」という言葉を聞いたことがありますか?
これは、「ものごとのいちばん大切な部分のこと」を指す言葉です。この言葉の漢字をよく見ると、肝臓の肝、腎臓の腎が使われているのがわかります。
要という字は腰と似た漢字です。「肝」・「腎」・「腰」、昔の人は人の体の中で最も大切な部分は、肝臓と腎臓と腰と考えていました。この考えを、人の体に限らずもっと範囲を広げて、一般に「ものごとのいちばん大切な部分のこと」を肝腎要というようになったわけですね。昔の人の考え方や観察力ってすごいですね。
では、昔の人がそれほど大切と考えた肝臓と腎臓って、どんな役割があるのでしょうか。
人体最大の臓器「肝臓」
まず肝臓のお話から。
肝臓は「人体最大の臓器」っていわれるくらい、とにかく大きい臓器です。それもそのはず、肝臓には本当にたくさんのはたらきがあるのです。
ちなみに、肝臓は英語で“liver”といって、これを日本語に直すと、「生きている人」となります。つまり、英語では、生きることと肝臓がきちんとはたらいていることは同じ意味となります。こうして日本だけでなく英語を使う人たちも肝臓はとても大切な臓器なのだと、考えられているわけです。
肝臓とアルコールの関係
あなたのおうちの中でお酒を飲む人はいますか? お酒には、ビールや日本酒、ワイン、焼酎、ウイスキー、ブランデーなどたくさんの種類があります。すべてのお酒には「アルコール」という人を酔っぱらわせてしまう物質が入っています。
あなたも知っているように、たくさんのアルコールは体に毒です。肝臓は、アルコールを分解することで人を酔わなくさせたり、酔ったとしても醒ませてくれます。アルコール以外にも食べ物に含まれる有害物質や体の中で発生した不要なもの、病気のときにのむ薬など、とにかく体の中にずっとあったらよくないものを分解して害のないものにしてくれます。
肝臓は超はたらきもの!
さらに肝臓は、血液の中に含まれるいろいろなタンパク質をつくります。このタンパク質というのは、細胞に必要な栄養素を運んだり、血液が正常にはたらくための必要な物質になります。
例えば、あなたがケガをすると血がでるけれど、血はいずれ止まるよね。これは血を固める役割をもつタンパク質、「フィブリノーゲン」という物質があるおかげです。フィブリノーゲンも肝臓でつくられる大切なタンパク質の1つです。
それから、「胃と腸」のお話で出てきた小腸に分泌される消化液、その中には「胆汁」という液もあって、これも肝臓でつくります。その他、血液の中のブドウ糖の量を調節したり、コレステロールやリン脂質といった脂質の仲間をつくったりと、肝臓の役割をいい出したらきりがありません。まだまだたくさんある肝臓の機能を考えると、本当に肝臓ってはたらきものですね。
肝臓は「沈黙の臓器」
さて、臓器の中で最も大きい肝臓。それなのに肝臓は別名、「沈黙の臓器」って呼ばれています。なぜだかわかりますか?
肝臓は、何かの原因で少しくらい弱まっても全然平気でびくともしない。そして少し弱った肝臓をもつ人も、とくに何か症状(異変)に気付くわけでもない。まさに“し~~ん”としている。
肝臓には「予備能力」というはたらく余力がたくさんあるから、ちょっとくらいのダメージではへこたれません。そういった肝臓の性質から「沈黙の臓器」ってよばれています。
ところが、さっき出てきたアルコールを毎日毎日たくさん飲み過ぎたり、肝臓に傷害を与えるウイルスの影響などによってたくさん傷つけられたりすると、さすがの肝臓も弱まってきます。そうなると、肝臓は沈黙を破り、ついには体にいろいろな症状を出すようになります。普段怒らない人が怒るととても怖いのと同じで、普段は静かな肝臓がダメになって体に異変が出てきたとき、もうそのときの肝臓は相当なダメージを受けていて、もしかすると生命が危ういというサインになるかもしれません。お酒の飲みすぎは絶対ダメですね。
レバーを食べよう!
レバーという食べ物があります。日本では、ウシ、ブタ、トリなどの食用の肝臓を指します。あなたはレバーを食べたことがありますか?
食べたことがある人、レバーは好きですか? 実は僕(筆者)はあまりレバーが好きではありません。レバーにはたくさんの栄養が含まれるので、なんとももったいない話です。
レバーにはたくさんの鉄分やビタミン、グリコーゲンなどが含まれていて、栄養が豊富です。ぜひ育ち盛りのあなたには、ときどき食べてもらいたいものです。ただし、レバーはできるだけ新鮮なものを選び、しっかり火を通してから食べましょう。
期間限定の血の工場
肝臓のお話の最後に、あなたがお母さんのお腹の中にいたときのお話を少ししましょう。あなたが生まれる前のお母さんのお腹の中にいたとき、実は肝臓は、あなたの体の中を流れる血の細胞もつくっていたのです。
今あなたは生まれた後の体だから、血の細胞は別の場所でつくられるけれど、肝臓はお腹の中にいるときだけの“期間限定の血の工場”なのです。ほんと、肝臓ってどんなことでもするからすごいでしょ!
腎臓のはたらき
次に、腎臓の話。
あなたは腎臓が何をする臓器か知っていますか? 私たちの体の中にある細胞は、私たちが生きている限り、たくさんのゴミが発生します。そのゴミは、細胞の中にためすぎてしまうと細胞が死んでしまいますから、細胞の近くを通る血管にゴミを捨てます。血管の中には血液が流れているので、細胞から出たゴミは血液に混じることになります。
そうすると、今度は血液の中がゴミであふれてしまいます。そこで腎臓は、血液の中に含まれるゴミをとるためにはたらきかけます。血液の中にあるゴミやいらなくなった物(老廃物といいます)、そして水分などを取り出して、それらをまとめて別の液体に変えてしまいます。その液体が「おしっこ」、つまり「尿」です。
おしっこを出すということ
腎臓がつくったおしっこは、いったん膀胱というところに溜められます。膀胱の中にある程度尿がたまると、あなたは「おしっこがしたいな!お手洗いに行きたいな!」という感覚が自然に出てきます。そしてトイレに行った後、おしっこを出してもよい体制が整うと、尿が“しゃ~~っ”と出てきます。
こうして、体の中にあったゴミや老廃物は、きちんと体の外に出されることになります。腎臓はまさに「ゴミ処理工場」ですね!
腎臓のはたらきが悪くなると?
もしも腎臓の働きが悪くなると、体の中にゴミがたまってしまいます。腎臓が働かないままだと、実は人間は数日の内に死んでしまいます。だから腎臓の働きは生きていく上で絶対必要なのです。
腎臓は尿をつくることに加えて、体の中の水の量を調節したり、血圧を調節したり、血の中の赤血球という細胞を増やしたり、ビタミンDという栄養素を活発にするなどの役割があります。ビタミンDはカルシウムの量を増やしてくれるから、骨を丈夫にしたり、神経や筋肉の活動にとても大切な栄養素です。
腎臓も肝臓と同じように、体にとってはなくてはならないとても大切な臓器であることがわかりましたか?
“肝腎要”の言葉の意味も理解できましたね。いい言葉ですね!
まとめ
今日のお話をまとめると、肝臓は体の中の有害物質を無害なものに変えてくれたり、体に必要なたくさんの物質をつくるはたらきがある。腎臓は体の中で発生したゴミをおしっこ(尿)という形で捨てて、体の中をきれいにするはたらきがある。
いかがでしたか?「肝臓と腎臓」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか?
大切にしましょうね、あなたの「肝臓と腎臓」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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