●「SF映画」って知ってる?
「SF映画」って聞いたことあるかな? 「SF映画」は「サイエンス・フィクション映画」を略
したもので、科学を元にした空想の映画という意味だよ。本物の科学に「もし」を加えて、こんなことができたらいいなぁという空想を元にした映画なんだ。例えば、宇宙人はまだ見つかっていないし宇宙船はワープできないけど、もし宇宙人がいっぱいいて宇宙船でワープして交流していたらと空想したSF映画が、有名な『スター・ウォーズ』だよ。
●「SF映画」で科学を学ぼう!
SF映画に登場する科学は、本物の科学とは少し違うけれど、本物の科学を元にしている場合も多いんだ。一方で、SF映画はそもそも映画なので、すごく面白くて楽しいよね。ということは、SF映画は楽しみながら科学を学べる最高の教材かもしれないんだ。しかも、科学がわかるとSF映画がさらに楽しくなる。『子供の科学』の読者のみんなだったら、きっと好きになると思うので、ぜひ観てみよう!
●『TENET テネット』の字幕科学監修に
僕もSF映画が大好き。特に、クリストファー・ノーラン監督のSF映画『インターステラー』が好きすぎて、世界最大の映画館で見るためにわざわざオーストラリアまで20万円もかけて日帰り旅行に行ったこともあるんだぞ。それから、『インターステラー』に登場するブラックホールや相対性理論
を科学的に解説する会を100回もやったんだ。
そのおかげかはわからないけど、同じ監督の最新作『TENET テネット』では、日本語字幕の科学監修
をすることになったんだ。自分の大好きなSF映画に関わる夢がかなって、とてもうれしかったよ。みんなも大好きなことがあったら、ずっとそれを続けてみよう。きっと誰かが見ていてくれて、君の夢を実現してくれるかもしれないよ。では、自己紹介はこれぐらいにして、今回はその『TENET テネット』の科学について説明していくよ。
●教室は前にも後ろにも進める
自分の学校の教室の中を想像してみよう。みんな、先生の言うことを聞いて次のことができるかな? まずは、自分の机から教室を前に歩いて黒板まで行こう。次に、振り返って、黒板から教室を後ろに歩いて自分の机まで帰ろう。みんな簡単にできたかな? 黒板まで行ったけど振り返ることができなくて自分の机に帰れないおもしろいお友達はいないよね。
このように、教室は前に行くこともできるし、振り返って後ろに帰ることもできるんだ。当たり前すぎて誰も気にしないけど、これはとても重要な宇宙全体の性質なんだ。このことを、「空間は逆行できる」というよ。逆向きに進むことを「逆行
」といい、普通の向きに進むことを「順行
」というんだ。
「家に帰るまでが遠足」ということわざを聞いたことはあるかな? これは、家から遠足に行ったら、ちゃんと家まで戻りましょう、という意味だよ。「空間は逆行できる」からこそ生まれたことわざなんだ。もし、「空間は逆行できない」だったら、「遠足に行ったら最後」なんて怖いことわざが生まれたかもね。
では、空間ではなく時間だったらどうなるんだろう?
●時間割は進むだけで戻れない
今度は、自分の学校の時間割を想像してみよう。みんな、先生のいうことを聞いて1日ちゃんと過ごせるかな? 時間割は、最初に1時間目があって、次に2時間目、3時間目、4時間目があって、お昼ご飯があって、最後に5時間目があって、という順番で進んでいくよね。でも、やっと学校が終わったと思ったら、時間が逆向きに進んで、5時間目があって、お昼ご飯があって、4時間目、3時間目、2時間目、1時間目があって、という順番で戻ってしまったことがある人はいるかな? せっかく勉強したことも全て忘れて、せっかく食べたお昼ご飯も吐き出して、朝に戻ってしまったことがある人はいるかな? もちろん誰もいないよね。
このように、時間割は未来に進むことはできるけど、過去に戻ることはできないんだ。当たり前すぎて誰も気にしないけど、これはとても重要な宇宙全体の性質なんだ。このことを、「時間は逆行できない」というよ。
「後の祭り」ということわざを聞いたことはあるかな? これは、一度何かをしたら、もう後戻りはできない、という意味だよ。「時間は逆行できない」からこそ生まれたことわざなんだ。もし、「時間は逆行できる」だったら、「過去に帰るまでが遠足」なんて変なことわざが生まれたかもね。
でも……もし本当に「時間を逆行できたら」どんなことが起こるんだろう? ……それを、リアルに映画化したのがSF映画『TENET テネット』なんだ!
●リアルタイムに過去に戻るよ!
自分の学校の1年間を想像してみよう。まず4月に一学期が始まって、7月に夏休み、9月に二学期、12月に冬休み、1月に三学期、そして3月で1年が終わるよね。では、4月から3月までにどれくらいの時間をすごしたかわかるかな?答えは、もちろん1年。
では、3月から時間を逆行してみよう。まず3月に三学期、1月に冬休み、12月に二学期、8月に夏休み、7月に一学期、そして4月に戻ってくる。では、3月から4月までにどれくらいの時間を逆行してすごしたかわかるかな? 答えは、やっぱり1年!
1時間前まで時間を逆行するには1時間、1日前まで時間を逆行するには1日間、1年前まで時間を逆行するには1年間かかるんだ。「逆行した時間だけ、リアルタイムに過去に戻る」というのが『TENET テネット』を理解するためのポイントだよ。
●タイムトラベルとは全然違うよ
もう一度、自分の学校の1年間を想像してみよう。4月に新しい学年が始まって、そして3月で1年が終わるよね。でも、やっぱりもう一回同じ学年をやりたいとしたらどうすればいいかな? それは3月から1年前の4月にタイムトラベルで戻ってしまえばいいんだ。タイムトラベルでは過去にワープするのは一瞬で終わるよ。
「時間の逆行とタイムトラベルは全然違う」というのは『TENET テネット』を理解するもう一つのポイントだよ。1年前の過去に戻るには、時間の逆行では1年かかるけど、タイムトラベルでは一瞬だよ。
タイムトラベルするSF映画で一番有名なのは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。これは少し古い映画だけど、傑作なのでぜひ観てみてね。
●自分が何人にも増えちゃう!?
『TENET テネット』の時間の逆行を使うと、ひとつとっても困ったことが起きてしまうんだ。最後にもう一度、自分の学校の1年間を想像してみよう。4月に新しい学年が始まって、そして3月で1年が終わる。ここで、1年前の4月まで時間を逆行して1年間かけて過去に戻ったとするよ。では、君は何人いるかわかるかな? もちろん1人、と思うかもしれないけど違うんだ。なんと、未来に進む順行の君と、過去に戻る逆行の君の2人が同時にいるんだよ!「同じ人が同じ時代に何人もいる」というのが『TENET テネット』を理解する最後のポイントだよ。ここは次回以降、もう少し詳しく解説しよう!
以上の3つのポイントを押さえれば『TENET テネット』を理解することができるぞ! まだ観ていない人はDVDやインターネット配信を使ってぜひ観てみよう!
文