室内の温度・匂い・音など、人間の知覚に関わる環境データを離れたところから非接触で測定し、人間の心の状態を推定できるシステムが開発されました。
開発したのは、千葉大学大学院工学研究院の小室信喜准教授・平井経太准教授と人文科学研究院の一川誠教授の研究グループです。
これまで、人間の体にセンサーを取り付けて、体と心の状態をセンシングするシステムはありましたが、今回開発されたものは非接触で知ることができるため、実際の人間の生活環境における自然なデータを得ることができる点が大きな特徴です。
このセンサーネットワークシステムは、室内に多くの種類のセンサーを設置して室内環境と人間の体の状態を非接触で測定するもの。生体センサーから交感神経と副交感神経のバランスに関する情報を解析することで心の状態を知り、それを室内の環境データと関連づけてビッグデータ解析をします。
心の状態を測定するといっても、心の中で「考えていること」がわかるわけではありません。ここでいう心の状態とは、ストレス度・覚醒度
(興奮状態や集中状態の度合い)・疲労度・快適度など、人間の日常生活における基本的な生体活動を総合的に見たもののことです。
実験は研究室で作業中の教員2名・学生8名の計10名に対して行われました。用いられたセンサーは次のようなものです。人間の知覚に関わる、温度・湿度・照度・照明色・匂い・音などに関するセンサー。ブルーライト・人感・超音波距離計測・CO2濃度・ほこり・気圧などの室内環境情報を得るセンサー。それと、体温や心拍を取得する生体センサーです。
これらセンサーで研究室内の室内情報と生体情報を取得し、個人の心の状態(ストレス・覚醒度・疲労度・快適度等)をAIによって推定しました。
その結果、個人のストレス・覚醒度・疲労度・快適度などの状態を、従来のセンサーを付けて測定する方式と同程度の80%以上の精度で推定できることを確認しました。
この知見は、ストレスの少ない室内環境づくりに役立つと考えられます。働きやすく作業ミスの少ない効率的な職場や学びやすい教室を設計することができるようになるでしょう。
また将来、センサーノード(センサーとネットワークの接点部分)が小型化できれば、個人情報を利用せず、室内環境の情報だけで快適な室内空間をつくることができるのではないかと研究者は考えています。現在、企業や学校において職員や生徒のメンタルヘルスが重要な課題となっていますが、そのような課題を緩和できる可能性を持つ技術といえます。
【論文情報】
タイトル:Predicting individual emotion from perception-based non-contact sensor big data
著者:Nobuyoshi Komuro, Tomoki Hashiguchi, Keita Hirai, Makoto Ichikawa
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-81958-2
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