体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。
今日のお話のテーマは「鼻」です。
鼻はなんのためにある?
あなたの「鼻」は体のどこにありますか? さわってみましょう。
そう。顔のほぼ真ん中に1つありますね。そして鼻の下には2つ孔
があいています。
では、鼻はなんのためにあるのでしょう。そうです、鼻は、においをかぐこと、そして息を吸ったり吐いたりする呼吸を行うためにあるのです。
焼きたてのクッキーやマフィンのにおい、春のそよ風とともに漂うほのかに香るお花のにおい、おいしそうなカレーライスのにおい、それらを感じ取ることができるのは鼻があるおかげです。ですから、鼻があるって、すごく便利です!
もし鼻がなかったら? あなたはにおいをかぐことができません。
では、確かめてみましょう。鼻の孔を指でふさいでみてください。このとき呼吸は口で行ってね。
どう? 鼻の孔をふさいだらにおいがしなくなったでしょ? 鼻から息もできなくなったでしょ? だから、鼻がなかったらとても不便です。
においを感じることとは?
鼻をふさがなくても、あなたがいるその場所に「においの元」がなかったら、何もにおいは感じません。つまり、においの原因となる「においの元」が鼻の中に入ってこないと、においを感じることができないのです。
「においの元」は空気に混じってあなたの鼻の中にある鼻腔という場所に入ってゆく。鼻腔のてっぺんには「においの元」を感じとることができる特殊なセンサー「嗅粘膜(嗅上皮)」という場所があって、そこに「においの元」が触れると、あなたはにおいを感じることができるのです。
風邪をひいたときなどに、鼻が詰まると「においの元」が嗅粘膜に触れることができなくなるから、あなたはにおいがわからなくなる。このとき、鼻で行う呼吸はどうなりますか? もちろん、鼻では呼吸ができません。でも大丈夫です。呼吸は口からもできます。
においの元って何?
においの元って何でしょうか。その正体は、目で見ることはできない空気中をただよう小さな化学物質です。普通に空気を吸うより、くんくんと強く吸った方がにおいを強く感じられますね。これは、においの元の化学物質をたくさん鼻の中に取り入れるからなのです。
鼻をくわしく観察してみよう
では、鏡を使って自分の鼻と鼻の孔をよく見てみましょう。ついでにおうちの人の鼻と比べてみましょう。
鼻の孔の奥に、たくさんの毛が生えているのが見えるかな? これ、鼻毛(はなげ)と普段はいうけれど、正式には鼻毛(びもう)といいます。鼻の孔のさらに奥には、ネバネバした液体(粘液)と線毛とよばれる鼻毛よりさらに細い毛がたくさん生えていて、それらが鼻の奥にある「のど」や、そのまた奥にある「気道」の表面を覆っています。それらのおかげで、吸った空気中に含まれるホコリ、チリ、ばい菌などは体の奥に入っていきにくくなります。
呼吸によって吸った空気はやがて体の中の「肺」というところに入っていくことを考えると、できるだけきれいな空気が入った方がいいと思いませんか? つまり、呼吸のとくに「吸う」動作は口からよりも鼻で行ったほうが、よりきれいな空気を体の中に入れることができるってわけですね。鼻はまるで空気清浄機みたいです。
鼻はきちんとかみましょう
ここで1つ注意です。風邪を引いたときなどに出る「鼻水や鼻汁」は吸い込まないで、きちんとかみましょう。
実は、鼻の奥にある「のど」は、細い通路(「耳管」という)で「耳」とつながっています。ですから、鼻水や鼻汁にまじったばい菌にとっては、のどから耳に移動できる“道”が用意されていることになります。すると、耳の中でばい菌が増えてしまって、「中耳炎」という病気を起こしてしまうことがあるのです。
ですから、鼻水や鼻汁はしっかりかみましょう。ただし、鼻をかむときは、“片方ずつ”、“ゆっくり”、“強くかみすぎない”ように注意しましょう。
鼻のくわしいはたらき
鼻の便利なはたらきのお話をもう少し。
あるときあなたは、腐りかけたあやしい食べ物をくんくんにおう。またあるとき、あなたが路を歩いていると、どこからか嫌なにおいがしてくることに気づいた。そんなときあなたはどうしますか?
そう、変な臭いのするものは食べないし、嫌な臭いがする場所には近づかないよね? 汚いもの、腐っているもののほとんどは嫌な臭いを出すことが多いから、「臭い」とか「なんか変」、「嫌な」においに気づく能力というのは、“体に危ない物を入れないように”というSOSで、つまり体を守る信号となるのです。すごいでしょ、鼻って!
ちょっと余談だけど、みなさん気づきました? 一般に、ニオイはニオイでも嫌な(不快な)においを表すときは「臭い」という漢字が使われます。臭(にお)いは臭(くさ)いとも読むから、わかりやすいですね。
さて、そんな人間の鼻のすばらしい能力だけど、実は世の中にはにおいを嗅ぎわけることの“達人”がいます。達人といっても、人ではなくイヌです。イヌは人の百万倍から一千万倍も鋭い、におう力を持っているようです。訓練された警察犬はそんなイヌのすぐれたにおいの力で、事件の犯人を捜す手がかりを見つけてくれるのです。とても心強い味方だね。あなたがもし犬のペットを飼っていたら、一度かくれんぼをしてみましょう。きっとそのペットは、あなたのにおいをたよりにすぐに見つけてしまうことでしょう。
鼻にまつわることわざ・言い伝え
ここで「鼻」を含んだ言葉を1つ紹介しましょう。
あなたは、「目と鼻の先」という言葉を聞いたことありますか? 目と鼻はおとなりさんの関係、つまりとても近いところにありますね。ですから、とても近い距離にあることを、「目と鼻の先」っていいます。この言葉はとてもよく使われます。
「クレオパトラ(正式な名前は『クレオパトラ7世フィロパトル』)」という人の名前を聞いたことありますか? 昔、パスカルっていう偉い学者さんが書いた「パンセ」という本の中でこんな有名な言葉があります。
“クレオパトラの鼻、それがもっと短かったら、大地の全表面は変わっていただろう”
クレオパトラは、中国の楊貴妃、日本の小野小町にならぶ世界三大美人の一人と言われた絶世の美女です。その理由は鼻の形にあるのだそうです。「クレオパトラ」でインターネットの画像検索をすれば、クレオパトラのいろいろな絵が出てくるので見てみましょう。「鼻筋が通る」という言葉があるように、鼻は美人の一つの象徴になっていたようです。
鼻をほじほじ♪
あなたは鼻クソをとるため鼻をほじほじしますか? くれぐれも鼻のほじほじのし過ぎには注意しましょう。
鼻の孔の入り口から少し入った内側は、細くて弱い血管がたくさん集まる「キーゼルバッハ部位」と呼ばれる場所で、爪などで傷つけるとかんたんに鼻血が出ます。
もちろんほじほじして出てきた鼻くそを食べたりしないでね。ドキッとしたあなた、一度鼻クソを顕微鏡でみてごらん。きっと、ホコリやばい菌をたくさん含んだ“かたまり”が観察できることでしょう。
まとめ
今日のお話をまとめると、鼻は匂いをかぐことと呼吸をするためにある。鼻水や鼻汁は吸い込まず、きっちりかむ。ただし鼻は片方ずつゆっくりかむこと。
いかがでしたか? 「鼻」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? もし、あなたの周りに匂いをかぐことができない、または匂いをかぐ力の不自由な方がいらしたら、あなたの匂いをかぐ力で助けてあげてね。
大切にしましょうね、あなたの「鼻」。
文
(イラスト/齊藤恵)
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