中高層のビルが林立する都市の中心部を流れる風の乱れを、約2メートルという細かな解像度で、リアルタイムシミュレーションをすることに成功しました。都市において放射性物質などの汚染物質の拡がりを予測するのに役立ちます。
都市の空気の流れはとても複雑!
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構システム計算科学センターの小野寺直幸研究副主幹、井戸村泰宏研究主幹、長谷川雄太研究員は、原子力基礎工学研究センターの中山浩成研究副主幹、東京工業大学学術国際情報センターの青木尊之教授、東京大学情報基盤センターの下川辺隆史准教授との共同研究により、幅数メートルの細い路地までも想定した精密なリアルタイム拡散シミュレーションの手法を開発しました。
都市には高層ビルをはじめ、大小さまざまな形のビルが乱立しているため、空気の流れ(風)が複雑な乱流となります。シミュレーションするためには、非常に細かな格子
に分解して計算する必要があります。
しかし、従来の数値流体力学
(CFD)の手法によってリアルタイムで計算しようとすると、計算速度が遅いため数10メートル以上の粗い格子でしか計算できません。
格子というのは、流体力学の計算に用いる基本ユニットで、1つの立方体の形に区切った空間のことです。各格子がそれぞれ隣接する格子にどのような影響を与えていくかを計算して流れの方向・強さ・乱流等を予測します。この格子が小さいほど、精密なシミュレーションができますが、小さくなるほど計算に必要な格子の数が増えますから、高速で計算ができるコンピューターが必要になります。
東京中心部でもリアルタイムでシミュレーション可能に
そこで研究グループは、日本原子力研究所・東工大・東大で共同開発した格子ボルツマン法(空気の粒子などの流体運動の時間による変化を予測する計算手法)を用いた数値流体力学ソフトウエアCityLBMを改良し、計算速度を数10倍以上も高速化して、高解像度のリアルタイム計算を実現しました。
工夫したのは次のような点です。
①格子ボルツマン法をもとにして、流れのスケールに応じて格子の解像度(大きさ)を最適な大きさに変化させたこと。流れの変化の多いところ、つまり計算量が多くなるところは細かな格子で、そうでないところは粗い格子で計算するという手法です。
②画像処理用プロセッサGPUを使ったスーパーコンピューターDGX-2で計算の最適化を行ったこと。
③数キロメートル以上の中規模の気象予測モデルを使って、風況の適切な境界条件を設定したこと。
④建物の形状、および植生モデル(木の高さや熱の収支が気流に影響を与える要素)を設定したこと。
⑤アンサンブル計算といって、初期条件を変えたいくつものシミュレーションを並行して行い、確率論的に最適な答えを見つけ出したこと。
この方式で、4km四方の地域において、約2mの解像度で汚染物質拡散の解析が行えることを実証しました。
突発的な原発事故やテロの場合、実時間よりも速く拡散状況を予測し、人々に伝えて避難させる必要がありますから、リアルタイムを超える超高速シミュレーションの技術は非常に有用です。また、今後活躍が期待される都市空間を飛行するドローンや、空飛ぶクルマの安全飛行にも役立つと考えられています。
【出典】
雑誌名:Boundary-Layer Meteorology
論文題目:Real-Time Tracer Dispersion Simulations in Oklahoma City Using the Locally Mesh-Refined Lattice Boltzmann Method
著者:Naoyuki Onodera1, Yasuhiro Idomura1, Yuta Hasegawa1, Hiromasa Nakayama1, Takashi Shimokawabe2, and Takayuki Aoki3
所属:1日本原子力研究開発機構、2東京大学、3東京工業大学
DOI:10.1007/s10546-020-00594-x
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