連載《人体MAPS》 第2話「心臓」

 体の中には、ふしぎがいっぱい! この連載では、自分の体の中のいろいろな部分をめぐる旅の案内をしていきます。人体の“地図”を手に、一つひとつの部分の役割を知っていけば、もっと自分の体、そしてまわりの人の体を大切にする気持ちがわいてくるでしょう。

みんなと一緒に人体をめぐる旅をするヒュウマとミコト。

 今日のお話のテーマは「心臓(しんぞう)」です。

心臓は体のどこにある?

 あなたの「心臓」は体のどこにありますか? 指で示してみましょう。

 そう。心臓は胸のちょうど真ん中から少し左側に1個ある臓器です。左胸に手をそっと置いて、手の感覚をじっと集中させてください。「トクン、トクン」と手に何やら振動(しんどう)を感じませんか? もし感じにくければ、手を置く場所を少し変えてみると、「トクン、トクン」と手に音が感じられる場所がきっと見つかるはずです。

 もしおうちの人がいたら、おうちの人の胸に耳を当ててごらん。とても大きな、「ドックン、ドックン」の音が聞こえると思う。これが心臓の音ですね。

心臓は胸のほぼ中央で、胸骨という胸の中央にある骨の後ろに位置しています。心臓の左下はやや
とが
っていて(心尖
しんせん
という)、左胸の方に伸びています。心臓の大きさは
にぎ
りこぶしくらいといわれています。

心臓はなんのためにある?

 では、心臓はなんのためにあるのでしょう。

 心臓から「ドックン、ドックン」と音が鳴っているのは、実は、心臓があなたの体の隅々
すみずみ
に血(血液)をがんばって送っている証拠(しょうこ)です。心臓はよく「ポンプのような役割」といわれるのだけど、それは、血液をずっと送り続けるからです。

 私たちの体の中には、とてつもなく多い数の細胞(さいぼう)がいて、その細胞が生きていくために必要な酸素や栄養分は、心臓から送られた血液の中からもらっています。だから、心臓はいつも酸素や栄養分をたっぷり含んだ血液を“すべての細胞”に送り届ける必要があるわけです。

 もし心臓がポンプのはたらきをやめてしまうと、血液は流れません。血液が流れなかったら、あなたの体の中の細胞は生きていけない。だから、心臓ってなくてはならないとても大切な臓器なのです。

心臓の4つのはたらき―ポンプ機能―

 ではここで、少しむずかしいけれど、心臓のポンプとしての役割を大きく“4つ”に分けて説明します。

 1つ目は、すべての細胞に酸素と栄養分を含んだ血液を送り届けること。2つ目は、細胞に酸素と栄養分を送った後の(酸素と栄養分が少なくなった)血液を心臓に戻すこと。3つ目は、その酸素と栄養分が少ない血液を「肺」という別の臓器に送って酸素を満タンにしてもらうこと、4つ目は、酸素が満タンになった血液を再び心臓に戻すこと。

 心臓は、この1つ目から4つ目までの役割を、私たちが起きているときも寝ているときも、ずっと、ずっと休まず()り返します。

心臓の中には4つの部屋があります。つまり、左心房、左心室、右心房、右心室です。右と左の向きに注意してください。あなたから見た側の左右とは逆になっていますよ。
心臓の役割は、ポンプ機能としての大きく4つのはたらきに分けられ、上の4つの部屋がそれらの機能を担当します。左心室は、①すべての細胞に酸素と栄養分を含んだ血液を送り届けるための部屋。右心房は、②細胞に酸素と栄養分を送った後の(酸素と栄養分が少なくなった)血液を心臓に戻すための部屋。右心室は、③その酸素と栄養分が少ない血液を「肺」という別の臓器に送って酸素を満タンにしてもらうための部屋。左心房は、④酸素が満タンになった血液を再び心臓に戻すための部屋です。

心臓からなぜ音がでるのか?

 お医者さんに、胸に聴診器
ちょうしんき
をあててもらったことはあるよね?

 聴診器を使うと、あなたの心臓の「音」がすごくよく聞こえます。幼稚園や小学校でも、健康(けんこう)診断(しんだん)といって、ときどきお医者さんにあなたの心臓の音を聞いてもらうことがあるけれど、あれはあなたの心臓がちゃんと動いていて、血を送り届けられているかどうかを、音を聞いて診察(しんさつ)しているのですね。だから、順番待ちをしているときはお友だちと廊下(ろうか)でおしゃべりしたり、(さわ)いだりせず静かに待ちましょう。

 ところで、心臓からどうして音が出るのでしょう?

 心臓の中には4つの部屋があって、その部屋が大きくなる(ふくらむ)時期と小さくなる(ちぢむ)時期が交互(こうご)に起こります。大きくなる時期を拡張期(かくちょうき)、小さくなる時期を収縮期(しゅうしゅくき)というのだけど、大きくなる時期に血液が入り込み(吸い込む)、小さくなる時期に血液が送り出さ(吐き出さ)れます。

 そういった大きくなったり小さくなったりする心臓の動きに合わせて、心臓の中の「(べん)」という血液の流れのペースを決める“扉”が開いたり閉じたりします。その弁という扉が閉じるときに「音」が鳴るのです。あなたのお家にある扉も閉めると「バタン!」と音がするでしょ? それと同じですね。

 話をもどすと、この弁が閉じたときに出る音が「ドックン、ドックン」や「トクン、トクン」という音の正体(しょうたい)なのですね。

心臓の中には4つの部屋(左心房、左心室、右心房、右心室)があり、それぞれの部屋の出口に血液の流れを決めるための「弁」があります。それぞれ僧帽
そうぼう
大動脈弁、三尖
さんせん
肺動脈
はいどうみゃく

《》
とよびます。心臓が拡張期のときは僧帽弁と三尖弁が開いて血液が左右の心房から左右の心室へ流れます。流れ終わったあと、両方の弁は「バタン!」と閉まる。このとき「ドックン」の「ドッ」の音を出します。心臓はそのあと収縮期に入り、大動脈弁と肺動脈弁が開いて血液が左右の心室からそれぞれ大動脈・肺動脈へと流れていきます。血液が流れ終わったあと、両方の弁が「バタン!」と閉まる。このときに出る音が「ドックン」の「クン」となります。つまり、ドックンの「ドッ」と「クン」はそれぞれ異なる弁の閉まる音なのですね。

こころ(心)の臓器?

 ところで、「心臓」という名前はおもしろいもので、「こころ(心)」+「臓器」と書きます。あなたは普段何も感じない心臓の動きが、いざ緊張するとドキドキと感じるようになったことはありませんか? 心臓は、そんなあなたの心の状態と同じ動きをすることから、昔の人は、心は心臓の中に宿(やど)っているものと考え、「心臓」と名付けたのです。

心臓が動く(拍動する)回数はいくつ?

 では、一度あなたの心臓が1分間に何回トクン、トクンするか、数えてみましょう。ちなみに、この心臓の「トクン、トクン」の動きのことを「拍動(はくどう)鼓動(こどう)」、1分間の拍動の回数のことを「心拍数(しんぱくすう)」といいます。1分間は60秒です。おうちの人に時間をはかってもらって、あなたは心臓の「トクン、トクン」がわかるところに手を置いて、心拍数を数えてみましょう。おうちの人も一緒に自分の心拍数を数えてもらいましょう。

はい、スタート!


 いかがでしたか? 何回拍動したかな?

 人によって、年齢によって、そのときの状況によって心拍数は変わるのだけど、きっと、おうちの人よりもあなたの方が多かったんじゃないかな? 大人は普通、1分間に60~90回拍動します。乳幼児だと、心拍数は大人の数より多くなる傾向があります。

 心臓は生きている限りずっと動き続ける臓器なわけだけど、そうすると心臓って一生で何回拍動するのでしょうか。ちょっと計算してみましょう。1分間に約70回とすると、1時間に4,200回(70×60分)、1日に100,800回(4,200×24時間)、1年で3,650万回(100,000×365日)、人生80年として29億2,000万回(3,650万回×80年)。もう想像もできないくらいたくさん心臓は動くのですね。しかも一度も休まずに。信じられません!

 実際には生まれる前からすでに心臓は動いているし、運動をすると心拍数は増える、ましてや100歳まで生きるとなるともっと増えますね。心臓は超はたらきものでしょ!?

まだある心臓のおどろきのはたらき!

 心臓のおどろきのはたらきはまだあります。

 もしもあなたが全速力で走ったら、きっとあなたの体の細胞は普段よりたくさんの酸素や栄養分(エネルギー源)がいるはず。そこで心臓は心拍数を多くして、細胞にはやく、そしてたくさんの酸素や栄養分がいきわたるようにペースをあげます。そしてあなたが走るのをやめると、再び心拍数がもとに戻る。だから、心臓はあなたの体の状態に合わせて心拍数を多くしたり、少なくしたりするなど、その数を調節(コントロール)できるのです。

 心臓ってほんとうにスゴイよね!

まとめ

 今日のお話をまとめると、心臓の役割は、4つのポンプとしてのはたらきをもとに、血液をすべての細胞に送り届けること。心臓の音は、心臓の中にある「弁」が閉じるときに出る音。心臓は、あなたの体の運動状態や心の状態などに合わせて心拍数を変えることができる。

 いかがでしたか? 「心臓」はあなたの体の中の大切な場所だということがわかりましたか? 大切にしましょうね、あなたの「心臓」。

川畑龍史 著者の記事一覧

大阪大学大学院医学系研究科修了 博士(医学)。国立長寿医療センター(研究所)にて慢性腎不全の病態研究に従事。現在、名古屋文理大学短期大学部食物栄養学科准教授、愛知学院大学心身科学部客員研究員。主な担当科目は、自然科学、生物学、解剖生理学、生化学、病態生理学、病態治療論。主な著書:『人体の中の自然科学』(東京教学社)、『解剖生理学実験』(東京教学社)、『なんでやねん!根拠がわかる解剖学・生理学 要点50』(メディカ出版)、『ほんまかいな!根拠がわかる解剖学・生理学 要点39』(メディカ出版)、『イカのからだの不思議発見』(文芸社)など

(イラスト/齊藤恵)

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