『子供の科学』誌で「錯覚道
」を好評連載中の錯覚道師範・杉原厚吉
先生に、さらに詳しくふしぎな錯覚のひみつを紹介してもらおう。今回紹介するのは、杉原先生がつくった代表的な錯視の1つ。誌面では紹介できない動画での驚きを体験してほしい。
反重力すべり台の基本的なしかけは?
立体自体はありきたりの形に見えるのに、そこに動きを加えると物理法則に反したあり得ない働きが生じていると感じる新しい錯視を起こすことができる。これは「不可能モーション」の錯視と呼ぶことができよう。
この不可能モーション錯視の代表的なクラスに、重力に反して球が斜面を転がりながら登っていくよう見えるものがある。
このクラスは、とくに「反重力すべり台」と呼ぶことができよう。その基本形を下の図に示す。
斜面の傾きを逆向きに知覚する理由は、斜面を支える柱にあると考えられる。錯視の起こる視点から見たとき、これらの柱は平行で上下方向にのびて見える。
このような柱を見たとき、脳は柱が垂直に立っていると解釈し、長い柱ほど高いところを支えていると推論して、斜面の向きを判断していると考えられる。
実際には、柱は斜めに立っており、長く見えるからといって高いところを支えているわけではない。すなわち柱の見かけの長さがトリックとして使われている。
驚きのトリックを動画で見てみよう!
このトリックによってつくった反重力すべり台のいくつかの例を示していこう。
反重力三連すべり台
「反重力三連すべり台」。球は、三つの斜面を次々に飛び移って登っていくように見える。
反重力ジグザグすべり台
「反重力ジグザグすべり台」。エッシャーの「滝」(1960)に描かれている水路の構造をまねてつくったものである。
二つのV字道路
「二つのV字道路」。どちらの斜面に載せた球も、V字の底を通り過ぎて坂を登っていくように見える。
なんでも吸引四方向すべり台
「なんでも吸引四方向すべり台」。四つの斜面に置いた球はどれも中央の最も高いところへ向かって登って行くように見える。この錯視は、2010 年のベスト錯覚コンテスト(フロリダ)で優勝した。
反重力すべり台をつくるポイント
普通の斜面を投影した絵を描き、その絵を投影図にもつ立体の中から、斜面の向きが逆のものを取り出せばよい(杉原、2011)。
これには数学の知識があったほうがつくりやすいが、その知識がなくてもある程度はつくれる。コツは、錯視の起こる視点から見たとき、斜面を支える柱がすべて同じ方向を向いて見えるようにつくることである。実際には、柱の見かけの向きを変えないように奥か手前に傾け、高いところを支えている柱が、低いところを支えている柱より、短く見えるようにすればよい。
古今東西の錯視を集めた図鑑も!
今回の記事の内容は、書籍『新 錯視図鑑』をもとに構成している。杉原先生が「面白い!」と思う錯視を集め、錯視が起きるしくみから、それが身のまわりにどのように現れているか、同じような錯視図形を自分でもつくろうとしたらどんなことに注意したらよいかまで紹介した1冊だ。世界錯覚コンテストで優勝した杉原先生自身がつくった錯視も登場する。
ぜひこの本で、脳がだまされるふしぎを体感しよう!
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新 錯視図鑑
脳がだまされる奇妙な世界を楽しむ・解き明かす・つくりだす
錯視研究の第一人者・明治大学の杉原厚吉教授が、古今東西のおもしろい錯覚を選び、解説を加えて図鑑としてまとめました。大きさが違って見えるもの、形がへんに見えるもの、明るさが変わるもの、止まっているはずが動いて見えるものなど、脳がだまされる不思議を体感できる作品を広く集めわかりやすく解説。日常生活と錯視との関係、錯視効果を強くする実験、しくみを解き明かす研究、解明したしくみを応用して錯視作品を創出するプロセスなど、著者ならではの解説で、世界中の錯覚作品をより深く楽しむことができます。
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