2020年度から小学校でプログラミングが必修になるなど、プログラミング教育に力が入れられていますのはご存知の通りです。日常のさまざまなものがインターネットにつながり、ほとんどすべてのモノやサービスがソフトウエアで制御されるようになっている中、プログラミング的な思考ができる人材が求められるようになっているからです。読者の中には、プログラミングが上手くなりたい、将来はプログラマーになりたいと思っている人も多いでしょう。
しかしプログラミングは、論理的に思考できれば上達するというものではなく、人によって得意不得意があります。どのような教育法がプログラミングの上達に適しているか、さまざまな試みが行われています。
fMRIを使ってプログラムを理解するときの脳を調べる
奈良先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科の幾谷吉晴氏(博士後期課程3年)・久保孝富特任准教授らは、情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合センターの西本伸志主任研究員、および西田知史主任研究員との共同研究により、コンピュータープログラムを理解する能力と脳活動の関連性を明らかにしました。この研究成果が、より効率のよいプログラミング学習法の開発につながるのではないかと注目を集めています。
研究チームは、fMRI(機能的磁気共鳴映像装置)という、脳のどの部分の活動が活発になっているかを、血流とそれがおよぼす反応から計測・可視化する装置を用いて、プログラミング初心者から上級者まで30名の被験者がプログラムを理解しようとしているとき、脳活動がどのようになっているかを調べました。
実験には、コンテスト形式で行われる競技プログラミングの能力評価を活用。世界最大のプログラミングコンテストサイトの1つである「AtCoder」の能力により、上位20%に属する上級者10名、21-50%に位置する中級者10名、初心者10名を被験者としました。
被験者は、プログラミング言語Javaで書かれたプログラムの一部を読解し、それがどのような機能を持ったプログラムかを推定します。このときの脳活動をfMRIで計測。このときに利用したのは、計測した脳活動のデータから被験者が感じたこと、考えたことを読みだす脳情報デコーディング技術です。
プログラミングが上手い人の脳
実験の結果、大脳皮質の前頭葉・頭頂葉・側頭葉にわたる複数の領域の活動と、プログラムの理解力が関係していることがわかりました。
高いプログラミング能力を持った人ほど課題の正答率が高く、脳の活動領域の分布は図に示した特定の部分がよく活動していました。プログラムの理解能力の高さと、この脳の活動領域が関係していると考えられます。高いプログラミング能力を持つ人は、脳がプログラムの内容をうまくとらえられるように機能しているのではないか、と研究者は推定しています。
プログラミング能力と脳活動の詳細な関連がわかったことで、プログラミング教育の質を上げることができ、多くの優秀なIT人材の育成ができると期待されます。みなさんも今後、脳の活動に合わせた科学的なプログラミング学習で、ぐんぐん上達できるようになるかもしれませんね。
【出典】
論文タイトル Expert programmers have fine-tuned cortical representations of source code
著者 Yoshiharu Ikutani 1, Takatomi Kubo 1, Satoshi Nishida 2, Hideaki Hata 1, Kenichi Matsumoto 1, Kazushi Ikeda 1, Shinji Nishimoto 2
1 奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 情報科学領域
2 国立研究開発法人情報通信研究機構 (NICT) 脳情報通信融合研究センター (CiNet)
掲載雑誌 eNeuro
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