冬休みはお家で銀河を巡る旅に出ない? 国立天文台の「ギャラクシークルーズ」で銀河を分類しよう

 お家で過ごすことが多くなる今年の冬休み。お家時間を利用して、銀河を巡る旅に出かけませんか?

 国立天文台が2019年11月にスタートさせた「GALAXY CRUISE(ギャラクシークルーズ)」は、米国ハワイのマウナケア山頂にある日本の「すばる望遠鏡」が観測した銀河に関するデータにインターネットでアクセスして、天文学者の研究をサポートする活動です。お家にいながら、銀河を巡る旅に出かけることができて、しかも天文学の進歩に貢献できちゃうのです!

GALAXY CRUISEにアクセスしよう

 さあ、さっそく国立天文台のGALAXY CRUISEのページ(https://galaxycruise.mtk.nao.ac.jp)にアクセスしてみましょう。

GALAXY CRUISEのTOPページ

 GALAXY CRUISEの参加者は、銀河が広がる宇宙を船に乗ってクルーズする様子になぞらえて、「乗組員
のりくみいん
」と呼ばれます。乗組員は、広大な宇宙を自由に巡りながら、銀河の形状を分類するミッションを行っていきます。

 乗組員として銀河の旅に出る前に、まずは科学活動に貢献
こうけん
できるよう事前に銀河を分類するトレーニングを受けます。

銀河を分類するトレーニング画面。

 3つのステージをクリアして、乗船許可証を入手したら、いよいよ銀河旅行に出発です!

銀河の形状を分類せよ!

 乗組員には銀河の形状を判定するミッションが与えられます。すばる望遠鏡が撮影した画像に写っている一つひとつの銀河を、画面上で確認して分類していきます。

ログイン後に表示される宇宙の画像。GALAXY CRUISEのページは重たい観測データを円滑に表示させる工夫が凝らされ、マウスで自在に操作できます。

 判定するのは、(1)銀河のタイプ(渦巻
うずまき
銀河/楕円
だえん
銀河/どちらでもない)、(2)衝突
しょうとつ
している/衝突していない/どちらでもない、(3)衝突形状の特徴(リング/おうぎ/しっぽ/ゆがみ)――の3つ。

 乗組員にとっては最新の科学データに触れることができ、天文学者にとっては膨大
ぼうだい
なデータの解析結果が得られ研究が進むメリットがあります。

「市民天文学」とは?

 GALAXY CRUISEは、国立天文台が進める「市民天文学」のプロジェクトです。「市民天文学」という言葉は国立天文台がつくった造語で、元々は「市民科学」(シティズンサイエンス)と呼ばれる活動があり、天文学を対象にして取り組むことから名づけられました。

 市民科学は、科学者ではない一般市民が科学的活動に参加して、何らかの知的成果を生み出そうという取り組みです。海外ではどんどん進んでいて、日本ではオンラインで古文書を読み解いて歴史研究に役立てる「みんなで翻刻
ほんこく
」(https://honkoku.org)という活動などが知られてます。

みんなで翻刻のTOPページ

 研究活動をより開かれたものにするオープンサイエンスの一環といえますが、オープンサイエンスは研究者が国費(税金)を使って研究を進める上で納税者の理解を得ようとして科学成果を提供する一方向の活動という色彩が強いものでした。シティズンサイエンスは、科学者と市民が協力しあう相互の関係性があるのが大きな違いです。

 コロナ
によってライフスタイルが大きく変わるなど社会変革が進む中で、科学研究もこれからは新たな手法で進められる時代になるのかもしれません。

すでに1万個の銀河を分類した猛者も!

 GALAXY CRUISEの登録者数は、スタートから2週間ほどで1000人を超えました。2020年はコロナ禍の影響もあって参加者が増え続け、学校が休校になった3月には2500人に達しました。2020年12月1日現在、5779人が登録しています。

 乗組員は日本だけでなく、ロシアから304人、米国から252人など80の国と地域が参加しています。日本人の乗組員の年齢層は、40代が15%、50代が18%、60代が12%と天文や宇宙が好きな大人が多く参加していますが、10代が20%、20代が14%と若者の乗組員も多く、幅広い年齢層が参加するプロジェクトとなっています。

 乗組員ごとの銀河の分類数を見てみると、全体の51%の人が1個から49個の分類を行ったライトユーザーですが、なんと1万個以上を分類した猛者が8人もいます! また、ユニークな形をした銀河が報告されるなど、想定外の成果も得られています。

市民科学の力で機械学習の教師データを作成

 そもそも、なぜ銀河形状の分類をする必要があるのでしょうか?

 銀河は衝突・合体を繰り返して成長してきたと考えられていますが、その実態はよくわかっていません。衝突・合体の頻度
ひんど
や銀河成長との関係、爆発的な星形成が起こるのか、中心の超巨大ブラックホールの活動は活発になるのか……膨大な数の銀河の形状を調べていくことで、統計上の傾向を見出すことができるかもしれません。ひいては、宇宙の進化を解き明かすことにつながる可能性も出てくるのです 。

 銀河のような膨大なデータを扱うときには、人工知能の機械学習でコンピューターに画像を認識させた上で、銀河を分類する方法が有効です。しかしそのためには、コンピューターに銀河の形状と、どんな画像をどのように分類するのかを教える「教師データ」が必要になります。

 この教師データをつくる作業を担っているのが、実はGALAXY CRUISEの乗組員なのです。現在のGALAXY CRUISEはシーズン1の段階にあり、2021年度から新たなシーズン2が始まる予定です。教師データを組み入れた分類も始まるようです。

 この年末年始には、「1カ月で1000個分類しようキャンペーン」を実施中です! ぜひキミも乗組員になって、不思議な銀河の世界をのぞいてみてください。天文学の進歩に貢献できるチャンスです。

川巻獏 著者の記事一覧

サイエンスライター。1960年、神奈川県出身。東京工業大学理学部卒。新聞社科学記者を経て、川巻獏のペンネームで執筆活動をしている。自然科学からテクノロジーまで幅広い分野をカバー。宇宙・天文学分野を中心に活動している。

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