畑など野外で正確な気温測定するときに、普通の温度計を野外にそのまま置いておくと、日射の影響で温度計の計測センサーの部分が温まり、実際よりも高い気温が測定されてしまいます。
野外で気温を正確に測るには、太陽の日射による昇温
を避けるための日よけでおおったり、熱がこもらないように適度に風を通したりする必要がありました。例えば、百葉箱
はそのためにつくられた観測設備です。また、温度センサーが温まらないように通風機能を持たせようとすると、送電設備といった大掛かりな装置が必要になってきます。
そこで農研機構
は、農地のどこにでも、そのまま設置して気温を正確に測定できる「三球温度計
」を考案しました。
熱収支の理論に基づき開発!
この温度計は、球体の熱収支
(熱を吸収することと放射
すること)の理論に基づいており、大きさの異なる複数の小さな球体の温度差から正確な気温を計算するものです。
農研機構の研究グループは、球体と大気の間で行われる熱交換、及び球表面の熱収支の理論を基に、球形をした小型温度センサーで測定された温度と実際の気温の差が、球の直径の累乗
(同一の数字を次々に掛け合わせること)に比例する性質があることに着目。
球形センサーは体積が大きいほど日射で温まりやすいため、実際の気温よりも高い温度を示します。風や日射の条件が等しいと仮定すると、温まり方は球の大きさ(直径)のみに左右されます。ですから、大きさが違う複数の球形のセンサーを円環状
に配置し、それぞれのセンサーの温まり具合を見積もることで、その差を差し引いて実際の気温を求めることができると考えました。
実験でわかった球形の大きさの最適な組み合わせ
研究グループは野外実験を繰り返して、さまざまな大きさの球形の組み合せを調べたところ、直径が「1対4対16」の比となる、0.25mm、1mm、4mmの3種類の球形センサーを組み合わせたときが、もっとも実際の気温との差が小さくなることをつきとめました。
センサーには、熱電対
(異なる種類の金属を貼り合わせ温度の変化を電圧の変化に変えるデバイス)とステンレス球を用い、さらに球部以外からの伝導による熱の影響を避けるためにクランク状の支柱を採用しています。
季節を通した野外実験の結果、三球温度計の精度は平均して0.2℃以内であることが確認されました。また三球温度計は、マイナス3℃から34℃といった広範囲にわたって計測値が基準温度計の値とよく一致することも確認されました。
この三球温度計は、最初は農業試験場や大学で利用される予定ですが、将来は、農作物栽培用のハウスや畜舎の温度管理などで活用されるといいます。また、構造物や人体周辺の気温を、周囲の温度環境に影響を与えることなく測定できますから、熱中症などの病気の研究や対策にも役立つのではないかと考えられています。
【出典】
Maruyama, A., Matsumoto, Y., & Nakagawa, H. (2020). Multiple-globe thermometer for measuring the air temperature without an aspirated radiation shield. Agricultural and Forest Meteorology 292, 108028.
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