草やぶを枯らす!?
ヤブカラシという草の名前を聞いたことあるだろうか。そこらへんの草やぶにおおいかぶさって、草やぶを枯らしてしまいそうに見えることから、その名前がつけられた。やぶを枯らす草で「やぶ枯らし」というわけだ。また荒れ果てて貧乏くさくなったような場所に生えるイメージがあるためビンボウカズラというかわいそうな名前で呼ばれることもある。
とはいえ別に貧乏くさいところを選んで生えているわけではない。身近な場所のどこにでも生えているつる草で、みんなの家のまわりにもたくさんある。名前のもとになったように、その辺の草やぶにおおいかぶさっているものもあれば、道ばたのフェンスや植え込みに絡みつくように育っているものもある。まずはヤブカラシを探してみよう。そしてそれを観察してみよう。
ヤブカラシってどんな植物?
ヤブカラシ 学名 Causonis japonica
ヤブカラシはブドウ科ヤブカラシ属の多年草で、道ばたや野原、河川敷など、身近な場所にたくさん生えている。ほぼ全国的に見られるけど、北海道の一部など、生えていない地域もある。茎はつるになって、あちこちに絡まったり、おおいかぶさったりしながら長くのびていく。また地下茎を横に長くはりめぐらせ、それでどんどん広がっていく。 葉はふつう5枚の小さな葉(小葉)からなるが、小葉の枚数は多少変動して、6~7枚くらいつくものもある。
花は夏から秋にかけて咲き、小さな花が平たく集まるようにつく。果実は球形で光沢があり、熟すと黒くなる。ただし果実のできる株と、できない株があり、できない株の方が多いんだ。特に東日本では、果実のできる株はほとんどないんだよ。
ヤブカラシの「巻きひげ」を見てみよう
今回お話を聞いた斎木健一先生(千葉県立中央博物館)によると、ヤブカラシで観察するとおもしろいのは「巻きひげ」とのこと。
ヤブカラシの茎はやわらかく、つるになって何mものびていく。実際に生えている様子を観察すると、フェンスに絡みつくように生えていたり、草やぶをおおったりしている姿をよく見かけるよ。その生えかたはアサガオがつるをまきつけながらのびていくすがたによく似ているね。
でもヤブカラシのつるそのものは、アサガオのように巻きつくことはしないんだ。実際にヤブカラシのつるをたどって観察してみよう。何かに巻きついたりせず、まっすぐにのびているのが分かるよ。
ではどのようにして自分のからだを支えているのかな?
そのキーワードになるのが「巻きひげ」だ。ヤブカラシは葉とは別に、巻きひげを出す。巻きひげを使ってからだを固定させながら、上へ上へとよじ登るように茎をのばしていくんだ。
巻きひげを出す植物は、ヤブカラシのほかにも、カラスノエンドウやヘチマなどがある。巻きひげには茎が変化してできた茎巻きひげと、葉が変化してできた葉巻きひげがあり、ヤブカラシのそれは茎巻きひげだ。
巻きひげは巻きつくのにちょうど良いものを見つけると、そこにぐるぐると巻きついて、自分のからだを固定させる。さらにぐるぐるとバネのように巻いて、衝撃をやわらげるクッションのような役割も果たしている。
この巻きひげを観察するためポイントを斎木先生に教えてもらった。
①巻きひげの様子を見てみよう
まずヤブカラシの巻きひげはどこから出ていて、どんな形をしているのか、巻きひげの様子を見てみよう。また長さを測ってみるのもいいね。
②巻きひげが巻きつきやすいのは何だろう?
ヤブカラシの巻きひげが巻きつきやすい植物やモノにはどんなのがあるのかな。研究によるとヤブカラシは同じヤブカラシには巻きつかないと言われているよ。これが本当かどうかも確認してみよう。あとは、どのくらい先のものまで巻きつけるのか、そして巻きつくものが無いときはどうなるのかも気になるところだね。
③巻きつき方に決まりがあるかどうか見てみよう
それから巻きつき方も観察してみよう。巻きつき方には何か決まりはあるのかな。それとも特に決まりはないのかな。
巻きひげのバネのようになった部分は、じつは途中で巻きの向きが変わっているんだ。それを自分の目でも確かめてみよう。またどうして巻きの向きが変わっているのだろうか。それを考えてみよう。
斎木先生からのアドバイス 花に来る昆虫を調べよう
斎木先生からは、ヤブカラシそのものの観察以外にもアドバイスをいただいた。それは、花にやってくる昆虫を観察すること。
ヤブカラシの花は真ん中にオレンジ色の花盤があり、その外側に4枚の黄緑色の花びらがついている。花びらはわりとすぐに散ってしまうが、真ん中の花盤はしばらく残る。この花盤からは蜜がたっぷり出ている。チョウやハチなど、花の蜜が好きな昆虫が次から次へとやってくる。
そのためヤブカラシの花にやってくる昆虫を記録していくとおもしろい発見があるかもしれないよ。やってきた昆虫を写真とともに記録し、名前を調べてみよう。また天気や時間によって昆虫の種類にちがいは見られるかな。
アシナガバチやスズメバチの仲間のように、ハチの中には刺す種類もあるので気をつけよう。ただし花の蜜を吸っているハチについては必要以上に怖がらなくて大丈夫だ。つかまえたり、手で追いはらったりするなど、刺激を与えないかぎりまず刺してくることはない。少し離れたところから静かに観察しよう。
取材協力/斎木健一(千葉県立中央博物館)
取材・文/岩槻秀明
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